ポッシブル・ドミネイション #6
ニンジャスレイヤーは苦痛に顔をしかめる。肩に強烈な一撃を食らった。サキュバスはハッカーでありながらその実、恐るべきカラテの持ち主。だがニンジャスレイヤーは強引にダメージを堪え、左拳を脇腹に叩き込んだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」さらに頭突き!「イヤーッ!」「グワーッ!」 22
2018-04-13 23:10:18サキュバスは血を吐き、よろめいた。「だが優位はいまだ俺にある……!」ニンジャスレイヤーの肩を掴む!「イヤーッ!」カラテ・シャウトははるか頭上から聞こえた。ナムサン!サイベリオンである!チェーンソーマチェットガン兜割り攻撃が直上からニンジャスレイヤーに襲いかかったのだ!アブナイ!23
2018-04-13 23:13:16「地獄へ行け!ニンジャスレイヤー=サン!」サキュバスはニンジャスレイヤーの両肩を掴み、抑え込んで、サイベリオンにニンジャスレイヤーを真っ二つにさせようとした。過てば己にも危害が及ぶ。だがサキュバスとて、危険は百も承知だ!膠着したイクサを制するのはここしかない! 24
2018-04-13 23:17:26「「イヤーッ!」」二者のニューロンが極大加速し、圧縮された時間の中で、汗の粒がゆっくりと流れ落ちた。お互いを至近で睨み合いながら、限界の膂力を爆発させた。これに打ち勝った側が……「「イイイヤアアーッ!」」ニンジャスレイヤー!サキュバスの抑え込みを跳ねのけ、掴み、抱え上げた! 25
2018-04-13 23:19:57チュイイイイイイ!振り下ろされたチェーンソーマチェットガンが、サキュバスの胴体を……ナムアミダブツ!「アバーッ!アババババーッ!」ニンジャスレイヤーは「忍」「殺」のメンポの下で歯を食いしばり、大地を支え持つティターンめいてサキュバスを掲げ続けた! 26
2018-04-13 23:23:06「アババババッ……この……男……!」サイベリオンのチェーンソーでバイタルゾーンを立ち割られながら、サキュバスは血走った眼を見開く。「成る程……アッパレなカラテだ。覚えておくぞ……ジゴクまでな!」断末魔の叫びがチェーンソー駆動音をかき消す!「サヨナラ!」爆発四散! 27
2018-04-13 23:25:24KRAAAAAASH!数秒後、真下・一階のエアロビクス・スタジオ!笑顔で過酷なエクササイズを行っていたインストラクターと富裕客は、突如天井が崩落し、丸く穿たれた穴からジゴクめいて恐ろしいニンジャ達が瓦礫や血と共に落下してきたさまに目を剥いた。「「「アイエエエエ!」」」アビ・インフェルノ!28
2018-04-13 23:28:15NRSを発症して走り回り、壁にぶつかっては向きを変えてまた走る恐慌客たちの中、二人のニンジャは同時にワン・インチ戦闘の火ぶたを切った。それはガンマン同士の抜き打ちじみた一瞬だった。ニンジャスレイヤーはチョップを振り抜き、サイベリオンはチェーンソーマチェットガンの銃口を向けた。 29
2018-04-13 23:30:46BLAMN!散弾が発射されたが、命中すればニンジャの顔ですら消失させたであろう残虐火力の狙いは僅かに逸れ、ニンジャスレイヤーのこめかみをかすめたに留まった。スタジオの鏡が惨たらしく破砕した。ニンジャスレイヤーのチョップはサイベリオンの首を刎ね飛ばしていた。 30
2018-04-13 23:32:51「……サヨナラ!」吹き飛んだサイベリオンの首が吠え、無惨な胴体は爆発四散した。「アイエエエ!」「アイエエエエ!」NRS客の只中に立ちながら、ニンジャスレイヤーは頭上の穴の向こう、コトブキらを案じる……。 31
2018-04-13 23:35:05……「ハイヤーッ!」コトブキはゾーイのLANケーブル拘束を引きちぎった。彼女は床の穴を注意深く迂回し、ゾーイを助け出したのである。「コトブキ=サン、UNIXデッキを」「ダメでした」コトブキは悔しげに言った。「何が?」「ディスクを破壊されてしまったんです。せっかく設定は動かせたのに」 32
2018-04-13 23:37:01「それじゃ、うまくいったのね」ゾーイは言った。コトブキは首を振った。「違うんです、ディスクが無いと動かし続ける事が……」「ディスクは、ある」ゾーイは力強く頷いた。コトブキは驚きと共に了解した。彼女の手を引き、上級UNIXデッキに駆け戻った。 33
2018-04-13 23:39:11「たった今使ったフロッピーディスクなら、参照できる情報もすぐそこに……」ゾーイはぴくぴくと瞼を動かした。「……ある」掲げた右手には、虚空から呼び出されたフロッピーディスクがあった。「……何という事でしょう」感嘆するコトブキに笑いかけ、ゾーイはディスクを挿入!目的を完遂した! 34
2018-04-13 23:41:59キキーカリカリカリ……。荒れ果てたハッカー・ドージョー、UNIX駆動音を聞きながら、コトブキは額の汗を拭うゾーイをじっと見ていた。コトブキはこの世の理にあまり詳しくはない。だが、ゾーイの力が常軌を逸したものである事を実感と共にはっきりと理解した。過冬の執着は……決して終わるまい。 35
2018-04-13 23:45:12バチバチ……。アーケード遊技場「ホノカ」の蛍光看板の過剰電力が火花を生じ、石畳の水たまりに落ちて、シュウシュウと音を立てた。ホノカには旧時代のピンボールが美術館じみて陳列されている。その全てが正しくメンテナンスされて実際動く。だがそんな店内の事は今なんの関係もない話である。 37
2018-04-13 23:51:43無計画なジアゲによって、「ホノカ」の周辺の建物は更地だ。まるで墓場に接する教会のようでもあった。フジミ・ストリートから申し訳程度に離れたその区画が、ソウカイ・シンジケートと過冬の代表決闘の場であった。インシネレイトのヤクザコートの裾が風を受けてはためく。「……それで」 38
2018-04-13 23:53:42インシネレイトは新調ヤクザ伊達眼鏡越しにオーガフィストを睨む。オーガフィストは莞爾と笑い、腕組みして、睨み返す。インシネレイトは呟いた。「なんでこんなことになったんだっけなァ?おっかしいよなァ」「何がだ、若僧」オーガフィストは目を細めた。「決まってんだろ」と、インシネレイト。39
2018-04-13 23:57:17彼の剣呑な視線が、オーガフィストと……その両脇に佇む不敵なニンジャ達を舐めていった。「一対一の決闘で決着つける……って……話はどこ行きやがったコラーッ!」コワイ!怒気を受けて水溜りが蒸発!「カカカカ!」オーガフィストは心底おかしそうに笑い……酷薄な真顔に変わった。「ふざけるな」40
2018-04-14 00:02:48「アアッ?」「ここはシトカ……ワシらの縄張りよ。何やってもイイに決まっとるわ」「アアッ!?」インシネレイトは顔をしかめ、素早く後ろのヴァニティを振り返った。彼女は無言。シガーカッターはカタナの柄に手を置き、見渡す。オーガフィスト達だけではない。ぐるりと包囲するクローンヤクザ。 41
2018-04-14 00:05:54<筋>での緊張状態は、決闘時刻と場所の取り決めを行った事で一旦の解決を見た。お互いのソンケイを賭けた決闘が終わるまで、ソウカイ・シンジケートはシトカの他の場所や過冬施設、過冬構成員に新たなイクサを仕掛けないという約束だ。かくして決闘の運びとなったのだが……ご覧の通りである。 42
2018-04-14 00:08:33「ちったァ骨のあるヤクザと思ったが、とんだフェイクだぜ、アア!?」インシネレイトが唾を吐き捨てた。「テメェのソンケイは……」「ソマシャカバッテグラー!」オーガフィストの瞬間的な怒声がかき消す!「テメェら、ウチのニンジャに裏でコソコソとテッポダマ送りつけっコラー!」「アアッ!?」43
2018-04-14 00:11:45「キンジャール=サン、サキュバス=サンがカチコミを食らったちう話じゃの」オーガフィストは言った。「そういうつもりならコラ……こっちはシマでどう出ても構わねえって話だ」「話が見えないわね」「ネオサイタマのIPを持つクソハッカー。それからニンジャスレイヤーとかいうテッポダマだ」 44
2018-04-14 00:16:18「ニンジャ……スレイヤー?」インシネレイトはヴァニティを振り返った。「マジなんスかね?」「知るか」ヴァニティは睨み返した。そしてオーガフィストに言った。「それがどうかしたか。ニンジャスレイヤーはソウカイヤの構成員ではない。言いがかりね」 45
2018-04-14 00:19:05「眠たい!ネムタイ!」オーガフィストは大声で遮り、拳をバキバキと鳴らした。「ネオサイタマのガキどもは眠たい事ぬかしおるの!」居並ぶニンジャ達の殺気が膨れ上がった。「真偽なんぞどうでもいい。ワシは"そういう事に決めて、それで納得した"。十分じゃろうが」もはや彼は笑顔。殺しの顔だ。46
2018-04-14 00:22:03