レイアが外敵と格闘する話

ずっと書きたかったオートスコアラーのレイアさんが活躍するお話です。 時系列としてはまだ本編よりずっと前。ミカも稼働していない時期のことです。
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ばん @vande1021

「マスターぁ?マスターぁ?考え事ですか?それともゼンマイが切れてしまいましたか?」真白い指が顔にかかる髪を流す。この世のあらゆる櫛より繊細に彫刻された指だ。「やめろ」やわらかく小さな手が、髪に触れる指を握って止めた。見開かれた目は威圧的だった。 1

2018-08-18 21:59:59
ばん @vande1021

「起きている」この城の主、キャロル・マールス・ディーンハイムの返事はその子供らしい見た目とかけ離れた凄みに満ちていた。「そんなに怒らないでくださいよ」不敵な笑みを絶やさない少女は手を引っ込めて痛がる素振りでさすってみせている。 2

2018-08-18 22:02:00
ばん @vande1021

「怒っていない。暇なら遣いにでも出してやろうか、ガリィ?」「うげっ、ガリィよりもマスターこそお出掛けされたら良いんじゃないですかあ?ここ暫く進捗がよろしくないようですし……気分転換に」見目の良い顔を歪めてガリィと呼ばれた少女はキャロルへと返した。 3

2018-08-18 22:04:01
ばん @vande1021

この城にはキャロルと、キャロルに仕える従順なしもべしか存在しない。しもべ達はその全てがキャロルの手により作り出された存在だったが、素晴らしいことにガリィをはじめこうして主人に意見を述べることがあった。 4

2018-08-18 22:06:01
ばん @vande1021

「あら、お出掛けでしたら是非わたくしも」同じ広間の中からゆるやかで余裕を思わせる声が二人の会話に混ざってきた。長身の女性を模したそれはつい今まで目をつむり待機していたが、ぱちりとまぶたを開けるとそれ自体が何かの振り付けの一部のように腕を下ろした。 5

2018-08-18 22:08:06
ばん @vande1021

「ファラ、マスターには私が同行する」つられて落ち着いた声音が混ざる。タイトなスタイルの女性を模した存在が声を出していた。「みんなで出てきたら良いですよお。その間に休んでますから」そう言い残してガリィは自らの定位置まで歩んでお辞儀の後、やはりポーズをかたどってから目蓋を閉じた。 6

2018-08-18 22:10:26
ばん @vande1021

「ふん。癪だがガリィの言う通り久しぶりに外の様子を仕入れるか」キャロルは言い合うファラとレイアを視界に入れながら支度を始めた。キャロルの感覚でいう『久しぶり』。過去にも何度か外出し、世界の国々で候補地をいくつか用意してきた。 7

2018-08-18 22:12:03
ばん @vande1021

しばらくぼんやりと宙を眺めている様子だったが、その内に行き先が決まった。まず人の出入りの盛んな地域を使う。多様な人種や服装が入り乱れても悪目立ちしないためだ。物語や異邦の国々に関する書物、植物の種や漢方や調味料に酒、宝石や貴金属の装飾品。物と人の集まる場所は賑わいが絶えない。 8

2018-08-18 22:14:01
ばん @vande1021

キャロルはレイアと共に味気ない防塵のマントに身を包みながら人波を歩いていた。「こんなところか」一揃い目ぼしいものを買い付ける頃には日は傾き夕方へと差しかかろうとしていた。そんな時、二人を注意深く観察する一つの影があった。 9

2018-08-18 22:16:08
ばん @vande1021

それは巧妙に距離を置き、買い出しの途中からずっと続くものだった。 「マスター、追跡者がいます」レイアは身をかがめてそっと耳打ちした。「追わせておけ。そのうちどの手合いかはっきりする」テレポートジェムはそもそも人目のある場所では使えない。 10

2018-08-18 22:18:06
ばん @vande1021

二人は当初の予定通りに街から遠ざかり、やがて人気が無い山道を選んだ。ここで追跡者が行動を起こすはず。「お嬢ちゃんや、ちょっと良いかな」予想は当たった。「なにか?」レイアがまず何も知らない風に振り返った。「おお、噂通りだ」 11

2018-08-18 22:20:02
ばん @vande1021

追跡者の格好はやはり旅人のそれでこれといった特徴は見出せなかった。ただ、何か香りを放つものを身につけていることと、妙に嬉しそうな目が印象に残った。「いよいよわたしにも時が訪れたか」勝手に納得する男のコートの裾の合間から異様に物静かな少女が現れた。 12

2018-08-18 22:22:01
ばん @vande1021

香りが強くなり、この少女のものだと分かった。また、衣服はキャロルの見慣れない東洋の方面のものに思われた。「なんなんですか」レイアはなおも演技を続けた。「はあ、お芝居はやめるんだな。わたしはそちらの背の低い、ご主人の方に用があるんだ」偽装は見破られていた。 13

2018-08-18 22:24:10
ばん @vande1021

「我々が、何者か知っているのか」キャロルはいよいよ二人に向き合った。「ああ、知っているとも。わたしも色々と学んでいてね」「目的を言え」「これは失礼。わたしの名は――」「名前など訊いていない」 14

2018-08-18 22:26:09
ばん @vande1021

「ふっふっふっふっ。では後で覚えてもらうとしよう。目的は、君もお世話になっている『組織』にわたしのことを紹介してもらいたい」「……分かった。だが、ただでは紹介できん」「それならこれも噂通りかな。わたしの研究の成果を君が評価して、合格点をもらえたらということで構わないね」 15

2018-08-18 22:28:15
ばん @vande1021

「構わん。ただし、合格点に満たなかった場合は」「研究の成果は差し出さなくてはならない」キャロルと男は互いに条件を認めた。「さあ分かったね?頑張るんだよ」男が少女の目蓋に手をかざすと長らく閉ざしていた目を開いて返事をした。「レイア。相手をしてやれ」 16

2018-08-18 22:30:01
ばん @vande1021

「……ッ!」返事よりはやく鋭利な刃物が顔めがけ飛来!肌に届く寸前、指先で挟み止めた。実戦に挨拶など無し。より速い者が先手を得る。睨み返す先、数を増した第二波!背後にはキャロル。身をかわせば危機?否。この主人ならば自力で防ぐのは容易。 17

2018-08-18 22:32:05
ばん @vande1021

しかし決して視線を外さず、マントを脱ぎ捨てまばたきにも満たない俊敏さで主人の隣まで飛びさがる。しならせた脚線の輪郭を光沢が縁取って描く。今度はキャロルを抱えて跳躍。射線を外し近くの岩陰へとエスコートした。そう、キャロルにとってレイア達はただの戦闘兵器ではない。 18

2018-08-18 22:34:11
ばん @vande1021

この間、キャロルは眉ひとつ動かさない。フッと笑いレイアの目を見ると、頷いて応えた。再び凶刃が襲う。さらに距離を詰めに本体も駆ける。「調子に乗るな」襲撃者を真っ直ぐ見据え、両腕を差し出す。指先は緊張感を甘く撫でるように。男には鋭く察知するものがあった。「指弾か?」 19

2018-08-18 22:36:04
ばん @vande1021

キンッと弾ける微かな音が聞こえると熱を帯びた軌跡が走った。手のひらに握り込んだ金色の硬貨をレイアは弾丸として打ち出したのだ。「隙など与えはしない」再び先の暗器を振わすまいとレイアの指が動き始める。硬貨は残弾の憂いなど無いかのごとく次々に放たれる。これでは手数で不利。 20

2018-08-18 22:38:00
ばん @vande1021

香りの少女は足さばきで揺さぶりつつ、かわして接近を試みる。弾幕は途切れない。ならば!「イヤッ!」火花!火花!火花ッ!硬貨が歪んだ音を立てる!直撃するはずの顔や腕、身体の近くで何かが影を残して凄まじい速さで硬貨を叩き落とす。 21

2018-08-18 22:39:59
ばん @vande1021

それは硬質な素材でできた異なる長さの二本の棒をTの字に組み合わせて出来た暗器でトンファーあるいは旋棍などと呼ばれるものだが、キャロル達の知るところではない。「ッ!!」とっさに構えた防御姿勢。ゴウッと音と共に打撃が貫く。 22

2018-08-18 22:41:59
ばん @vande1021

勢いで後ろへ跳ばされ、足元で砂埃を残しながらの急制動。香りの少女はそのまま身体を残し、レイアの様子を油断なく窺う。「地味に痛打…ッ!」人間相手であれば骨を砕く一撃だった。まだ問題なく動くがやがて不調に繋がりかねない。 23

2018-08-18 22:43:59
ばん @vande1021

「なるほど。これほどの『オートマトン』とはな。たまには外に出るものだ」「予想を裏切れたようで喜ばしい」意外とも言える言葉を聞き出せたことに男は気を良くした。「レイア。にじり潰せ」だが、続くキャロルの表情は酷薄。「了解」前髪から覗く表情は好戦的に笑ってみえた。 24

2018-08-18 22:45:59
ばん @vande1021

「遊びだったとでも!?」自負があった。手応えがあった。「再起不能にすれば!認めざるを得ないでしょうッ!」緊張感を保ったままだった香りの少女が駆け出した。突きで離した距離を詰めてまたトンファーによる格闘戦を仕掛ける。右!左!右!左!突きと肘までを使ったコンビネーション! 25

2018-08-18 22:48:01