フォ・フーム・ザ・ベル・トールズ #2
このまま勉強も出来ずに年老いていったら、どうなるのだろう。食事はそれなりに健康的なメニューが組まれていたし、労働中に倒れた場合は救護室に運ばれた。だが、たとえ強制労働で死ななくとも、どうなるのだろう。その時、自分には、一体何が残されているのだろう。 23
2018-09-04 23:10:46ミラが言うには、この施設を運営する闇カネモチたちはおそらく、女子高生のそうした絶望を邪悪な愉しみとして味わうためだけに、この強制労働施設を運営しているのだろう、とのことだった。 25
2018-09-04 23:16:12……ゆえに、運営者たちは、この女子高生収容所に監視カメラのようなものを置きはしないし、そうした盗撮猥褻動画を売ったりもしない。ましてや、女子高生たちに客を取らせることもない。この施設は何の利益も生み出さず、むしろ、カネと若さを際限なく浪費し続けているだけなのだ、と。 26
2018-09-04 23:18:21「ねえミラ=サン、どうにかして、ここから逃げ出す方法は無いのかな……?」労働を終えたテマリは、室内用のセーラー服に着替えながら、ミラに改めて聞いた。「ありませんよ。仮に見張り塔の範囲から逃げても、その先には電磁フェンスがあるらしいですから」「そうなんだ……」 27
2018-09-04 23:22:09「テマリ=サン、まだ脱出とか甘いことを考えていたんですか?呆れてものが言えません」「スミマセン……でも、私、不安で……フリークアウトしちゃいそう…」「なるほど、これはもう仕方ないですね」俯いていたミラは突然、テマリの手を握った。「エッ、何を」「一緒にシャワー室に行きましょう」 28
2018-09-04 23:25:48「エッ、シャワー室に?」テマリは訝しみ、掌が汗ばんだ。「シャワー室で、何を……」「決まっているじゃないですか。2人で1つのシャワー室に入り、泡だらけになって体を洗うんです。それしかありません。あなたのことは最初見た時からカワイソウだと思っていました!慰めさせてください……!」 29
2018-09-04 23:29:01「そんな……!」卑猥!テマリは恐るべき背徳行為の誘いを前にして頰を赤らめ、恐怖に震えた! 女子高生強制労働施設に、さらにこのような罠が待ち構えていたとは!「テマリ=サン、あなたはもう限界なんですよ!だからこうして慰め合うしかないんです!そして外のことを考えないのが一番です!」 30
2018-09-04 23:31:39ミラはタガが外れた笑顔でテマリの手を握り、グイグイと引っ張った。「みんな隠してますけど、こんなのはここではチャメシ・インシデントなんですよ!」「でも!」テマリはミラから漂ってくる汗のいい香りで思わず屈しそうになったが、頭の中で家族とブッダの顔を思い浮かべ、踏みとどまった。 31
2018-09-04 23:35:04「ミラ=サン、やっぱり、ちょっと、ダメだよ……!お願い……!ヤメテ……!」テマリはその手を振り払って、逃げ出した。「テマリ=サン……」ミラは悲しい顔を作り、テマリを追おうとはせず、一人でシャワー室へと歩いて行った。テマリは泣きじゃくりながら、百畳敷きのタタミ部屋へと走った。 32
2018-09-04 23:38:54(((地味な感じのミラ=サンが、まさかあんな獣のような行為に及ぶなんて……!)))テマリはもはや誰も信じられないパラノイア心理状態へと陥り、浴場にも行かず、就寝用のセーラー服に着替えると、キリタンポめいてフートンに包まり、雑魚寝タタミ部屋の隅でブザマに震えた。 33
2018-09-04 23:42:42(((みんな、おかしくなってるんだ…。もう誰も信じられない。私の人生もオシマイだ。ここで青春を削り取られていくんだ。ならいっそ、明日、無理を承知で脱走してみようか。あの見張り塔のニンジャのレーザー光線に貫かれて消滅するなら、労働で磨り減って死ぬより、遥かに楽かもしれない…)))34
2018-09-04 23:47:06テマリが絶望に飲まれかけた、その時。「ん……?」彼女は部屋の隅に、見覚えのない女子高生を発見した。その女子高生のセーラー服は、皆の着ているそれとは違った。「新入り、かな……?」新入りは、その日の間だけ元々のセーラー服を着ている。自分もそうだった。だが……アトモスフィアが妙だ。 35
2018-09-04 23:50:28テマリはサイバネアイでさらによく観察した。その女子高生はぴんと背筋を伸ばして正座し、あたりの様子を抜かりなく観察しているようであった。その少女の眼差しは力強く、研ぎ澄まされたカタナのように凛々しく、曇りなく、美かった。そして……その瞳は微かに、桜色の燐光を帯びていたのだ。 36
2018-09-04 23:53:17「わあ、綺麗……物凄く高そうなサイバネ……」テマリは思わず、その不思議な少女の瞳に見惚れた。そして……目が合った。感づかれてしまったのだ。謎の女子高生が立ち上がり、無言で近づいてくる。「アイエッ!?」テマリは狼狽し、キリタンポめいて丸めたフートンの中へと頭を引っ込めた。 37
2018-09-04 23:55:13謎の女子高生はテマリの横へと歩いてきて、すぐ横で正座した。テマリは頭を隠し、ブザマに震え続けていた。だが五分、十分、三十分……どれだけ経っても、謎の女子高生はそこから立ち去ろうとしない。もしかしてこれは狂気が見せた幻覚だろうか、とテマリは考えながら、ゆっくりと……頭を出した。 38
2018-09-04 23:58:28だが、それは幻覚などではなかった。謎の女子高生は優しく問いかけた。「君が、テマリ=サン?」「アッハイ、あなたは……?」テマリは怯えきった声で言った。謎の女子高生は、テマリを安心させるように、そっとフートンの上に手を置くと、周囲の女子高生に聞かれないよう、小さな声で言った。 39
2018-09-05 00:01:46「アタイの名前は、ヤモト。君を助け出しに来た。だから、この女子高生収容所のことを、教えてほしいんだ」 40
2018-09-05 00:03:55