ポッシブル・ドミネイション ＃３

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハアーッ！ハアーッ！ハアーッ！」「タキ＝サン！」タキを揺さぶっているのはスケベ・チアリーダーではなく、私立探偵のシキベだった。タキは跳ね起きた。「エッ！アンタ！エッ！ちょっと待て」モニタを見る。表示は「セッションが遮断されました」とだけ。恐る恐るキーをタイプする。無反応だ。　1

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彼のニューロンに直近の短期記憶が流入してくる。そうだ。ニンジャスレイヤーとシルバーキーに危ういところで助けられたタキは、どうにかセッションを強制終了する事に成功した。サキュバスの攻撃が再開されるよりわずかに早く、無理やりネットワークを切り離した。「ヤッタ！成功だ！」　2

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「成功ッスか？」「ア？こっちの話だ。いつからここに」「……今。外から応答が無いんで、直接確かめに来たんス」「ン？ああ、例のアレな。シトカへの例の……ウキハシの」「座標データをフジキド＝サンが入手したけど、暗号化されてる　んで」「ああ。見せてみろ」タキはフロッピーを受け取った。　3

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シトカは現在、ネオサイタマとポータル断絶状態にある。敵対暗黒メガコーポによる強制措置だ。しかしその措置の隙を縫うように、何重にも迂回されたポータル経路が秘密裏に構築されていた。ソウカイ・シンジケートの工作である。海路では相当の時間を要するところ、その秘密ウキハシを使えば！　4

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「すごい汗っスけど、大丈夫デスか」「ア、これか？男の仕事をしたからな」タキはTシャツをパタパタと動かした。実際、彼はサキュバスの攻撃により心停止し、脳波は物理時間において数秒間フラットラインしていた。彼自身がその恐怖を正しく認識するのはこの仕事の後になるだろうが、知らぬが幸いだ。5

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「で、なんだ。フロッピーをフジキド＝サンがゲットして？こいつでわかるってか。面白ェ。見せてやるぜ。テンサイ・ハッカーにして情報屋……このオレの……」UNIXがキー操作を受け付けず、応答しない。タキはシキベを見た。「悪りィが、緊急措置を取った。凄まじい攻撃を受けてな」「ウェー」　6

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「オレじゃなきゃ、まずヤバかったくらいなんだ。ファイアウォールが爆発して、このピザタキごとオシャカになってた。絶対な。だがそれは防いだぜ。そんで……コトブキっていうウチの従業員……弟子だな……そいつがシトカに居て、今、このUNIXを攻撃した奴をソーシャル攻撃しに行ってるから」　7

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「つまり……」「過冬のハッカー、まあ頑張ったがここまでだ。IPを抜いたからな。直接あっちのデッキを破壊する。コトブキはそういうのは得意でな。手馴れてるっつうか」「心配っスね」「平気だ！とにかくそれ片付けねェとフロッピーが解析できねえ。アイツはASAPでやるさ。これが信頼ってやつだ！」8

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【ポッシブル・ドミネイション】#3

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シトカの本格的な発展は月破砕以後の事だ。つまり、エメツ資源の発見とその活用が爆発的に普及したのと歩調を同じくする。過冬のビジネスの拡大の影響を受け、ごく短期間のうちに異常なまでの資金が流入、「シトカ富士」エッジカム火山を臨む素朴な街ははらわたを破裂させるように巨大化した。　9

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凝古典主義的な石畳、カジノやオイランパレスの金の光、ネオサイタマテックの流入と共に根付いた奇妙な蛍光ネオン看板。それらが苦しげに絡み合い、進化に乗り損ねた区画では廃屋が連なり、暗い海の底では殺人ズワイガニがハサミを鳴らす。市民は過冬の庇護下、失踪事件を恐れ、不安を抱えて暮らす。10

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（ワドルナッケングラー！）（ドグサレッガオラー！）身震いするようなヤクザスラングを後方にかすかに聞きながら、コトブキはゾーイと共に走る。ネオサイタマ暮らしもさほど長くないコトブキだが、己がこの街において異邦の存在である事を肌で感じている。空には恐るべきオーロラ。　11

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既に二人はヤクザ小競り合いの現場を脱出し、フジミ・ストリートを出て、ウォートマン・ループ拡張路からチーヒィ・ストリートに差し掛かった。「こっちへ」コトブキはゾーイの手を引き、ネオン看板の無い闇の奥で休んだ。「これからする事を説明しますね、ゾーイ＝サン」「うん」　12

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「タキ＝サンは過冬のハッカーから攻撃を受けました」「例の5000オムロ身代金だね」「そうです。その無事を祈る他ありません。タキ＝サンのIRCアクセスが途絶えてしまった事で、ニンジャスレイヤー＝サンとも連絡が取れない状態です」「まずいよ。こうしている間にも、グレイハーミット＝サンが」　13

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「大丈夫。タキ＝サンはうまくやりました。彼が託したデータがあります」コトブキは力強く微笑み、こめかみを指で叩いた。「過冬のハッカーのIPアドレスを解析して、このシトカのアジトを割り出してあるんです。凄いですよ！」「わかってきた」ゾーイは頷いた。「サーチ・アンド・デストロイだ！」　14

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「そうです！わたしが過冬のUNIXデッキに直結して、破壊します。そうすれば暫くはハッカーは手出しできなくなるでしょう。タキ＝サンが体勢を整えれば、ニンジャスレイヤー＝サンとも合流できます！」「いけるよ！」「……ただ、相手は何しろ過冬なので、ニンジャの守りも警戒しないといけません」　15

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「コトブキ＝サンはニンジャをカンフーでやっつけるわけにはいかないの」「日々鍛錬していますが、ニンジャは強いです。非常に困難といえます」コトブキは悲しげに首を振った。「アタシがAKやトンファーを作っても？」「ニンジャは銃弾も躱してしまうんですよ」「そうか……」　16

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「幸い、座標情報と街の地図を照らし合わせたところ、敵が居る場所は要塞ではありません。何らかのハッカー・ドージョーのようなものだと思います。ですから、しっかり隠密行動して」「デストロイ！」「そうです！ゾーイ＝サンは隠れていてくださいと言いたいところですが…」「嫌だよ」「勿論です」17

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コトブキはゾーイの肩に手を置き、励ました。「過冬は貴方を狙っているんです。置いていきませんよ。かといって、敵のハッカーを放置するわけにもいきません」「うん」「一人で出来ない事も、二人なら出来ます。わたしがしっかり守りますからね」「アタシもコトブキ＝サン守るよ」「お願いします！」18

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「飴」ゾーイが差し出した飴をコトブキは口に含んだ。二人は再び夜のシトカをしめやかに動き出した。抗争の銃声が聞こえぬところ、シトカの街はじっと息を潜め、決定的な兆しを待ち構えているかのようだ……。　19

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「イヤーッ！」ニンジャスレイヤーは屋根から屋根に飛び移り、巨大な煙突に手をかけて立った。マフラーめいた布を風にはためかせながら、彼は街を見渡した。遺棄された廃屋区画は全き闇。一方で、繁華街はギラギラと眩しい光を放つ。空のオーロラは彼の焦りを煽った。　21

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「どこだ」彼は呟く。彼のニンジャ第六感は、夜のシトカを蠢くニンジャの漠然とした存在感を強く伝えてくる。その者らは、ゾーイと、他でもない、ニンジャスレイヤーを探しているのだ。タキとの通信はいまだ復帰せず。強敵キンジャールやザルニーツァに匹敵する者との衝突も、そう先の事ではない。22

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タキはサキュバスのIP情報を得ていた。通信遮断直前、タキはそれを使って何かしようとしていた。ニンジャスレイヤーは状況判断する。タキがサキュバスのIPを伝えた相手が自分でないなら、コトブキか。コトブキと合流すべきか？だが、どうやってその居場所を確かめる？　23