〜世界名作劇場〜『レズドリンク売りの少女』 著:ハンス・クリスチャン・アンアンデルセン

全米が泣いた
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じょう @jou110

〜〜世界名作劇場〜〜 『レズドリンク売りの少女』 ハンス・クリスチャン・アンアンデルセン著

2018-03-28 12:11:41
じょう @jou110

「レズドリンクはいりませんか?レズドリンクはいりませんか?」 寒空の下に少女の声が響きます。少女の手にはカゴいっぱいのレズドリンク。重さと寒さに耐えかね、少女の腕は赤く、そして青くなっています。 「レズドリンクはいりませんか?レズドリンクはいりませんか?」

2018-03-28 12:14:27
じょう @jou110

ですが道行く全裸中年男性達はレズドリンクを買おうとはしません。立ち止まることさえありません。ホモだからです。 「ああ、どうしましょう、これが売れなければ帰っても家に入れてもらえないわ」 少女は途方に暮れます。そして身を苛む寒さに耐えかね、路地裏に入り風をしのぐことにしました。

2018-03-28 12:16:40
じょう @jou110

路地裏に入ると、少しは風は和らぎましたが、薄暗く湿った雰囲気が少女の心をより暗くしました。 「ああ、寒いわ……少しでも温まるものが欲しい」 少女が視線を落とすと、カゴに書かれた宣伝文句が目に入りました。 “ああ、待って!このドリンクはホットな夜を過ごすレズの飲み物よ!”

2018-03-28 12:21:42
じょう @jou110

「一本だけ、少し温まるだけでいいの」 寒さに耐えかねた少女はカゴから一本のレズドリンクを取り出すと、蓋を開け飲み干しました。 するとどうでしょう、路地裏の家の壁が透け、中に誰かが居るのが見えました。 中ではホットな美女が向かい合い座っています。

2018-03-28 12:25:05
じょう @jou110

「まあ!」 少女はかぶりつくように家の壁にすがりつきました。 やがて2人の美女は立ち上がりお互いのブラのホックに手をかけます。 「まあ!!」 少女が目を見開いた瞬間、壁は元どおりの冷たい色を取り戻し、美女の姿は見えなくなってしまいました。 「ああ!」 少女は深く悲しみます。

2018-03-28 12:28:54
じょう @jou110

「もう一本、もう一本だけ」 少女は次のレズドリンクに手を伸ばしました。 心なしかさっき飲んだものよりも、味が濃いように思われました。 そして最後の一滴まで飲み干すと、やがて家の壁が透き通り始めました。 壁の向こうには先ほどの美女達。2人は一糸纏わぬ姿でシルクのシーツに包まれています。

2018-03-28 12:33:19
じょう @jou110

「すごい!」 少女はふたたび壁にへばりつきます。 美女達はとろんとした瞳でお互いを見つめ合い、そして愛をささやき合います。 「エモい!」 少女が美女達に夢中になって居ると、家の中の扉が開きました。 入ってきたのはエキゾチックな雰囲気のミステリアスな女性です。

2018-03-28 12:37:31
じょう @jou110

「ーー!」 少女が声にならない悲鳴を上げたところで、家の壁はふたたび冷たいレンガへと戻ってしまいました。 「いや!どうしてちょっぴりだけなのよォオオオ~ッ!」 少女は次のレズドリンクへと手を伸ばしました。 最早とうに寒さは感じていません。むしろ一部はどうしようもなく熱いくらいです。

2018-03-28 12:41:01
じょう @jou110

「これじゃ足りない……もっと、もっとよ!」 一本、また一本と次々にレズドリンクを飲んでいく少女。果たして彼女の周りに湛えられた水たまりは、溢れたレズドリンクばかりであるのでしょうか? そしてカゴいっぱいに入っていたレズドリンクが空になった頃、ようやく家壁が透けて来ました。

2018-03-28 12:44:51
じょう @jou110

少女は熱さに耐えかね服を脱ぎ捨てます。 「もっと、もっと見せて……!」 透き通る壁の向こうは、先ほどまでのホットな美女の部屋ではありませんでした。 ですが、少女には見覚えがありました。 「ここは……この部屋は……」 少女が部屋を見回していると、扉から誰かが入って来ました。

2018-03-28 12:48:18
じょう @jou110

「ーー!」 ふたたび少女は声にならぬ悲鳴をあげました。 そこにいたのは彼女のお姉さんでした。 彼女が入ってきた瞬間、何もかもが一層色彩を増しました。 椅子も、ベッドも、時計も、そして姉の優しい表情も、何もかもあの日のまま。あの日無くしたと思った懐かしい空間そのものだったのです。

2018-03-28 12:51:57
じょう @jou110

少女の姉は椅子にかけると、編み物を始めました。その表情は柔らかく、全てを包み込むかのようです。 「おねえちゃん……!おねえちゃん!ねえ!あたしよ!」 少女は壁に向けて叫びます。 「ねえおねえちゃん……あたし、おねえちゃんより大きくなったんだよ!あたしをもう一度見て!見て!」

2018-03-28 12:54:15
じょう @jou110

すると少女の姉は編み物の手を止め、視線をあげました。 そして少女に向けて、春の陽射しのような温かい笑顔を向けました。 「おねえちゃん……あたしも、おねえちゃんと一緒にいたいよ……」 少女の目から涙が溢れます。 少女の姉は椅子から立ち上がり、こちらに歩いて来ました。

2018-03-28 12:56:30
じょう @jou110

「おねえちゃん、あたしも、部屋に入ってもいいかな」 姉は優しく微笑み、ドアを開けてくれました。 少女は涙を拭きながら、姉の手を取ります。 そして2人きりの姉妹は、ようやく一つになりました。

2018-03-28 12:59:05
じょう @jou110

翌朝、1人の全裸中年男性が路地裏で冷たくなった少女を見つけました。 「可哀想になあ、この寒い中裸になって凍え死んでしまったんだ」 「こんな飲み物で暖を取ろうとしたなんてなあ、なんて悲しいんだ」 全裸中年男性達は口々に悲しみを述べ、少女の貧しさや辛さに思いを馳せました。

2018-03-28 13:03:25
じょう @jou110

ですが、全裸中年男性達の中には少女が最後にどんなにホットな夜を過ごしたか、そしてどんなに幸せであったかについて思う人は1人もいなかったのです。 『レズドリンク売りの少女』 おわり

2018-03-28 13:04:45