【書きかけ】私が衛生兵になったわけ【クリヘレ】

深海さかな @dzurablk_kai

「部下が次々傷ついていくのに、戦闘の指揮だけで手一杯で…。治療の仕方だってあなたみたいに詳しくないから駆逐艦の子たちにしたいようにさせてたら、持参した薬や包帯も足りなくなって…」 「仕方ないさ、でも」 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

ヘレナの左腕に、ガーゼと包帯が一体化した野戦包帯を巻き終えたところでクリーブランドは顔を上げると、ヘレナの顔を正面から見据えた。 「治療の仕方がわからなかったのは仕方ないにしても、部下は絶対に見捨てるな。一人で殿を勤めて犠牲になって、それで部下だけが助かったら、 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

そいつらはどう思う？」 ヘレナは何も言い返すことができなかった。部下を見捨てるな、そのクリーブランドの言葉の裏側には『部下を助けたいなら自分自身も見捨てるな』というメッセージが込められていた。 「今度から基地に帰る時は、いつも一緒にだ。いいな？」 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

そう告げるとクリーブランドは真顔から一遍、破顔してヘレナのことを抱きしめた。 途端、ヘレナは知らず知らずのうちに落涙していた。姉達にもみせたことのない程の号泣と、嗚咽。 それをクリーブランドはただ、黙って抱きしめ続けた。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

初戦闘のストレスと士官としての重責、何も出来なかった罪悪感が大粒の涙に変換されて、嗚咽と共に吐き出される。そんなヘレナに、クリーブランドはただただ、優しく笑いかけていた。 「今日は、よく頑張ったな、見上げた根性だよ、本当」 「そんなこと、ないです…」 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

「気に入った、今度君を…そういえば名前なんだっけ？」 「ヘレナ、です」 「ヘレナか、今度からヘレナとコンビで出撃させてもらえるよう、指揮官に頼んでみるよ。私はクリーブランド、よろしくな！」 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

こうして、ブルックリン級の末っ子とクリーブランド級の長女という、ちぐはぐなバディが組まれることに相成ったのだった。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

その日からヘレナは、猛訓練の日々を送ることになった。 朝は演習に始まり、それが終わると簡単な朝食。その後は民間軍事会社に長時間出向しての模擬戦が待っている。基地が燃料の供与と引き換えに業務委託している長時間の訓練が終わると、帰還してまた演習。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

書類上はクリーブランドとのバディを組んでいることにはなっていたものの、新米のヘレナと違いあちらは艦隊の最高連度。共に出撃することは滅多に無かった。それでも、たまの休みにクリーブランドは訓練指導を兼ねて、ヘレナの出撃につきあってくれたりもする。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

プライベートの時間すらも自らのために割いてくれるクリーブランドへの、感謝の念となによりも憧れから、ヘレナはそんなハードワークな日々も歯を食い縛り乗り切っていった。 だが、ヘレナが頑張っていたのは戦技訓練だけではなかった。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

一日の訓練スケジュールが終わった後や、食後の僅かな休憩時間、そんな隙間時間を衛生兵資格を取るための勉強に充てていたのだ。 この基地には衛生兵たる艦船が一人もいない。クリーブランドの言葉に着想を得ての、誰に命令されるわけでもないヘレナ自身の自主的な勉強だった。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

今現在、この基地には新たな海域を攻略するプランは無い。既に制海権を掌握した海域の定期的な巡視と、それと並行した更なる軍備拡張が目下の課題である。そのため、艦隊最高練度のクリーブランドやウィチタたちの主任務は出撃ではなくCSARへと大きく移行していた。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

コンバット・サーチ・アンド・レスキュー、略してCSAR。戦闘捜索救難とも呼ばれるその任務は、ヘリで単身敵地へ侵攻ないし潜入しての負傷兵の回収である。二軍以下の新兵らを多く海域へ派遣しているこの基地においては最も重要な役回りだ。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

出撃中の艦隊に戦闘不能に陥った者がいた場合、即応状態で待機していたクリーブランドたちはスクランブルの掛かった戦闘機パイロットよろしく待機室を飛び出し、すぐ外に駐機してあるヘリへと走る。 用いられるヘリはMH-60L、DAP。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

陸海空を問わず運用されている傑作ヘリ、UH-60ブラックホークのマイナーバージョンアップ版である、特殊作戦仕様のMH-60L。通称ベルクロホークと呼ばれるそのヘリに更に、70ミリ多連装ロケット『ハイドラ』のポッドや対戦車ミサイル『ヘルファイヤ』、 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

それに30ミリチェーンガンやM134ガトリング『ミニガン』を満載した、攻撃ヘリかと紛うばかりの重武装ヘリである。直接行動侵攻機ないし防御武装侵攻機（DAP）の名に恥じぬその機体に飛び乗り、予めキャビンに準備していた艤装を身につけると同時に彼女らは戦場へ向けて飛び立つ。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

ヘレナはそんな二人をいつも地上から見送るばかりだった。三人一個分隊編成の出撃メンバー枠で、ヘレナが納まるはずの枠はいつも空席のままなのだ。欠員を押してまでして出撃するのは、まだ練度が足りないヘレナへの気遣いと、早く追いついて来いというクリーブランドの激励だった。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

一体幾度、一緒に出撃できない歯痒さに唇を噛み締めたことだろう。 毎晩遅くまで勉強しているうちに、気付くと机に突っ伏し寝てしまったヘレナに遅く返ってきたクリーブランドがそっと毛布をかけたことも数知れず。 ＃今夜のクリヘレ

深海さかな @dzurablk_kai

そんな有形無形の、時には厳しく時には優しい励ましの数々を背に受けながら、ヘレナは一挙に艦隊最高の戦力まで上り詰めた。衛生下士官としての資格と共に。 ＃今夜のクリヘレ