フォ・フーム・ザ・ベル・トールズ #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤープラスより【フォ・フーム・ザ・ベル・トールズ】#2

2018-09-04 21:43:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(これまでのあらすじ:日帰りサイバネ手術の代金が支払えなかったテマリは、女子高生回収トラックに積まれ、ネオサイタマ南西のキャニオン荒野へと運ばれてしまう!照りつける太陽!そこはセーラー服姿の女子高生たちが採石や穴掘りや穴掘りなどの労働に従事する、恐怖の女子高生収容所であった!)

2018-09-04 21:45:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヨイ、ショ、ヨイ、ショ……ああ……あなたは新入りですね。カワイソウ……」一番後ろにいたオサゲ・ヘアの女子高生が、テマリに微笑みかけた。「新入り……ってどういうこと?」「ここは……女子高生収容所ですよ……ヨイ、ショ、ヨイ、ショ……」 1

2018-09-04 21:47:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「女子高生、収容、所……」その言葉が、テマリのニューロンを雷撃の如く震撼せしめた。いつか聞いた不吉な都市伝説が、テマリの脳裏に蘇る。返済不能なローンを抱えてしまった女子高生は、ネオサイタマから遠く離れた収容所へと連れて行かれ、そこで終わりなき労働を強いられるのだという。 2

2018-09-04 21:49:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「新入りの人、名前は何ですか?」「私は…テマリ」「こんにちはテマリ=サン。私はミラです。もう6ヶ月以上もここにいます。仲良くしましょうね」ミラの過剰なまでに丁寧な喋り方は、重篤IRC中毒症状を思わせた。「仲良く?」「ええ。隣に来てこの角材を担いでください。そうすれば目立ちませんよ」3

2018-09-04 21:53:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アッハイ」テマリは従った。5人で並び、角材を担ぎ、掛け声とともに歩く。「「「「「ヨイ、ショ、ヨイ、ショ……」」」」」汗が滲む。太陽がテマリの体力を奪ってゆく。「ねえ、これ、夢だよね……?」「夢ではありませんよ、重いでしょう?」角材と現実の重みが、テマリの肩にのしかかった。 4

2018-09-04 21:58:44
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テマリは恐る恐る問うた。「ミラ=サン、あなたはどうしてここに収容されたんですか…?」「私ですか?IRC端末のローンをハッキングで踏み倒そうとして、ここに運ばれました。我ながら愚かなことをしたものです。テマリ=サン、あなたはどんな借金を?」「サイバネアイ手術でボッタクリされて……」 5

2018-09-04 22:02:54
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「なるほど。そんな人がここには大勢いますよ。だから仲良くしましょうね。ここからは絶対に逃げられませんから、諦めるのが一番です」「それで、いつまで働けば出してもらえるの?」「いつまで?いいえ、給料はありませんから、永遠に出られませんよ」「そんな」「万が一脱走を図ろうものなら…」 6

2018-09-04 22:07:25
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その時、採石場で叫び声!「アイエエエエ!もう嫌だァアアアアア!おうちに帰りたいよオオオオオ!」金髪パーマの女子高生が突如フリークアウト!砂利を積んだ荷車を放り捨て逃走を開始!「「「ヨイ、ショ、ヨイ、ショー…」」」だが他の石材切り出し女子高生らは見て見ぬ振り!黙々と労働に従事! 7

2018-09-04 22:12:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「邪魔だ!どけーーッ!イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤーッ!」「アイエエエエエエエエエエ!」邪魔な女子高生を次々つきとばしながら、金髪パーマ女子高生はなりふり構わず逃走!「に、逃げていくけど?」テマリが問うた。「シッ、見ちゃダメです。気にせず、運びましょう」ミラは鋭く言った。 8

2018-09-04 22:16:39
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その直後、テマリの視界の端に、奇妙なものが映った。(あれ?今……何かが)左斜め前方。見張り塔らしき建造物の屋上で、黒づくめの男が、腕を組んで笑っていた。(蜃気楼かな……?)テマリは本能的な恐怖を覚えながらも、サイバネアイでそれを拡大視した。 9

2018-09-04 22:20:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その男は黒い頭巾を被り、口元をメンポで覆っていた。見えるのは目元だけ。そして男は、両目を真っ白に発光させていた。それは、ニンジャであった。(……ニンジャ?)テマリは声を震わせ、呟いた。(……ニンジャナンデ?)自分の膝がガクガクと震えているのがわかった。 10

2018-09-04 22:23:44
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見張り塔のニンジャは、体の前で両手を奇妙に回転させ、空中にブロックサインのようなものを刻んでから、脱走女子高生の方向を両手で指差し、叫んだ。「イヤーッ!」鋭いカラテシャウトが採石場に轟き渡った。 11

2018-09-04 22:27:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

直後、ニンジャの両目から眩いレーザー光線が放たれた。それは空気を焼き焦がしながら飛び、脱走女子高生を背中側から貫いた。「アイエエエエエエエエエ!?」金髪パーマ女子高生は、球状の光爆とともに原子分解した。足首から先、アンクル丈になった白い靴下と革靴だけが、その場に残されていた。 12

2018-09-04 22:32:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エッ、今……」テマリは泣きそうな顔でミラのほうを見た。「あの見張り塔から監視されているのです。脱走は、不可能です」「そんな……」テマリは意識を木材運搬と足並みに集中した。テマリの黒い耐重金属酸性雨シューズと白いソックスは、すぐに粉っぽい土で赤茶色に染まっていった。 13

2018-09-04 22:36:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……。 14

2018-09-04 22:39:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて夕暮れがキャニオンを染め上げる頃、厳かな鐘の音と、繁華街の呼び込みを連想させる退廃的な電子合成音楽が、広大な採石場に鳴り響いた。労働を終えた女子高生たちは頭を垂れて列をなし、巨大トーチカじみた灰色のコンクリート複合施設へと戻っていった。 15

2018-09-04 22:42:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

テマリは来る日も来る日も石材を切り出し、手押し車で運び、あるいはチェーンソーで木を伐採し、仲間とともにそれを運んだ。施設内には下着やセーラー服が各種サイズ十分量用意されており、毎日クリーニング済みの新しいものに交換させられた。革靴も同様であった。 18

2018-09-04 22:47:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

施設には雑魚寝用の百畳タタミ部屋、食堂、シャワールームと浴場、プリ・クラ、自販機、ヘアサロン、ネイルサロン等が複数あったが、それ以外には、何もなかった。TVも、IRCも、受験勉強も許されないのだ。黒スーツにサングラスの男達が施設を管理していたが、彼らが暴力を振るうこともなかった。 19

2018-09-04 22:54:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

毎日が屋外労働というわけではなく、施設内でオリガミを折る日もあった。水曜日は穴掘りの日だった。テマリはミラと一緒に穴を掘り、夕方にはそれを埋めた。埋め終わるとテマリは、この労働に何の意味があるのか、と、問うた。おそらく、これには何の意味もありません、と、ミラは深刻な顔で答えた。20

2018-09-04 22:58:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その言葉を聞くと、果てしない徒労感と虚無の弾丸がテマリの心臓を突き抜けた。自分たちが作成した木材やオリガミも全て、後ほど焼却場で燃やされているのが解った。女子高生である自分が作ったものなのに、女子高生である自分が掘った穴なのに、そこには何の価値も認められず、消し去られるのだ。 21

2018-09-04 23:02:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

テマリは自分からかけがえのない女子高生性が失われてゆくのを感じ取った。あれほど疎んでいた口やかましい家族も、過酷なセンタ試験勉強も、今はむしろ懐かしく、恋しいものであった。 22

2018-09-04 23:07:00