ポッシブル・ドミネイション #4
(あらすじ:イクラ廃工場のヴォジャノーイを倒し、謎めいた「オマーク」関連データに接近したニンジャスレイヤー。シンウインター攻略の手がかりが得られるはずだ。早速タキがアクセスを試みるが、サキュバスと名乗る危険な存在にスケベ・ドミネイター攻撃を受け、脳波フラットラインしてしまう)
2018-04-03 21:56:53(ニンジャスレイヤーは遠隔コトダマアクセスしたシルバーキーと共にサキュバスを撃退、タキの命を助けるが、安全のため、IRC接続は遮断されてしまった。タキは遮断直前にかろうじてコトブキにサキュバスのIP情報を渡すことに成功していた。膠着した事態の打開の為には直接サキュバスを叩くしかない)
2018-04-03 21:59:23(コトブキとゾーイの潜伏地であるバー<筋>はソウカイヤと過冬の抗争の舞台となりかかっていた。二人は窓から脱出し、サキュバスを倒す為に行動を開始した。一方、目標をひととき失ったニンジャスレイヤーは、クローザーと名乗る謎めいたジャーナリスト・ニンジャと接触し、助言を受けるが……)
2018-04-03 22:01:59ドゥン!ドゥン!ドゥドゥンドゥーン!ブン!ブン!ムムンムーン!健康的なビートと肉感的なベースラインが明るく広く快適なフロアに鳴り響くと、インストラクターは眩しい笑顔で手拍子を打ち、胸筋に接触するほどに高く膝を上げて足踏みした。「はいワン・ツー!ワン・ツー!ガマン!ガマン!」1
2018-04-03 22:05:49「ガマンー!ガマンー!」インストラクションを受けるフィットネス生徒たちは笑顔でキビキビとした振り付けを反復する。スタジオの壁には磨かれた鏡が張られ、神棚と「心の太郎、身体」というショドーが飾られている。ここはシトカ北部、郊外の森に築かれた高所得者向けのフィットネス・ジムだ。 2
2018-04-03 22:09:04特にこの深夜クラスは日中のビジネスに忙しく、働いてなお精力的な者たちや、働く必要すらなく、ナイトライフに精を出すエスタブリッシュ層に人気のコースだ。老若男女バラエティに富むが、みなカネモチである。そして当然ここは過冬の経営する物件なのだ。「ハイ、ジャンプからの腕立て伏せ!」 3
2018-04-03 22:13:56「股裂いて!ガマン!」「ワン・ツー!」「戻してプランク!ガマン!」「ワン・ツー!」笑顔のインストラクターは廊下を誰かが通り過ぎたように思った。恐らくは気のせいであり、エクササイズを止めるほどではない。そう感じた。これは素晴らしい高給仕事であり、手抜きは自他ともに許さない。 4
2018-04-03 22:17:27「大丈夫、気付かれませんでした」コトブキは身を屈め、ゾーイを振り返った。ゾーイは緊張した表情で頷いた。「ここまで本格的とは」と、コトブキは呟く。彼女はPVCパーカーにハーフパンツ、蛍光色のスニーカーという出で立ち。運動好きな客を想定した。ゾーイは不承不承ついてきた妹のていだ。 5
2018-04-03 22:20:11「ねえ、本当にこの建物なの?」「座標付近に他にそれらしい建築物はありません。地下施設というのも考えにくいです」二人は廊下の角を曲がり、一息ついた。「おや、ドーモ」ドリンクスペースに佇む健康的な客がアイサツした。「ドーモ」コトブキは微笑んだ。「今日は見学に」「それは素晴らしい」6
2018-04-03 22:25:43「どちらのフロアがお目当てですか?」「はい、大丈夫です!」コトブキは頭を下げてゾーイを促し、その場を去った。コトブキは囁いた。「わたし達、とても自然ですよ」「気が気じゃないよ。すぐボロが出るよ、絶対に!」二人はエレベーターではなく階段を使った。 7
2018-04-03 22:28:16「今の一階が多目的スタジオで、この二階がフィットネス・ジム……」廊下から様子を伺う。近代的な設備の数々。等間隔に並んだトレッドミルの上で、スモトリ達が時速約20キロのスプリントを行っている。チェストプレスにもスモトリ達が並ぶ。そして縄跳びを繰り返すスモトリ達。「ここは違う」 8
2018-04-03 22:34:17そして三階。階段はここまでだ。このフロアには専用リングがあり、この深夜もいかつい面構えの者達がスパーリングに興じ、サンドバッグにパンチやキックを繰り出している。コトブキとゾーイは間違えて迷い込んだ風に廊下を歩き、様子を伺う。「ここにもやはり……UNIXデッキ的なものはありませんね」9
2018-04-03 22:38:07コトブキは思案した。「外から見た建物の形からしても、もうワンフロアあるのが自然です」「エレベーターの階数表示も3階までだよ…アッ」掌打の素振りをしながら、廊下をエクササイズスモトリが進んできた。二人は用具室に隠れた。スモトリ通過。ゾーイは顔を出し、不安げに見送る。「絶対ヤバイ」10
2018-04-03 22:43:20「オムラ・エンパイアの要塞に潜入した時を思い出します」「要塞?」「閃きました!ゾーイ=サン、どうぞ」コトブキは跪いた。「肩車です」「ナンデ?」「あれを。天井の蓋、あれはダクト的なものですよね。あそこに侵入するのです」「嫌だよ!」「蓋の鍵も作れますか?」「しょうがないな……」 11
2018-04-03 22:45:53コトブキはゾーイを肩車した。ゾーイは蓋を調べ、無から金属の鍵を作り出した。「開いたよ」「すごい力です!」「シーッ。もっと持ち上げて」ゾーイをコトブキは高く上げた。ゾーイは這い上がり、じりじりと進む。コトブキも手をかけ、後に続いて入り込む。「どんどん進んでください」「わかったよ」12
2018-04-03 22:49:17「わたしの推測するところですが、このダクトが各部屋を結んでいる筈なので、見落としていた開かずの部屋的なものにも辿り着くのではないでしょうか」「行き止まりだったらどうしようもないね」「そのときはまたプランを変えます」「たとえば?」屋上に上がって、穴を開けるとか……」「本当に?」 13
2018-04-03 22:51:55さいわい、来た道を戻る必要はなかった。ダクトの突き当り、下に見える部屋は、コトブキの三次元把握力を照らし合わせても、確実に未踏のスペースだった。「ここかな」ゾーイが振り返った。コトブキは頷いた。「蓋を外して、下に降りましょう。誰かいますか」「居ない。少なくとも今は」「どうぞ」14
2018-04-03 22:54:46しめやかに二人が降りた先は、ごく狭い茶室だった。シンクには花柄の電子ポットが置かれ、壁に「定時退社」「ここで話をしない」「頑張る」「万歳三唱」などの張り紙が貼られている。「おそらくスタッフ専用の場所です。通常ならば専用の隠し通路を使って出入りするのでしょう。うまく行きました」15
2018-04-03 23:01:01用心しながらショウジ戸を引き開け、狭い通路を進むと、上に上がる専用階段が見つかった。「待って。この赤外線センサーわかりますか」「アブナイ」「アブナイです。でも、これで確信にかわりました。きっとこの先に核心があります。またいでくださいね」コトブキはゾーイに注意し、先に進んだ。16
2018-04-03 23:02:56「この先にニンジャが?」「その可能性は非常に高いですよ」コトブキは認めた。「しかしタイガーの尾を踏まないと蜂蜜は得られない……そうも言います。わたし達の目的は、あくまでUNIXシステムの汚染。戦闘は避けます」「勝てないし」「そうです」ショウジ戸を微かに開け、様子を伺う……。17
2018-04-03 23:07:05プロココココ……プロココココ。UNIX駆動音が聞こえてきた。戸の隙間から覗くと……ナムサン……そこはドージョーだった。タタミ敷きの広間に等間隔にUNIXデッキが置かれ、黒いハチマキで目隠ししたハッカー達がタイピングを行っている!そして奥のビヨンボ仕切りから只ならぬアトモスフィア! 18
2018-04-03 23:09:44コトブキはゾーイを見、無言で促した。そして音もなく入室、しゃがみ移動を行う。熟練したハッカーはキーボードを見ずにタイピングを行う。視覚情報を遮断することで集中力を相当高め、ハッキング効率を最適化するのだ。これがコトブキ達にフーリンカザンの利を与える結果となった。 19
2018-04-03 23:12:37プロココココ……「アバーッ!」二人が通過しようとしていた席のハッカーが暗黒メガコーポの防衛システムにニューロンを焼かれたと見え、いきなり仰け反って叫び、椅子ごと倒れて痙攣した。ゾーイは息を呑んだ。コトブキは彼女の手を引き、デッキの陰に隠れた。「オロカモノメ!死ンダ!」叱責の声!20
2018-04-03 23:16:33