せんしぐ夏休み2018

夏休みに従姉妹な川内さんと時雨さんが田舎の祖父母の家で過ごすお話。
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蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

「んじゃ、おうち帰って花火の準備しよっか。蔵に花火とかロウソク置いてあるから、バケツに水張って」「そうだね……うわぁ!?」繋がれていた手が離れる。「時雨?」「な、何……やめ、た、助けて川内さん……!」

2018-07-12 07:25:50
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

蹲る時雨の近くにしゃがみこんで、サッと視線を巡らすが特に異変は見当たらない。「時雨」「うぅ……服の中に……」「服?」時雨のTシャツに手をかける。一瞬の逡巡、めくりあげると出てきたもの。「……カブトムシ」「……」時雨はひどく疲れた顔をしていた。

2018-07-12 07:33:37
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

虫かごの中のカブトムシは元気にわさわさ動いている。「元気だしてよ、ほら、花火しよう?」「……もう僕お嫁さんいけない」「いけるいける、私がもらう」「花火ちょうだい」「はい」火花が吹き出す手持ち花火、二人してしばらく無言で眺めていた。

2018-07-12 07:40:13
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

「河童の川流れ!!」「不穏だなぁ」一夜明けて遅めの朝、ゴロゴロしていればすぐにお昼も過ぎて、お祭りが始まる夕暮れ前にビーチサンダルをひっかけて川遊びへ。

2018-07-12 09:41:12
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

ざぶざぶと石ころの上で水をかき分け、魚に逃げられては、からからと笑う。スイカを川の流れに留めて冷やしながら、一向に川へ入らない時雨に声をかけた。「おいでよ」「うーん」

2018-07-12 10:51:39
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

ゆっくりと、つま先から。冷たさに顔をほころばせて、そのままこちらへ歩いてくる。「冷たいね」「ね」

2018-07-12 11:05:17
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

流れに逆らって浅瀬をばしゃ、ばしゃ、と踏んでいった。全身が濡れるようなことも、お腹が捩れるくらい笑うようなこともなかったけれど、ただただ駄弁りながら歩くそんな時間がとても楽しかった。

2018-07-12 11:12:12
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

「おばあちゃんにやってもらった方が確実だと思うけど……よっと、はい完成」「ありがとう」「うむ、浴衣も時雨もかわいい」「川内さんも綺麗だよ」色鮮やかな浴衣を身に纏い、持ち物確認、楽しいお祭りに向けて。「髪の毛、ちょっとアレンジしていい?」「お願い」かんざし片手にヘアピンを用意。

2018-07-12 18:56:10
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

編み込んで留めて差し込んで。かんざしの飾りが揺れる、時雨の黒髪がキラキラしていた。「夜色だなぁ……」「?」可愛すぎて他の人には見せたくない、などと思いながら余ったヘアピンで前髪を留める。はぐれないようにずっと手を繋ごう、そう心に決めた。

2018-07-12 19:01:50
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

よく冷えたラムネに、黒と白の狐のお面、わたあめとチョコバナナを半分こした。水色とオレンジのヨーヨーをぶら下げて、ひらひら泳ぐ金魚を眺めていた。「あぁそろそろ」時雨が空を見上げる。「花火が打ち上がるね」

2018-07-14 08:44:59
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

屋台立ち並ぶ賑やかな通りから、暗くて静かで、誰もいない公園のすみっこ。焼きそばを啜りながら、その時を待っていた。「たこ焼き一個食べるかい?」「食べる!」口をあけて催促すれば時雨は優しい目をして、爪楊枝を刺したたこ焼きを一つ、口の中にいれる。「おいしいねぇ」「おいしいね」

2018-07-14 08:51:56
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

空に一つ花が咲いて、直ぐにもう一つ二つ、パッパッパッと咲いていった。光が反射して、音が反響して。「たーまやー」「かーぎやー」ふたりで静かに呼び掛けた。クスクス笑って、また一つ、打ち上げる花火を眺めている。

2018-07-14 08:54:35
蘆蕪(きょむ) @ashi_kabu

「ただいまー」「ただいま」おかえりなさい、と一緒に蚊取り線香の煙がお出迎え。浴衣を脱いで、寝巻きに着替えて、また明日。明日はお泊まり最終日だ。「明日もまたあそぼうね」「うん」

2018-07-14 10:49:46