稲川淳二の『つぶやき怪談』(2018.05.21)

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稲川淳二 @Junji_Inagawa

Aさんが、ダミー人形を落とす役目です。 全員の顔に緊張がはしる。

2018-05-21 22:20:01
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「諸々よければ行くぞ! スタンバイ いいか!」 「はい! オーケーです! カメラ回りましたァ」 「行くぞォ! 本番一発勝負! よーい、はい!」

2018-05-21 22:20:27
稲川淳二 @Junji_Inagawa

それを合図に、 Aさんがかかえたダミー人形を、 断崖の上から落とすと、咄嗟に身を伏せた。

2018-05-21 22:21:02
稲川淳二 @Junji_Inagawa

人形が沈みかけた夕陽の中を落ちていく。

2018-05-21 22:21:23
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、これが途中で、 ちょうど下から吹き上げる風をうけて、 うまい具合に、手足をばたつかせた。

2018-05-21 22:22:00
稲川淳二 @Junji_Inagawa

それが、逆光ですから、 黒い人影になって、 本当に生きてる人間が暴れたように見えたわけだ。

2018-05-21 22:22:19
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「カット!」 監督の声がかかると。

2018-05-21 22:22:54
稲川淳二 @Junji_Inagawa

思わずスタッフ達から拍手がわいた。

2018-05-21 22:23:16
稲川淳二 @Junji_Inagawa

監督にしてみれば、 使うのはせいぜい1〜2秒ぐらいのカットですから、 たいして期待などしていなかったんですが、

2018-05-21 22:23:41
稲川淳二 @Junji_Inagawa

落ちてゆく途中で、体をばたつかせたのが、 非常にリアリティーがあったんで、すっかり気をよくして、

2018-05-21 22:24:02
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いいなあ! あてにしてなかったのに、 人形がいい芝居してくれたよ、 この場面、スローかけようか」

2018-05-21 22:24:24
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうするうちに、陽が沈んで、制作から、

2018-05-21 22:25:19
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「本日の外での撮影は、これで終了です。 この後は屋内になりますので、 撤収して、各自移動して下さい!」

2018-05-21 22:25:42
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、いう連絡事項が伝えられたんで、 みんなが撤収し作業を始めた。

2018-05-21 22:26:11
稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、Aさんもダミー人形を回収しに、 崖下へいかなければならない。

2018-05-21 22:27:16
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが陽が落ちて辺りが闇に包まれると、さすがに恐い、 何人もが自殺している断崖絶壁なんですからね。

2018-05-21 22:27:56
稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、行かない訳にはいかない。

2018-05-21 22:28:16
稲川淳二 @Junji_Inagawa

懐中電灯の明かりを頼りに、 断崖を降りて、行ったわけだ。

2018-05-21 22:28:38
稲川淳二 @Junji_Inagawa

初めのうちは、まだ皆の声が聞こえているからいいんですが、 険しい岩肌の崖を足元を照らしながら、 だんだんと下りていくうちに、

2018-05-21 22:29:04
稲川淳二 @Junji_Inagawa

次第にみんなの声が聞こえなくなって、 急に心細くなってきた。

2018-05-21 22:29:30
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ザッブーン! ザッブーン! ザッブーン! と、岩に打ち寄せる波の音が大きくなってくる。

2018-05-21 22:29:59
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(早くダミー人形を見つけて、引き揚げよう) と思いながら、やっと断崖の下にたどり着いた。

2018-05-21 22:30:41
稲川淳二 @Junji_Inagawa

一方は、暗ーい海が広がって、 もう一方は、深い青みをおびた夜空を背景に、 黒い断崖絶壁がそそり立っている。

2018-05-21 22:31:16
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