- laurassuoh
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高1から席替えなく塩見と前後で、部活もふたりで、高2の雨の日から付き合い始めて、夏には浴衣でお祭りに行って、初めてのキスは冬の朝で、受験勉強を一緒にしながらやりたいことがわからないって悩む彼女の話を聞いて、同じ系列の大学と女子大学に進学を決めて、4月15日に彼女の新幹線を見送った
2018-04-15 22:57:25彼女は親に勘当される覚悟で黙って大学を辞めて京都を去ろうとしていて、僕にだけ教えてくれて、終電まで何本も電車を見送って、最終電車のベルが宙に浮かぶ京都駅のホームに鳴り響いた時に塩見は立ち上がって「ほな、いくわ」と振り返らないで新幹線に乗ったから、「がんばれよ」と僕は送った
2018-04-15 22:59:38涙が溢れて前が見えなかったからいっそ目をつぶったら、あの夏祭りで浴衣を着て僕を振り返る塩見の笑顔が焼き付いていて、すぐ隣に塩見の香りを感じて、遠い家まで泣きながら歩いて帰った。塩見は今頃、新幹線の小さな車窓からどんな景色を見ているのだろう。
2018-04-15 23:02:24知らない土地で彼女が塩見周子のままでいられるようにと祈った。それから一年が経って、塩見周子はアイドルになった。大学生の僕は彼女を全力で応援したけれど、握手会とかお渡し会とかには行かなかった。やがて僕には新しい彼女ができて、周子への未練は薄れたかに思えた。
2018-04-15 23:04:44就職活動は塩見周子とできるだけ離れた業界で。彼女が捨てた京都で。僕が職を得て卒論を書き終えた頃に恋人は去っていった。僕が誰かに夢中だからと言い残して。僕の卒業と同時に塩見周子はアイドルを卒業した。彼女はマルチタレントとしてさらに高みを目指すらしい。 それから、7年が経った。
2018-04-15 23:07:44塩見周子が結婚するというニュースが飛び込んできた。お相手は同じ事務所のハリウッド女優・速水奏。日本人で初めて三大映画祭の主演女優賞をすべて獲った絶世の美女だ。僕は煙草を吸いながらニュースを見ていた。記者会見、幸せそうな塩見、独身寮の部屋には塩見が表紙の雑誌が重なっていた。
2018-04-15 23:12:01翌日、僕の携帯が震えた。 塩見周子 そこには何年も表示されなかった文字が並んでいた。京都駅からほど近いホテルの一室で、僕は塩見周子と再会した。あの夜の別れから10年が経っていた。塩見は美しい大人の女性になり、僕は汚い大人の男性になった。速水奏は挨拶だけしていなくなった。
2018-04-15 23:14:14僕は塩見だけを見ていたから、速水奏の表情は分からなかった。とりとめのない話、結婚おめでとうとか、健康とか、仕事とか、そんな話を少しして、塩見が本題を打ち明けた。 「うちら……奏ちゃんと私ね。赤ちゃんがほしいんよ」 「……へぇ」 「私が産むの」 塩見が僕に近づく。
2018-04-15 23:18:55どうして再会が料亭とかそういう場所じゃなかったのか。どうして速水奏は早々に去ったのか。どうして、塩見周子はこんなに経っても、恋をした目で僕を見つめるのか。 「だから、ね……今日だけ、今夜だけ……私を恋人にしてくれない?」 僕は、わかったとも嫌だとも言えなくて、ただ塩見とキスをした
2018-04-15 23:23:13「……煙草の味、するね」 「大人になったんだよ」 「せやね。大人になっちゃったね」 塩見が服を脱ぐ。僕は部屋の灯りを消した。 「でも今だけは……あの頃に戻ろう」 朝が来て、塩見がまだ寝ているのを確認して、僕はホテルを後にした。四条大橋にさしかかり、橋桁へ下りてみた。
2018-04-15 23:26:31塩見に告白したのがそこだった。雨宿りのために逃げ込んだ。岸に座って鴨川を眺めた。いつかのように水は流れる。違うのは、僕が独りで、隣にはもう二度と、誰も座ることがないということ。一時でも僕の温もりであってくれた人は、本当に幸せな居場所と、大切な人を見つけたんだ。
2018-04-15 23:29:25今頃ふたりでホテルのビュッフェを楽しんでいたらいい。洋食にするか和食にするかで少し揉めたり、突然速水奏が泣き出したのを塩見周子がなだめてもいい。「どうして奏ちゃんが謝るの」なんて言って、僕にしたのよりも優しいキスをしているといい。僕は鴨川から家に向かう。スーツを着たら出勤だ。
2018-04-15 23:32:28でもスーツを着なければ、僕は僕のままでそこにいられる。生まれてから一度もサボったことがないのだし、たまには空を眺めるだけの日があってもいい。怒られたら、そうだ、煙草を吸いすぎたとかなんとか言い訳すればいい。涙が枯れて乾くまで、あてもなく歩き続けよう。塩見周子の面影を忘れて。
2018-04-15 23:36:09自分を塩見周子の元カレだと思っている精神異常者なので、ワンナイトだけ塩見と寝た例の続き、20年後に成人した娘が会いに来たという妄想を今朝していました
2018-04-17 15:16:53塩見と初めてふたりで見た映画は『ミッドナイトインパリ』で、映画館から出ると空はもう暗くなっていた。僕たちはタイムスリップした気分で鴨川を歩いた。
2018-04-17 19:12:00もっと塩見の顔を見ておけばよかった。恥ずかしくて目を合わせられない期間が長すぎた。もっと塩見と非日常に出掛ければよかった。高校生の僕たちには日常がデートだった。もっと塩見に好きと言えばよかった。告白でさえ、好きとは言わなかった。もっと塩見と……ずっと塩見と京都で生きていきたかった
2018-04-17 19:15:08