稲川淳二の『つぶやき怪談』(2018.05.21)

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稲川淳二 @Junji_Inagawa

「実はな、昔あることがあって、 それ以来、そうしているんだよ」

2018-05-21 22:08:24
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そう聞くと、やはり聞きたくなるんですね、 「親方、よかったらその話、聞かせてもらえませんか」

2018-05-21 22:09:25
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、頼むと、 「ああ、いいよ」

2018-05-21 22:09:55
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、話してくれたんだそうです。

2018-05-21 22:10:10
稲川淳二 @Junji_Inagawa

仮に、この親方をAさんとしておきましょうか。

2018-05-21 22:10:32
稲川淳二 @Junji_Inagawa

それは、Aさんがまだ、特殊効果の若手スタッフだった頃の事。

2018-05-21 22:10:51
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ドラマの撮影で、陽が沈みかけた断崖絶壁から、足を踏み外して、 男が落ちるというシーンがあったそうです。

2018-05-21 22:11:17
稲川淳二 @Junji_Inagawa

この撮影の場所というのが、 伊豆の相模湾に面した、切り立った断崖で、 自殺の名所としても有名なところなんです。

2018-05-21 22:11:51
稲川淳二 @Junji_Inagawa

確かに、眺めはいいので、 昼間は観光にやって来る人達もいるんですが、 このあたりには土産物屋とか、飲食店といったものは一軒もない。

2018-05-21 22:12:23
稲川淳二 @Junji_Inagawa

夜ともなると、 打ち寄せる波の音が聞こえるだけで、人っ子ひとりいなくなる。

2018-05-21 22:13:03
稲川淳二 @Junji_Inagawa

それで自殺者がくるわけだ。

2018-05-21 22:13:35
稲川淳二 @Junji_Inagawa

それも、月も星も無い晩をえらんで来るそうです。

2018-05-21 22:13:42
稲川淳二 @Junji_Inagawa

というのは、夜はもともと人がこないところなんですが、 まして闇ともなれば、なにも見えないから、人がまったくこない。

2018-05-21 22:14:30
稲川淳二 @Junji_Inagawa

それに自殺者にしてみればなにも見えないから、 闇に向かって、ぽーんと、飛び降りれば、

2018-05-21 22:14:48
稲川淳二 @Junji_Inagawa

2秒半かそこらで、 崖下の岩場に激突して、一瞬にして死ねるわけですよ。

2018-05-21 22:15:05
稲川淳二 @Junji_Inagawa

死のうという人でも、 やっぱり、景色が見えちゃうと恐いんでしょう。

2018-05-21 22:15:25
稲川淳二 @Junji_Inagawa

まあ、そんな場所での撮影があった。

2018-05-21 22:15:49
稲川淳二 @Junji_Inagawa

こういうシーンの場合、まず、俳優さんの驚きと恐怖の顔のアップで、 「あっあぁぁー!」 と悲鳴を上げて、後ろへのけぞって、カット。

2018-05-21 22:16:23
稲川淳二 @Junji_Inagawa

次に俳優さんの身代わりの、 ダミー人形が断崖の上から落ちてゆくカットを撮るんですね。

2018-05-21 22:16:47
稲川淳二 @Junji_Inagawa

死んでいるシーンでは、俳優さんが、 口の端に血のりを塗って、岩の上に倒れていればいいわけです。

2018-05-21 22:17:17
稲川淳二 @Junji_Inagawa

さて、撮影は順調にすすんでいって、 俳優さんの恐怖の表情のアップを撮り終えた頃には、

2018-05-21 22:17:43
稲川淳二 @Junji_Inagawa

だいぶかたむいた夕陽が辺りを紅く染めて、 今にも沈みかけている。

2018-05-21 22:18:14
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ちょうどいい状況になっていて、 このタイミングをのがしたら陽が沈んでしまって、 今日はもう撮れない。

2018-05-21 22:18:45
稲川淳二 @Junji_Inagawa

撮影のチャンスは、今しかない、 ぶっつけ本番の一発勝負。

2018-05-21 22:19:19
稲川淳二 @Junji_Inagawa

カメラを離れたところから、断崖に向ける。

2018-05-21 22:19:41
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