2018年、高畑アニメから何を学ぶべきか

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uroak_miku @Uroak_Miku

1)高畑勲監督が亡くなられたという知らせは私にとっても衝撃でした。実はフェイスブックのほうでフランスの方とちょっと『かぐや姫の物語』をめぐってやり取りしていて、その直後に訃報を知ったので、そのぶん衝撃はもっと大きいものとなりました。彼の作品について論じてみたくなったので以下少々

2018-04-06 17:25:23
uroak_miku @Uroak_Miku

2)私のフェヴァリット・タカハタは『赤毛のアン』。国宝指定してもいいのではないかとさえ思う。ほかの方もいろいろ論じているので、自分はちょっと違う視点から論じてみたい。

2018-04-06 17:27:01
uroak_miku @Uroak_Miku

3)アンが成長して大学進学という夢が目前というときに、養父が急死。アンの学資としてこつこつ貯めてきた金が、銀行倒産によって消失し、そのショックで心臓発作を起こしたのです。葬式の様子が本当に丁寧に描かれているのが印象的でした。

2018-04-06 17:29:25
uroak_miku @Uroak_Miku

4)アンはすでに大学で学ぶための奨学金を獲得していたのですが養母マリラが失明の危機となり、実家を離れることができなくなる。マリラが泣き崩れるんですよ「ああ、あんたは行ってしまうんだよね!」

2018-04-06 17:36:15
uroak_miku @Uroak_Miku

5)ああ際どいことをしているなと思った。マシュウ生前に、マリラは親友にこんなことを漏らしていました。「アンを養女として籍に入れなかったのは、あの子が天から授かった子だから」。これ原作にはないセリフです。高畑監督はどうしてこれをあえてマリラに言わせたのか、皆さんわかるかな。

2018-04-06 17:38:27
uroak_miku @Uroak_Miku

6)養女にしなかったのは原作がそういう設定だったからですが、養女にしなかった理由をあえてアニメでは語らせた。これはおそらく後の回でマリラが叫ぶ「あんたは行ってしまうんだね」の日本的いやらしさを和らげるための伏線です。

2018-04-06 17:41:05
uroak_miku @Uroak_Miku

7)もしすでに養女だったら、アンはもう自動的に大学進学を断念させられるわけです。あの一家の一員、つまり親の世話をしなければいけないわけだから。家を離れるなんてとんでもない。

2018-04-06 17:43:24
uroak_miku @Uroak_Miku

8)しかし「あの子は天から授かった子だから」と先にマリラ本人に言わせることで、彼女はアンにそういう義務を課していないと、高畑監督は視聴者に事前に説明しているわけですよ。

2018-04-06 17:45:04
uroak_miku @Uroak_Miku

9)「親が失明するというのに、老人ホームに預けて自分は大学に行っちゃうんだよあそこの子。まったく、だいたいなんで女の子が大学なんていかなきゃいけないわけ?孤児だったのをあそこまで育ててもらって見捨てるのよ」と、日本だったら絶対まわりから言われる。言われなくても感じてしまう。

2018-04-06 17:47:01
uroak_miku @Uroak_Miku

10)プリンス・エドワード島というおとぎの国に、日本的な辛気臭い、世間の空気が忍び込むわけです。それを高畑監督は「あの子は天から授かった子だからあえて養女にはしないことにしたの」発言で食い止めた。

2018-04-06 17:48:43
uroak_miku @Uroak_Miku

11)しかし食い止めきれなかった。少なくとも私はあの泣き崩れるマリラに、日本的なしがらみを感じて怖くなった。

2018-04-06 17:49:40
uroak_miku @Uroak_Miku

12)女は「再生産」というテーマを生まれながらに背負い込む生き物。つまり出産と育児。ひとはいずれ死ぬわけだから、社会を維持するためにはひとを補充し続けないといけない。つまり再生産。これを宿命づけられているのが女。

2018-04-06 17:51:31
uroak_miku @Uroak_Miku

13)このテーマは高畑の第一作『太陽の王子』にすでにうかがえます。結婚式のシーン、印象的でしたよね。同時に葬式のシーンもたしかあったと思います。老衰ではなく氷の魔王さまの襲撃で村人が戦死しての葬式でしたが。うろ覚えなので多少違っていても大目に見てやってください。

2018-04-06 17:53:25
uroak_miku @Uroak_Miku

14)『ハイジ』はおじいちゃんとハイジの山小屋生活がメインで、ひとの補給というテーマは正面からは描かれなかった。『三千里』もマルコが独りで旅に出てしまうため、やはりひとの補給というテーマは扱わなかった。

2018-04-06 17:55:11
uroak_miku @Uroak_Miku

15)しかし『アン』でとうとうこのテーマと直面してしまう。アヴォンリー村でしたか。時とともにひとが入れ替わっていく。人口ピラミッドを維持しなければ社会は成り立たない。あの村はあれでひとつの社会だから、老死者の葬式を描けばどうしても社会秩序維持というテーマも描かねばならなくなる。

2018-04-06 18:00:29
uroak_miku @Uroak_Miku

16)社会を維持するには人間を補充しなければいけない。要するに子を産み、育てるわけです。アンもその役目を担わされる運命にあります。女はみんなそうですけどね。

2018-04-06 18:02:08
uroak_miku @Uroak_Miku

17)するとですね、自己実現という「個」と、社会秩序維持という「全」の葛藤が生ずる。男でもそういうのあるとして、女は葛藤がさらに厳しくなる。これはもうどうしようもないことです。

2018-04-06 18:03:56
uroak_miku @Uroak_Miku

18)いわゆる「しがらみ」とか「辛気臭さ」というものが、この葛藤から嫌でも立ち上ってきます。

2018-04-06 18:04:47
uroak_miku @Uroak_Miku

19)原作では割とこのあたりのことをライトに処理していましたが、アニメは映像で見せていくから、逃げた描き方ができない。高畑の丁寧な人物描写ゆえに、逃げが効かない。

2018-04-06 18:06:11
uroak_miku @Uroak_Miku

20)原作と同じく、ギルバートという白馬の王子さまによってアンはこの葛藤からのささやかな脱出路を得るところで幕が下りる。

2018-04-06 18:08:00
uroak_miku @Uroak_Miku

21)けれどもあのマリラの叫び(原作ではああも大仰には描かれていなかったのでは…)で、アニメの『アン』は日本のしがらみ構造に片足を踏み入れてしまったのです。

2018-04-06 18:09:34
uroak_miku @Uroak_Miku

22)足はまた踏み戻されて、あのほほえましい最終回に着地する…しかし高畑さんのなかで何か次なるテーマへの扉が開いたのではないか。そんな気がする。

2018-04-06 18:10:55
uroak_miku @Uroak_Miku

23)映画『おもひでぽろぽろ』は、『アン』で片足を踏み入れたテーマを、日本の農村を舞台にして再度追及した作品です。

2018-04-06 18:12:12
uroak_miku @Uroak_Miku

24)やはり再生産というテーマが後半に出てきます。タエ子に、村に残ってトシオの子を産んでくれと頼まれる。衝撃を受けるタエ子。自分がいるのはアヴォンリー村などではない、村の維持のために子宮を欲しがっている日本のしがらみそのものなのだと思い知る、戦慄のシーン!

2018-04-06 18:14:26
uroak_miku @Uroak_Miku

25)あそこ、怖くありませんか。

2018-04-06 18:14:59