ハート・オブ・ダウントロッデン・ソウルズ #3
ネオサイタマ某所。ぬばたまめいて黒い大理石に囲われた一室にはオイランの物憂いオコト演奏の音色が流れ、天井に金の墨でショドーされた「闇の掟」の文字が恐ろしい。壁に沿って数センチ幅の濠が切られており、そこにはマイクロ・コイが泳いでいた。 1
2018-05-10 22:17:44ソウカイ・シンジケートの若きオヤブンは柔らかいザブトンの上でアグラし、神秘的なファー・ボールを用いてカタナの手入れを行っていた。ファー・ボールはトノコと呼ばれ、これを用いて刀身を叩くことで、鋼分子の偏りにポリマーがいきわたり、カタナが本来持つ粘り気と剛性が蘇る。 2
2018-05-10 22:22:56ソウカイヤのオヤブン……ラオモト・チバは得物を他人に任せない。カタナやゴルフクラブは彼自身が常にメンテナンスを行う。最側近のネヴァーモア……ブラック・フスマの外で不寝番をするニンジャにすら任せない。ニンジャを従える非ニンジャの、極めてセイシンテキな、瞑想にも似た習慣であった。 3
2018-05-10 22:28:21ファオー。その時である。オイランのしめやかな演奏を、スピーカーの笙リード音が中断した。『シツレイシマス』部屋の隅に置かれた円柱形のUNIXから光が投射され、シトカに送り込んだニンジャのホロ映像が映し出された。『モシモシ。ヴァニティです』「ご苦労」カタナを布で拭きながらチバは応える。4
2018-05-10 22:32:07「問題ないか」『イルストーン=サンのクローンヤクザ部隊との合流を果たしました。ありがとうございます。幾つか懸念事項はありますが、現時点の成果は上々』「……懸念事項。フン」チバは表情を動かさず、「ホローポイントは戻らんか」『爆発四散を見てはおらず、いずれ戻るかと』「よかろう」 5
2018-05-10 22:36:35『概ね、即時報告の状況の通りです。フジミ・ストリートにスーサイドというネオサイタマ出身のニンジャが居ます。シンウインターに個人的な恨みを持っているニンジャで、実際、シトカに拠点を築く際にギブ・アンド・テイクできるでしょう』「恨みをな。便利な駒になるか」『……油断ならない男で』 6
2018-05-10 22:40:50「スーサイド……そんな名前のニンジャが過去に居たか。月破砕年以前に」『調べさせましょうか』「意味はあるまい。利用できるようならしろ」『……』ソウカイ・シンジケートの狙いは、当然、シトカの潤沢なエメツ資源である。君臨すれども統治せず。遠いアラスカを実効支配する意思はチバにはない。7
2018-05-10 22:46:42となれば、シンウインターを殺した後、新興ヤクザ勢力をソウカイヤがケツモチし、利益を吸い上げる下部組織が他の暗黒メガコーポの進出を阻む形が最も都合にかなう。しかし、ヴァニティをして「油断ならない男」と言わしめるスーサイドは、実際手ごわいのであろう。理想通りにはいくまい。 8
2018-05-10 22:51:06「よしなにやれ。どちらにせよ、貴様らは戻ってこれんのだろう」『残念ながら』と、ヴァニティ。『外からシトカに飛び入る事はできても、シトカから外に出る事は出来ぬらしく。海賊版ポータルに、こちら側からクローンヤクザを通してみたところ、消滅しましたね』「面白い」 9
2018-05-10 22:53:59チバはカタナからゴルフクラブに持ち替え、手入れを始めた。「過冬の妙なジツを止めさせるまでは、せいぜいオンセン旅行めいて遊んでおれ。兵隊はその都度追加してやるが……おめおめと助けにすがる心構えでおるならば、そのままのたれ死んでも構わんぞ」『肝に銘じます、ふふふ……』 10
2018-05-10 23:00:40「他の懸念事項を言え」『事前報告で申し上げましたが、ニンジャスレイヤー。過冬と敵対し、ひどく性急に動いております』チバは眉をしかめ、目を閉じた。そして繰り返した。「……利用できるなら、しろ。だが、奴がソウカイヤの手を噛む事があれば、処刑を躊躇う必要はない」『心得ております』11
2018-05-10 23:06:52幾つかのやり取りを行った後、ヴァニティの通信は途絶えた。待ち構えていたように、ネオサイタマ側のヤクザから緊急報告が入った。『オヤブン!申し訳ありません!しかしすぐにこれはお伝えせねばと……』発信者IPを確認すると、海賊ポータルの「入り口」側を管理するソウカイヤ・ブランチだ。 12
2018-05-10 23:10:51チバは舌打ちした。「わざわざここまで連絡を入れるからには……」『し、侵入者です!現在クローンヤクザ部隊と、ニンジャのアウクシリアが対応にあたっておりますが……ザリザリザリ』「暗黒メガコーポか?どこの協定違反だ!」『ザリザリそれが……ザリザリザリ女の探ザリザリ妙なカラス、そして』13
2018-05-10 23:17:42「そして?そして、どうした」『……』通信が途絶えた。チバは唸った。この時期にシトカ行きの海賊ポータルを襲撃?女の探偵?何が起こっている。こちらが過冬と抗争を始めた事を嗅ぎつけた暗黒メガコーポの、何らかの工作か?あるいは過冬の攪乱勢力であろうか?どちらにせよ捨て置けぬ……! 14
2018-05-10 23:21:25道路前方に検問じみた光の列!コトブキはバイクを横向けて急制動をかけた。「ンンーッ!」後ろでゾーイが力一杯しがみつき、悲鳴を押し殺した。「……立派です」コトブキは呟いた。ゾーイは泣き言を言わない。だが、幼いのだ。コトブキの胸には言いようのない哀切の感情が満ちた。 16
2018-05-10 23:29:15「ミテンゾコラー!」「ツカマエンゾ!」「スッゾ!」額にボンボリライト・ハチマキを巻いた寒冷ヤクザ達が、たちまちスラングを叫びながら向かってくる。ゴウウウ!コトブキはバイクを発進させた。最短ルートはダメだ。別の道を選ばざるを得ない。 17
2018-05-10 23:31:59的確な判断によって寒冷ヤクザを撒くことには成功したが、安心するには早かった。「イヤーッ!」ドウウン!合流路からウイリージャンプしてきたバイクがコトブキのすぐ横に着地、並走を開始した。ドウウン!ドウウン!二台!三台!「スッゾ!」チャカを構える!「アブナイ!」ゾーイが叫んだ。 18
2018-05-10 23:36:36「ハイヤーッ!」KRAAASH!コトブキはバイクを傾けながら果敢に真横の敵バイク側面を蹴った。「グワーッ!」バイクヤクザが転倒し、三回バウンドした後、燃料タンクを爆発させた。KABOOOM!ナムアミダブツ!「これを!」ゾーイはコトブキにマシンピストルを手渡す。「片手で撃てるよ!」「物騒です」19
2018-05-10 23:38:39コトブキはマシンピストルを受け取り、追ってくるヤクザに掃射した。BRATATA!TATAT! 「グワーッ!」「グワーッ!」KABOOOM!「前!前!」ゾーイが叫んだ。「ダイジョブです!」コトブキは急カーブに対応!「舌を噛まないで!」「ンーッ!」車体を傾ける!「鬆大シオ繧九h」バイクがノイズを発す!20
2018-05-10 23:41:15「ザッケンナコラー!」「ワメッコラー!」前方に検問!「もはや突破します!」コトブキは覚悟を決めた。BRATATA!TATATA!「グワーッ!」マシンピストルは一人倒し、弾切れになった。BLAM!BLAM!検問ヤクザがチャカを撃ち込んでくる。「銃がうまく出せない……!」「ボーや薙刀でもいいですよ!」21
2018-05-10 23:44:32ゾーイはすぐにコトブキの片手に重いものを持たせた。「ボーなら……」ゾーイが言った。「充分です!」このモーターサイクルは運転を支援する機能がある!コトブキは馬上の武将めいて、頭の上でボーをヒュンヒュンと回転させた。「推参します!ハイヤーッ!」長いリーチで薙ぎ倒す!「グワーッ!」 22
2018-05-10 23:47:54「「ザッケンナコラー!」」道路沿いのガレージのシャッターが開き、中から道路上へ沢山の寒冷ヤクザが溢れ出た。彼らがチャカを構えるより早く、コトブキの強烈なボーの薙ぎ払いが襲った。「ハイヤーッ!」「「グワーッ!」」バイクを切り返し、更に薙ぎ払う!「ハイヤーッ!」「「グワーッ!」」 23
2018-05-10 23:50:10