ポッシブル・ドミネイション #1
◇タキはヤバイし、スーサイドとコトブキ達が居る<筋>では今まさにソウカイヤと過冬のモメ事が始まろうとしているし、かつてニンジャスレイヤーであった男フジキド・ケンジは探偵シキベ・タカコとともにシトカに来ようとしているし、もう大変!さあ、本編が始まる。じきにスリケンマークが飛ぶぞ!◇
2018-03-21 22:16:12「裸がお好き?」「あン?」タキは顔をしかめ、モニタから顔を上げた。「あれ?」周囲を見渡した。それから頭上を。黄金の立方体がゆっくりと自転している。タキは目をぱちくりさせた。……「裸が。お好き?」タキは声の方向を見た。電子裸体が挑発的に己の身体に指を這わせ、微笑んだ。 1
2018-03-21 22:28:57「ドーモ。サキュバスです」「……」タキは顔をしかめ、電子裸体の周囲を舞う0と1のノイズを透かして、その詳細を見極めようとした。「もうちょい……もうちょい」確かにその女の名はサキュバスだとわかるし、ワイズマンという名称も、ついてきた。 2
2018-03-21 22:31:30「ダメよ、そんなに急いだら」サキュバスは電子的に身をかわした。「ちゃんと触れるのよ」「触れるのか?」タキは目を剥いた。「スゲェ。いや違うだろ。いきなり現れてテメェ……オレをあまり侮るなよ」「……」サキュバスは目を細めた。タキは舌打ちした。「まずはホットな衣装だろ」 3
2018-03-21 22:40:09「あら」「セッティングが大事だ。オレは厳しい。チアリーダーがいい」タキは強く出た。頭上に輝く黄金立方体は気にしないことにした。このサキュバスとかいうアカウントをモノにして……ガッツリいく。情報をバッチリ頂く。つまり、IPとか……「本当に見せるんだろうな。全部だぞ。最終的には」 4
2018-03-21 22:43:52「欲しがりさんなのね」サキュバスは蠱惑的に微笑んだ。タキは顔を近づけ、サキュバスのチアリーダー・コスチュームを様々な角度から観察した。「ンンー、これは……あ、そうだ!何か足りねえと思ったんだ。洗車だ。洗車をやってくれよ」「洗車?」「泡まみれになるんだ!」「アーララ……」 5
2018-03-21 22:46:20電子ノイズが走ると、タキとサキュバスはガス・スタンドに立っていた。ひゅう、とタキは口笛を吹いた。「マジでなんでも望みが叶うッてわけか」「最先端よ!」サキュバスが頷いた。タキは電子唾を飲んだ。「オレはまだ満足しない。その……二人に増えたりしてくれないか?お前が二人になって、泡で」6
2018-03-21 22:49:45「注文が多いお客さん、好きよ」サキュバスは二人に増え、クルマのボンネットを泡でいっぱいにした。黄金の立方体の暑い日差し……電子の泡、電子のシャワー……ホットだ。タキはたまらなくなり、電子衣類を脱ぎ捨てて、ダイブし010011スケベ・ドミネイター。UNIXモニタに凶悪なカタカナが乱舞した。7
2018-03-21 22:54:36「スケベ・ドミネイター」ニンジャスレイヤーは眉根を寄せ、呟いた。荷箱を投げつけるカエルとウサギのアニメーションが不自然に停止し、蛍光黄緑の色合いがささくれた。ニンジャスレイヤーは不審に思い、キーを繰り返しヒットした。UNIXは反応しない。「どうした」タキに呼びかける。応答が無い。8
2018-03-21 22:57:31スケベ。ドミネイター。凶悪なカタカナが大写しになる。嘲笑うように。「これは……!」タキがオンラインでデータにアクセスした途端にこの状態となった。正常な処理とは思えぬ。なんらかの攻撃を受けたか?「聞こえるか!」ニンジャスレイヤーは繰り返しキーをヒットした。反応無し! 9
2018-03-21 23:01:12「ooOOOoooOoo」UNIXデッキのスピーカーから呻き声が漏れた。「これは!」ニンジャスレイヤーはモニタを覗き込む。「ooOoooOO」モザイク状のノイズが亡霊じみた苦悶の顔を形成する。「OooOoマズイOooOッたOOooooOタスケテ」「クソッ!」ニンジャスレイヤーは状況判断を試みる。 10
2018-03-21 23:05:22LANケーブルだ!彼はケーブルを掴み、引き抜こうとした。だが思い留まる。今のタキはどんな状態だ?確かめぬままに極端な行動を取れば、何らかのニューロン損傷につながるのではないか?「ビロリロリロ、ビロリロリロ」危険なノイズ音がスピーカーから溢れる。この工場が割れる可能性もある! 11
2018-03-21 23:08:12(応答しろ)ニンジャスレイヤーは己のニューロンに強く念じ、タキに対するIRC通信を執拗にコールした。もはやタキが攻撃を受けている事は明白だ。(応答しろ。聞こえるか!)『OOoooOo』IPの感触があった。ニンジャスレイヤーは蜘蛛糸じみたその他者の感覚を手繰り寄せようとした。『……』 12
2018-03-21 23:11:52「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはタキの頭を掴もうとした。「違う」その者はニンジャスレイヤーの腕を掴み、止めた。そして彼をじっと見た。「俺だ、ニンジャスレイヤー=サン」「……シルバーキー=サンだと?」ニンジャスレイヤーは我に返った。頭上に黄金の立方体が自転している。「ここは」 13
2018-03-21 23:14:49銀の浜辺だ。アグラするシルバーキーの傍らにはブードゥー儀式じみて集められた49本の蝋燭がある。シトカ脱出を失敗したときに見たのと同じヴィジョンだ。既にその1割程度の火が消えていた。然り。急がねばならない。この火が絶えたとき、シルバーキーが消滅するであろうことは想像に難くない。 14
2018-03-21 23:19:37「何故ここに」ニンジャスレイヤーは尋ねた。シルバーキーは片眉を上げた。「ここ?ここは俺のローカルコトダマ空間だ。ここをハブにして、お前さんのニューロンに繋げてる。……呼び声が聞こえたからな」「タキだ」ニンジャスレイヤーは言った。「恐らく過冬のハッカーに捕まった。まずい状況だ」15
2018-03-21 23:23:21「タキ?例の情報屋だな」シルバーキーは呟いた。「しかしお前、派手に始めたようだが……」「わかるのか」「漠然とした様相は "観測" できる。いいかお前、シンウインターは……」「他に手段はないぞ」ニンジャスレイヤーは議論を打ち切った。シルバーキーも苦々しく首を振る。わかってはいるのだ。16
2018-03-21 23:30:29「ハッカーにやられているならハッカーが必要だ。素人に出来る事はない」シルバーキーは言った。「……ないんだが、まあやってみるか」そして立ち上がった。「お前はニューロンを使ってIRC通信を確立してる。特異だぞ。わかっていてやっているか?」「いや」「だろうな。とにかく、それを利用する」17
2018-03-21 23:33:47シルバーキーは手ぶりを交えた。「お前はローカルコトダマ空間をグローバルに接続、そこから他者のIPにリンクして通信を確立させている。まあ、理論上は可能だ。俺のジツはその極地みたいなものだしな。インターネットも人間のニューロンも、要はオヒガン……説明は省く。お前をタキのUNIXに導くぞ」18
2018-03-21 23:40:35シルバーキーは祭司じみて天に両手を掲げた。夜空を埋め尽くす星が、観測所の定点カメラ早回し映像めいて高速で旋回する。その星のどれかがタキのIPを示しているのだろうか。「繋げられるか」ニンジャスレイヤーは尋ねた。「ああ」シルバーキーは頷いた。「だが、そこからは力仕事だぞ」 19
2018-03-21 23:44:50「何をやる」「そうだな……昔取った杵柄みたいなものだが……遠隔治療ときた。ちょっとキツイかもな。いや、こっちの話」シルバーキーは謎めいて呟いた。「タキ=サンが "喰らって" いるのなら、割って入って、その影響を断ち切ってやるんだ」「そうか」「見つけた。行くぞ」星の一つが強く輝いた。20
2018-03-21 23:48:54シルバーキーはこめかみに指を当て、もう一方の手でマスラダの肩を押さえた。「お前は俺についてくればいい。息を吸うぞ」シルバーキーが促した。マスラダの視界を0と1のノイズが覆う……! 21
2018-03-21 23:52:32