艦隊これくしょん Re:World's End 第四話 はじまりと駆逐艦
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――まるで、白磁の陶器みたい。ああ、それは芸術さながらで、なによりも美しいとすら思う。死してなお、その美はより強く輝いている。そう考えて、己の浅ましさに笑みがこぼれた。呆れ果てる。私は、これまでも散々与えてもらったのに。 #艦これReWE
2018-03-07 22:00:20この美しい女から、この期に及んで全てを奪おうとしている。彼女の数少ない誇りであった、女の命であろう――ぬばたまの黒髪も。 #艦これReWE
2018-03-07 22:00:38死体の身で、せめて、恵まれた肉叢を隠せたであろう衣服も。死後の肉体の安寧、葬送に始まる、彼女個人の尊厳すらも。全て――全て私の手で蹂躙されるのだ。 #艦これReWE
2018-03-07 22:01:07――ふう、と息を吐き、私は作業に戻った。ぶちぶち、という音が戻ってくる。 ――生まれて初めて、一人の女を好きなようにできる、という事実に性的な興奮を覚えなかったと言うのなら、おそらくは嘘になる。ただ、そんなことも気にしていられないほど。状況は切迫していたのだ。 #艦これReWE
2018-03-07 22:01:36脳内を、あらゆるものが駆けめぐった。大きな船、戦い、扶桑と名乗る戦艦、仲間、戦艦ル級とされる提督、人間であった提督、深海棲艦、西暦、棲暦、赤い海――。そのどれも、軽巡洋艦・川内には関係がないものだった。 #艦これReWE
2018-03-07 22:02:13……ああ、きっとこれは記憶なのだ。けれど、私はこれを意識して思い出すことはできない。そもそも、私の記憶としての実感すらない。 #艦これReWE
2018-03-07 22:02:30記憶の中の私は軽空母だった。あるいは駆逐艦だった。またあるときは戦艦であり、潜水艦であり、水上機母艦であり、巡洋艦であり、防空駆逐艦であり――海防艦だった時代もあったらしい。 #艦これReWE
2018-03-07 22:02:47――こんなの、ただの走馬燈だ。誰かがせめて残そうとした残滓が、巡り巡って私に回ってきてしまっただけだ。どれも、川内の記憶ではない。私は自身を生まれたばかりだと認識している。前世などありはしない。 #艦これReWE
2018-03-07 22:03:14脳内に流れては、硝子のように砕け、砂糖のように融け散ってゆくそれは――ただの、他人の記録だった。 見たくもない映画を、無理矢理見せ続けられているに等しい。正直なところ、気持ち悪い。これは拷問に近いだろう。 #艦これReWE
2018-03-07 22:03:29「――ちょっと川内、大丈夫!?」 身体を揺すられて我に返った。ここはヨコスカ162番鎮守府、ラビット・ガーデンの提督執務室。目前にはダリアと名乗った――私の提督、らしい、《深海棲艦》が立っている。 #艦これReWE
2018-03-07 22:03:48「――ごめん、忘我してた」 まだ、2回目の顔合わせだ。ドロップしたての日、軽く顔を合わせて挨拶を交わし――。 #艦これReWE
2018-03-07 22:04:15「…………」 首もとを触れると、ちゃり、と首輪が音を立てる。この――ケッコン首輪を受領した。 #艦これReWE
2018-03-07 22:04:34なるほど、赤い海、人類のいない世界。握られてしまった生殺与奪の権利。最初は面食らったけれど、まあ――せっかく生まれたのだし、生きてみるのもいいか、と思ったのだ。 そこで、二度めに提督と顔を合わせたとき、お願いされたことがあった。 #艦これReWE
2018-03-07 22:04:49「――ちょっと、ドロップ艦がドロップする経緯を調べたいの。なにか、分かることとか、覚えていることがあれば教えてくれない?」 なんだ、ドロップする経緯って。 #艦これReWE
2018-03-07 22:05:02詳しく説明を求めたところ、棲暦と西暦ではドロップ艦の出現方法が違うらしいのだ。現在のドロップ艦がどうやって生まれてくるのかははっきりしていないらしい。 彼女曰く、建造で作られた艦はヒトが作り上げた初期教育プログラムを受け、ある程度の知識を保有して生まれてくる。 #艦これReWE
2018-03-07 22:05:26しかし、ドロップ艦も同様に最低限の知識を得て生まれてくるらしいことは、長年の謎なのだそう。 それを調べたい――と、彼女は言う。 #艦これReWE
2018-03-07 22:05:48私が思うに、この《深海棲艦》はよほど知識の虫であるらしい。最初に提督執務室に案内されたが、まあ本だらけ。ふつうに書斎並である。その隣の書斎も本だらけ。当然ではあるが、こちらはもう図書館と言っていいほどだ。 #艦これReWE
2018-03-07 22:06:05本棚に挟まれた通路は狭すぎて、身体を横倒しにして辛うじて通れるレベルだった。 さすがにリビング――兼食堂には本はなかったが、置こうとして叢雲が猛反対したらしい。キッチンに至っては青葉が、「ここは私の部屋ですから!」と主張して入らせてくれないのだそう。 #艦これReWE
2018-03-07 22:06:25そして――ここ数日でついに提督執務室から廊下に本棚があふれ出し、本はまだまだ増えていく。廊下の左右が本棚で埋まる日も近いわね、と叢雲が不機嫌そうに言っていたのが印象深い。――いや、実際に不機嫌だったのか、あれは。まあ、それも当然だろう。 #艦これReWE
2018-03-07 22:06:47それはそうと、今私の脳内を流れたものを、そのままダリアに伝える。 「……記憶の再認のシステムが機能していないのかしら」 「再認?」 私の疑問に、ダリアの眼がきらりと光った。 #艦これReWE
2018-03-07 22:07:04「――記憶って言うのはね、記録、貯蔵、再生、再認の4つのシステムからなるの」 その瞬間、私は理解したのだ。本好きは知識をため込んでいる――良くある話である。そして、それをひけらかす瞬間を、虎視坦々と狙っているのだ。つまり、私は今、押してはいけないスイッチを押したのだと。 #艦これReWE
2018-03-07 22:07:45「記録は、脳が認識したものを保管庫に保存する機能。 貯蔵は、その記録した記憶を保管しておく機能。 再生は、貯蔵した機能を脳内に呼び出し、思い出す機能。 #艦これReWE
2018-03-07 22:08:14再認は、呼び出した記憶はかつてと同一かを確認する機能よ。 あなたの言うとおりなら、再認の機能が低下していると考えられるのだけど――でも、きっと違うのよね」 #艦これReWE
2018-03-07 22:08:21……その通りだ。艦娘の記憶機能が、人間のそれと同じだというのであれば――。 #艦これReWE
2018-03-07 22:09:02