稲川淳二の『つぶやき怪談』(2018.02.25)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、歩き出した。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

やってくると、ここはフェンスに囲まれた広い、 グラウンドのようなところなんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、その向こうに赤松の林が見える。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そのまま行くと、やがて、赤松の林とこのグラウンドの境目に、 道が１本あるのを見つけたんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

車１台が通れるぐらいの狭い道なんですが、舗装されてないところを見ると、 恐らく、私道なんでしょうねえ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、見たところ、 この道は、グラウンドの向こうまで、 通り抜けられるんじゃないかなと思えた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

だとしたら、自分の別荘まで大分近道ができるんで、 行ってみようと思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、入っていくと、フェンスのところに、パネルが下がっていて 「一方通行」とあって矢印が書いてある。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうだろうなぁ。 この道じゃ、車がすれ違うことできないもんなぁと思って歩いていくと、 ん……赤松の林の中、軽自動車が止まってる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

距離が近付くと、それは、雑草に埋もれた放置車なんですね。 前方から助手席にかけて、グシャッと潰れてる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

へぇ？　こんなところで交通事故があったのかな。 でも何だって車、置いたままになってんだろう？

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、少しの間、それを眺めてから、また歩き始めると、 　突然大きな声が聞こえてきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

何だろう？……と思って歩いてると、 前方の薄闇の中を、女が一人、歩いてる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それも、何だか大きな声でしゃべってる。 あぁ、携帯電話か。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それにしたって、随分大きな声だよなぁ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

人に聞かれて恥ずかしいと思わないのかなぁと思ったんですが、 まぁ、こんな寂しい所だし、あたりは薄闇に包まれてますからねぇ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

心細いんで携帯電話をかけて、大声でしゃべってんでしょう。 　そのうちに、だんだん、だんだん、女との距離が狭まってきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、あれ？　そうじゃない。 女は、両手を振って歩いてる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

携帯電話じゃない。 女は道の左側に寄って、自分の右側に向かって大声でしゃべってる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

何だ？……いるのは女１人なんですが、 自分の右手の薄闇に向かって、何だか一生懸命大声でしゃべってる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それに何を言ってるのかがわからない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

外国語でもないようだし。 これは何だ？　おかしいな、こいつ……

稲川淳二 @Junji_Inagawa

気持ち悪いなぁ、やだなぁ、こんな女の後ついてくのと思った。 そうだ、追い越しちゃおう。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

女は、道の左はしを歩いてますからね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

和田さん、右手から追い越そうとすると、 女は右手に向かって大声でしゃべってるんで、 その瞬間、ちょうど和田さんに声をかけるかたちになった。