突発現パロSS、第二十話

本編おしまい
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鉢植えホットケーキ @in_KabeWall

「いえ真剣な顔が可愛らしいと思っただけなので!お気になさらず!」 大井の奥で香取が噴き出しているのが見えた。 「そ、そう......」 微妙な空気になる中、固定電話が鳴った。大井は番号を見て、鹿島に出るように促した。 「クライアントの方からかけてきたわ」 「わ、わかりました」

2018-06-19 20:37:07
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鹿島は受話器を取り、お電話ありがとうございますと定型文から入る。 『よう武蔵だ!今回は新人研修になると聞いてな、私からかけてみたぞ』 球磨カンパニーです、と続ける隙を与えず、クライアントは溌剌と喋る。 『明日の朝五時に夕張の所まで迎えに行くから、艤装だけ装着して待っていてくれ』

2018-06-19 20:41:29
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じゃあ体調管理をしっかりなと言って電話は切られる。 「あ、そうだ。今回の件に限っては報酬とかの話は直接経理に飛んでるから、安心してね」 「はい」 正直そんな事気にしていなかったが、自分から営業に出るようになれば色々とやる事があるのだろうなと何となく鹿島は思った。

2018-06-19 20:47:04
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「さて、電話も済んだならもう帰って大丈夫。出社してもらうのは体調を確認させてもらう為だけど大丈夫そうだし。明日に備えて身体を休めなさい」 「分かりました......その前に、少しだけ大井さんのお時間を頂いてよろしいでしょうか」 「ん?良いけどどうしたの?」

2018-06-19 20:50:00
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鹿島は大井を部屋の外へ連れ出す。香取は鹿島に、頑張ってと小声で伝えた。 「うん、ありがとう香取姉」 建物から出ると、涼しい風が吹いていた。大井は真っ先に昨日を思い出す。 「先輩、昨日はここで覗きのような真似をしました。すみません」 「あぁ、いいのよ。私が見てて良いって言ったんだから」

2018-06-19 20:55:14
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「私の艦娘としての初仕事の前に、大井先輩に一つだけ聞いて欲しい言葉があって。でもその為に、言い訳をしなくちゃならないんです」 「何かしら」 鹿島は目を閉じて、風が全身の熱を冷やして去るのを感じた。 「あなたの恋が実らなかったのをチャンスだと思ってしまった事」

2018-06-19 21:04:57
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「すごく酷い事だと思ったけれど、その罪悪感は私の恋心が消し飛ばしてしまいました。これが言い訳です。次に言うのがあなたに聞いて欲しい事です」 鹿島は自身の鼓動を感じる。 「好きです」 大井は驚く事も無く、悲しげな笑顔を見せた。 「うん、知ってる」

2018-06-19 21:10:16
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「そっか、それなら良かったです」 鹿島は晴れやかな気持ちだった。きっと今でも北上を好きな筈の大井の心に、鹿島が好きでいる事を置いていて貰えて、純粋に嬉しかった。 「鹿島、こっちに来て」 大井は陽の当たらない隅っこへ移動して、鹿島を手招きした。 「ここなら窓からも覗けない」

2018-06-19 21:24:15
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「先輩?」 大井は近づく鹿島に一歩踏み込んで、頰にキスをした。 「先輩!?」 「私から返せるのは今はこれが精一杯」 「わ、わ」 「私は北上さんが好きだから、口にはしないけどね」 大井はいたずらっぽい顔で鹿島を見た。 「わ、わ、わ」 「ほら、明日があるんだから帰りなさい?」 「わぁーっ!」

2018-06-19 21:29:31
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香取は部屋に飛び込んで来た鹿島に驚いた。 「香取姉、今度落ち着いて話すから!」 鹿島は自分の鞄を抱えて一目散に会社から走って出て行った。 ぽかんとしていると、大井が戻って来る。 「あの、鹿島に何を」 「感謝の意を表したの」 大井の表情から、香取はきっと良い展開だったのだろうと思った。

2018-06-19 21:36:00
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海辺に小さな船が着く。 「ようおはよう、私が武蔵だ。君が新人の鹿島だな?話は聞いているぞ。今日は私の趣味の釣りに付き合ってもらおうと思ってな。魚が食い付くまでの間、私の話し相手になってもらうという仕事さ。どうだ、簡単だろう」 聞くところによると、普段から道楽で釣りをしているらしい。

2018-06-19 21:44:31
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「昨晩はよく休めたか?内容が何であれ初仕事とは緊張するものだ、何かあったらすぐに言えよ」 艤装の管理ついでに鹿島の見送りに来た夕張から、実は武蔵も艦娘で自前の艤装を持っているとの情報を受け取った。 「さあ魚が釣られるのを待っている、出発しよう」 はいと返事をして、鹿島は海に立つ。

2018-06-19 21:48:31
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「ポイントに着くまでしっかり見張りを頼むぞ、でかいタンカー船でも見落とす時は見落とすからな」 辺りを照らし始めた朝陽を見ながら、鹿島は気持ちを引き締める。今ならどんな仕事でもやり抜ける気がした。 「定時連絡忘れないでくださいね」 夕張の助言に返事をして、鹿島は武蔵の乗る船を追った。

2018-06-19 21:55:00