ショートショートホワイトメイジ

エオルゼア(ハイデリン)を舞台にしたショートショート群
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イシュガルド

こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story ある時、町に余所者がやって来た。連れが二人いた。冒険者崩れだか傭兵崩れだかどちらかだと仲間は話した。遠目に見たことがある。なんてことない普通の奴だ。仲間の一人が言った。奴は翼を持たぬ竜だ。今にきっと、この国に不幸を呼び込むに違いない。

2016-12-30 13:18:43
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 俺たちは毎晩酒場に集まり、そいつをある時は蔑み、ある時は憐み、ある時は笑い者にした。まずい酒にも肴は必要だ。風が強く吹き、酒場の中にも雪が吹き込んでくる。

2016-12-30 13:18:56
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 冒険者崩れだかの若者は町を離れた。国の偉い奴が死んだ。国を導く奴が変わった。それから戦争が終わった。偉い奴が演説をした。皆、その場に集まり黙ってそれを聞いたという。その言葉を聞いたという。

2016-12-30 13:19:13
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 俺はその場には行かなかった。窓の外は変わった様子はない。やがて重く苦しい風が吹く。外の人びとは叫んだ。「新しい風だ!」、「山脈から降りてきた、美しい風だ!」。風は窓を閉めていたので、俺のもとまで来なかった。

2016-12-30 13:19:30
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 長い沈黙のあと、仲間の一人が言った。あの若者は英雄だ、いくさの中でも心で怖じぬ、立派なつわものだ。神の愛を受けてこの国にやって来たのだ。それきり、誰も何も言わなかった。若者はやがて国を離れて行った。そいつの行方は誰も知らない。

2016-12-30 13:19:49

こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 生涯で一度だけ、彼は答えた。「戦時中に武器を握るのはどういうことか。敵を殺す為です。」この人は死ぬだろうと思った。「ええ、そうね。さよなら。騎士様」「ああ、さよなら」彼は思ったよりずっと早くに死んだ。皆、私のことを心配したが本当は、心の底から安堵したのだ。

2017-02-23 15:17:28
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 彼の葬儀では、皆、棺に美しい花を入れた。棺の中には、彼の遺体の一部が入っている。自分がそこに入れるべき花を、私は、私しかいないひとつの家に持って帰り、花瓶に飾った。花は三日で枯れた。それ以来、彼には一度も会っていない。

2017-02-23 15:19:46

こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 店に場違いな奴が来た。綻びのない服を着た女だ。彼女の瞳は泣いていないのに濡れていて、震える指で煙草に火を付ける。「どうなさったの」出し抜けに彼女が尋ねた。「何がです」「テーブルのこの染み」白く細い指で差す。「それですか、客が喀血しましてね」

2018-05-27 21:53:13
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

「マァ、その方は、今?」「死にましたよ」沈黙。「ああ、喀血が原因じゃないんですがね。なにしろ酒狂いだ。昔は名のある傭兵だったらしいんですがね。最期は憐れなものです」「フウン」女は染みに煙を絡ませた。「その方が最後に呑んでいた酒を教えてくださる?」

2018-05-27 21:53:50
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

「これですよ」酒の入った瓶を指す。「私も喀血して、死のうかしら」「はァそれは、何故」「こうやって、染みのふちを見て、お話ししてくださるのでしょう?」女は薄く笑った。私は答えた。「では、杯いっぱいに注ぎましょう。飲むときは酒のことを考えないで」女は笑ったままこちらを見ている。

2018-05-27 21:54:53
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

「一体、それはどうして」「死んだそいつが言ってたんですよ」「おかしな方。お酒が好きなのに、召し上がっている時にお酒のことを考えないだなんて。でも、折角だから、ご助言通りにいたしましょうか」注がれたグラスを掲げる。「お酒狂いのその方に。」言って、女は飲み干した。

2018-05-27 21:55:34

こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 死体を見つけたのはモブを探している時だった。日は暮れ掛かりそろそろ撤収しようと考えていた矢先に、崖の下に横たわっていることに気付いたのだ。この辺りは、よく慣れた者でも落ちる。降りて確認してみると、それは若いヒューランの男で、雪に閉ざされ絶命し、暫く経った後だった。

2019-01-20 00:19:38
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story こいつは余所者だ。どこの所属とも知れない。国の外で暮らしている連中に対する差別意識というものが私の眼前に蘇り、その瞳を曇らせた。ここは近寄り難く人の気というものがない。恐らく回収には誰も来ないだろう。私がここで人が死んでいますと案内するなら或いは。いいやそれは面倒だ。

2019-01-20 00:20:24
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 私は、見て見ぬふりをした。黙っていた。私の国の人びとは、みな、戦後のことに心の全てを砕いており、私がその死体のことを誰かに教えた所で誰も気にしないように思われた。凍った死体はずっとそこにいた。崖の下で死んでいた。私はそこを訪れるたびに、その死体を改めて見つけた。

2019-01-20 00:22:06
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 彼はヒューランだった。若かった。不思議な形の耳飾りをつけていた。私の国のものでない剣を携えていた。彼の上にはいつも雪が積もっていた。私は時折それをどかし、崖の上を見た。今更誰に言うこともないと、雪をどかすたびに思った。国で他の余所者に出会うたびに、彼のもとを訪れた。

2019-01-20 00:23:53
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 或る時に観念して国の騎士に言った。騎士は笑った。雪の冷たさ。「そいつは私たちの国の者かね?」「いいえ」「ではあなたは、何も見ていなかったのだ。話は終わりだ」私は、次の日に崖の下の彼を、崖の上に運んだ。彼は酷く重くて、私は苦心した。初めて、彼は生きていたのだと思った。

2019-01-20 00:26:19
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 時間をかけて、私は彼を埋葬した。その耳飾りを貰い、私は私の耳に付けた。いくつかの時間が過ぎた後、酒場で飲んでいると、ヒューランの男がやって来て相席した。彼は人を探していると言った。いつか崖の下で見たものと同じ剣を下げていた。私は心当たりがあると言った。男は顔を上げた。

2019-01-20 00:29:15
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story 「本当ですか」男は半信半疑といった具合だった。私は決心した。「アラミゴが解放されたので、そちらに流れると」男は沈黙し、頷いた。「分かりました」彼は立ち上がり言った。「素敵な耳飾りですね」男は去り二度と戻らなかった。何故あの時嘘をついたのか、今でも分からないままでいる。

2019-01-20 00:31:21

アラミゴ

こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story  「なんだか、もうずっと、つめたい風の中を、進んでいたような気がするのよ」とやけに小声で彼女は言った。「いつからかは知らないけど、いつからかそうだったのよ」寒い氷の中を彼女はもうずいぶん長いあいだ、時を忘れて過ごしていたあとだった。

2017-12-31 01:49:13
こんにちはラッテ @rui_bandeff14

@FF14_story  「ああ、同じ時を過ごしたはずなのに、彼女にだけ氷が刺さったのだ。その氷は、もうにどと融けることはないのだ」けれども彼女は平気になったのだ。一体誰が、彼女に、その氷をまるごと抱いて、そのまま進めるようにしたのだろう。

2017-12-31 01:49:45