泉顥蔵 ソ連に内通したスパイ、暗号名ネロ。

数学史研究者 @redqueenbee1

Wikipediaには載っていない外交官・泉顥蔵について書く 知る人ぞ知るソ連に内通したスパイ、暗号名ネロ。

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泉顥蔵Kozo IZUMIは，三重師範学校漢文教師だった茨城県士族の2 男として茨城県行方郡潮来町379 出生，1907 年3 月に私立成田中学校卒業，1908 年に第一高等学校英法科一部入学，肺結核で姉の嫁いだ福島県郡山農事試験場長石原壮一郎に寄寓，1910 年7 月に第一高等学校中途退学，1910 年12 月に

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福島県農事試験所雇，1912 年12 月に福島県農事試験所依願退職し福島県内務部農務課雇，1913 年5 月に福島県内務部商工課勤務，1914 年3 月に東京大正博覧会福島県出品取扱人，1914 年3 月に東京大正博覧会福島県出品取扱人解職，石原壮一郎の親友内務省警保局警務課長河原田稼吉の伝で1914 年7 月に

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内務省警保局保安課勤務(写字生)，1914 年11 月に内務省警保局図書課(内務属)，1915 年5 月に内務省警保局保安課，1917 年9 月26 日に結婚，1918 年7 月に男爵目賀田種太郎の主宰する日露協会露語講習所卒業，1918 年9 月に外務省出向し男爵目賀田種太郎が委員長を勤めるシベリヤ経済援助委員会事務

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1919 年7 月に政務部長松平恒雄の引きで外務省浦塩派遣軍政務部付兼務，1920 年4 月に外務省大臣官房会計課勤務となり陸軍省浦塩派遣軍政務部付，1920 年7 月に帰朝許可，1920 年8 月14 日に東京着，1921 年7 月に兼外務書記生・ウラジオストック，1922 年11 月に陸軍省浦塩派遣軍政務部付兼務解除，

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外務省欧米局長松平恒雄が浦塩派遣軍政務部長松島肇と交渉して1922 年12 月に外務属・外務省欧米局第一課，1923 年2 月28 日に外務書記生・ポーランド，1923 年4 月5 日にハワイ経由サンフランシスコ行きの商船で出発，1923年5 月22 日にワルシャワ着任，1923 年12 月に副領事・ラトビア…話はここから

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リガではロシア語家庭教師として隔日アパートでエレナ・アレキサンドロウナ・ペルスカヤの指導を受け，1925 年4 月20 日に協議離婚，1925 年5 月に理事官・ソ連，12 歳年下のエレナ・アレキサンドロウナ・ペルスカヤと交際開始，1927 年2 月に副領事・哈爾浜，1927 年3 月21 日にエレナ・アレキサンド

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ロウナと結婚，1930 年1 月にブラゴヴィチェンスク赴任，，1932 年3 月にペトロパウロフスク赴任，1932 年12 月に満州里赴任，1933 年12 月に公使館一等通訳官・ペルシャ，1936 年9 月にチェコスロヴァキア赴任，1936 年12 月に公使館三等書記官・チェコスロヴァキア赴任，1938 年8 月にフィンランド，

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1938 年12 月にブルガリア赴任，1942 年6 月に公使館二等書記官・ブルガリア，1943 年5 月にイスタンブール赴任，1944 年8 月にブルガリア赴任，1946 年1 月に公使館一等書記官・スイス，1946 年3 月30 日に帰国，東京通商株式会社取締役会長となる．1951 年にサベリエフ在日ソ連代表部書記官と日比谷

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劇場で接触するのをラストボロフに視認され，1952 年に杉並区今川町168 移転，1953 年に高血圧症で療養のためソ連からの連絡打切，ラストボロフ事件でスパイ行為が公安に露見し，1954 年6 月7 日に山本公安第三課長と木幡警視が自宅訪問し任意取調べ，1954 年6 月14 日に木幡警視が再度取調べた際には

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「帰国後ソ連に協力した経緯および活動状況を供述した．しかし戦前の在外勤務中における諜報活動については否認した」，心臓病と高血圧で病臥中に死没し1956 年7 月17 日午後に自宅で葬儀・告別式を執行，没後に時価2000 万の邸宅と金額不明のスイス銀行の預金証などが残された

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泉はラトビア時代，本国の長男と死別している．そんな中，ロシア語を真摯に学ぶために，19歳のエレナ嬢を家庭教師にした．豊頬で，眼はスラブ人らしい褐色をし，クリクリと光っていた．髪は亜麻色であった．父はアレキサンドル・ペルスキーといい，帝政時代の陸軍大佐であったが，赤軍との戦いで死に，

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いまは母と姉の三人で暮らしているとのことだった．1925 年6 月20 日早朝，泉はソ連赴任のためエレナを伴いリガを出発，6 月21 日夜，モスクワに到着した． 泉は，エレナ嬢のことを日本大使館には隠していたが，モスクワでの二人はほとんど同棲同様であったという

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1927 年2 月，泉は副領事として哈爾浜に単身赴任した．エレナ嬢と正式に結婚する決意を固め，哈爾浜着後，休暇をとり，モスクワで式を挙行した．哈爾浜の新市街，站街六八号にある総領事館に副領事として三年在勤，この間，東京にエレナ夫人のほか，夫人の母，エリザベタ・ペルスカヤを同道して一度，

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帰国している．このときのエレナ夫人に対する泉の近親者の評は〈教養はありそうだが，どこか冷たく感じる〉というものだった． 1930 年1 月，泉はブラゴヴィチェンスク領事となった．ここで事件が発生する．エレナ夫人が領事館に一人で留守番をしていたとき，領事室にあった金庫が何者かに破られ，中の

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重要機密が紛失したのだ．数日すると，その機密書類は，領事室の窓から放り投げてあった．泉は，外務本省に対し何も盗まれていないと報告したとされる． この時期には，妻エレナはチェーカーの脅迫でスパイ行為を強要されていたと見られる．

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1930 年6 月29 日，山口捨次が駐ソ海軍武官補佐官としてモスクワ着任した日の回想がある．山口はエレナ夫人の実家に宿泊した． 「いずれは下宿でもするのなら，何も経験のため，暫らくホテル住いでもさして貰えるのかなと，ないない期待していたところ芝居がはねると，M 君はイズヴオシチックを呼んで

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ダヴァイ，クードリンスカヤ・プロシチャジ！！と勇ましく命令して，ついたところは，さき程の武官室であつた，もう十二時も廻わつている．M 君は，毛布のまいた包を，かついで，『さあ，行こう』と，やおら立ち上つた．この夜ふけにどこへ行くのかなと，ラシヤ売りのタタールよろしくのM 君のあとから

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おのぼりさんんの女中みたいに，不安をころしてついて行く．やがて，ニキッツキエ・ヴァロータの鉄門をくぐつて，寝静まつた五階建のビルの中庭に入つて行く．とうとうこれはホテルではなくて，ついこの間モスクウアを引きあげた，鉄道のU さんが最後に住んでいた家へ行くんだとの宣言だ．モスクウアの

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夏の夜は，ひるまの熱さで，補道から反射する熱気に，乾いた空気がムッと頬を，叩き，暗い階段をのぼつて行くと，あのモスクウア特有の，西洋と東洋とのとけあつた，よその都会ではかぐことの出来ない，スラブ独特のにおいが漂つてくる．階段をのぼりきつて，五階のクウァルチーラの呼鈴を二つおす，

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通されたのが，その頃ブラゴウェシチェンスクの副領事をやつていた，泉さんの奥さんのお里であつた．いかり肩の三十位の，ロシヤ人としては，小づくりの，奥さんと呼ぶべきか，お嬢さんといつからよいのか，一寸戸まどいするような，泉さんの奥さんの姉さんのオリガさんに紹介された．当分はこちらに

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お世話になるのでよろしくお願いして，何はともあれ，旅の疲れもあり，まごまごしていると，北国の夏の短い夜，夜明も近いこととて，万事は明日の朝と，寝かしていただくこととする」 このエッセーのタイトルは南京虫．山口はエレナの実家では南京虫に苦しんだ．Uとは梅村元之助のことである

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ソ連は泉の妻エレナを脅迫する前に，駐ソ連日本大使館付海軍武官室の暗号書を盗んだ．結果，1929 年3 月7 日に駐ソ海軍武官小柳喜三郎大佐は切腹自殺している． 当時の同僚だった大使館一等書記官の天羽英二の証言を引用する 「ソ連ではロシア人の通譯を使つていた．日本人は白人の女を抱くとすぐ

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崩れてしまう悪い點がある．あの事件は，ピクニツクに出掛けた隙に金庫の中の暗號を寫し盗られたことになつているが，實際は小柳君が女にゆすられたものかどうか眞因は今もつてわからない．とにかく，向うで使つた女はみんなゲー・ペー・ウーなのだ」

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話を戻そう．1931 年11 月16 日，泉に帰国命令が出た．1932 年3 月，泉はペトロパウロフスク副領事となった．ペトロパウロフスク在勤時にエレナ夫人と泉の息子はモスクワからベルリンに移動した．終戦までペトロパウロフスク領事館内に住み，冬は留守番，夏の三ヵ月間は領事館の雑用の一切を引き受けて