フォ・フーム・ザ・ベル・トールズ #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(親愛なる読者の皆さんへ:これから始まるエピソードは、AoM最新話【ベリアル・アンダーカバー】の続きではありません。 diehardtales.com フォロワー20000突破記念の特別放送プログラムですので、ごあんしんください)

2018-09-03 21:42:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤープラスより【フォ・フーム・ザ・ベル・トールズ】 #1

2018-09-03 21:46:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガゴンプシュー!!医療カプセルが開くと、中から女子高生が現れた。「もういいですよ、目を開いてください」闇サイバネ医師が彼女に言った。女子高生は身をもたげ、おそるおそる目を開く。「わあ……」薄暗がりの中、その瞳はネオンカンバンめいた桃色のネオン光を放った。 1

2018-09-03 21:50:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここはネオサイタマの雑居ビルの一室。闇サイバネ医者のサロン。女子高生のテマリは、今ここで日帰りのサイバネアイ手術を終えたばかり。無論、神経バイパスが必要な眼球置換式ではない。女学生が特にファッションとして好む網膜内インプラントだ。 2

2018-09-03 21:55:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わあ……スゴーイ!」テマリはまっさらなサイバネ視界で周囲を見渡してみた。ズームイン、ズームアウト。録画。インフラビジョン、赤外線暗視モード。レーザーポインター。IRCレイヤー。狙撃ターゲッター。どれも最高に彼女の脳神経を刺激した。「スゴイ色々見えます!ヤッター!」 3

2018-09-03 21:59:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それじゃ次は色味を調節してみてね」闇医師が鏡を持ち、テマリの耳元で囁いた。ビルの外にあった写真通りこのセンセイは大変セクシーで、上半身は白衣しか着ておらず、顔はハンサムだった。テマリは少しだけ頬を赤らめた。「アッハイ、センセイ…」「色味を調節するのはそこじゃないよ、フフフ」 4

2018-09-03 22:04:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アッハイ……」テマリは操作ナビゲーショーンに従って、サイバネアイの虹彩の色を変えてみた。退屈な黒から赤、パステル調の青、あるいはネオン紫へと向かう妖しいグラデーション。彼女は自分の瞳の美しさに魅了され、興奮した。ただそれだけで、つまらない現実の向こう側に飛び出せた気がした。 5

2018-09-03 22:09:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「満足だったらここにハンコね」「ハイ。スゴイ満足です」「ドーモ」「…スゴーイ、スゴイカワイイ……!」テマリはハンコを押した後もまだ医療ベッドに腰掛け、鏡を見ながら、夢中で虹彩の色を切り替えた。さらに瞳に「¥」や「愛」などの神秘的なパターンを描画した。何もかもが思いのままだった。 6

2018-09-03 22:13:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あの、センセイ。これも……カワイイですか?」「ん?そうだね、スゴイカワイイ」闇医師は壁のLED時計を見ながらモップがけを始めた。「じゃ、この色は…?」「うん、カワイイカワイイ。さ、次の人が待ってるから。2番更衣室で着替えて、すぐお会計ね」手術前とは異なり、冷たいあしらいだった。 7

2018-09-03 22:18:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ……」テマリは更衣室へ向かった。血の付いたオシボリや切断されたマグロの頭、あるいは注射器やパック製剤などのゴミが部屋の隅やベッドの下に転がっているのが、今は暗視モードで鮮明に見えた。手術前は気付かなかった。テマリは少し不安になった。(……でも実際安いし、仕方ないか……) 8

2018-09-03 22:21:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

テマリは薄暗いロッカー室でセーラー服に着替え終えると、財布を開き、万札を取り出して、それを一枚一枚、シワを伸ばしながら、壁の自動万札挿入口に入れていった。ガガー。ガガー。ガガー。しかし、所定の枚数を入れても清算が終わらない。「あれ?おかしいな……」 9

2018-09-03 22:25:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

不審に思ったテマリは……明細を見て、その金額に驚く!「アイエエエ!?」ナムアミダブツ!それはカンバンに書かれていた金額の5倍!センセイ指名料がチャージされていたのだ!「どうしよう、お金が足りないよ!」カワイイの夢から覚めたテマリは狼狽し、手当たり次第同級生に救援IRCを送った! 10

2018-09-03 22:29:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが電子貨幣を貸してくれそうな友達は見つからない!「どうしよう!」このような失態がバレれば祖先に申し訳が立たないため、親を頼ることもできない!ピボッ、ピボッ、ピボッ!壁にLED表示された更衣猶予時間が、刻一刻と過ぎてゆく!「どうしよう!!」 11

2018-09-03 22:33:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『オッセーゾコラーッ!』ロッカー室の壁に埋め込まれたファンシーな猫型キャラクターの冷徹なカメラアイが明滅!スピーカー部からセンセイのヤクザスラングが聞こえた!「アッ、スミマセン!」テマリは狼狽した!もしやここはヤクザと関わりの深い施設なのではあるまいか!? 12

2018-09-03 22:37:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あの、お金がちょっと足りなくてですね!」『……』「ちょっと装着感も、あんまり気に入らないので、元に戻してキャンセルってことで、お願いできませんか!? よろしくお願いします!!」『……』 13

2018-09-03 22:40:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」『……』「……」テマリは祈るような気持ちで返答を待った。だが、その答えは無慈悲だった。 14

2018-09-03 22:42:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ザッケンナコラーッ!』ガゴンプシュー!突如、ロッカー室の鍵が電子的にロック!「アイエエエエエエエエエエ!?」テマリは悲鳴をあげ、ドアを叩く!プシューーーッ!猫型キャラクターの口から凄まじい勢いでガスが噴出した!「アイエーーエエエエエエエ!?」 15

2018-09-03 22:43:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

テマリは必死にIRCを操作した。だが遅かった。謎めいたガスを吸い込んだテマリは、更衣室の床で痙攣すると、浜に打ち上げられたマグロめいて口をぱくぱくとさせ……動かなくなった。 16

2018-09-03 22:46:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

重金属酸性雨がいつものようにネオサイタマの空を灰色に染め、「個室ローン」「寿司」「テンプラです」などと書かれた剣呑なネオンカンバンが火花を散らしていた。……ブーン、ブーン、ブブンブンブブーン。産業廃棄物回収トラックが重低音ベース音を響かせながら、雑居ビルの前に到着した。 17

2018-09-03 22:49:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これ、入っています」「ハイ」スモトリ作業員は日帰りサイバネアイサロンで謎のボディバッグを受け取ると、代わりに闇サイバネ医師に万札束を手渡した。「ドーモ」「ドーモ」『インガオホー』と書かれたネオンカンバンが、女子高生を送り出すようにバチバチと火花を散らした。 18

2018-09-03 22:53:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのまま女子高生回収トラックはメガロハイウェイに乗り、ネオサイタマの南西へと走り去った……。 19

2018-09-03 22:55:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウッ、まぶしい……」テマリは突き刺すような陽射しで目を覚ました。左手を顔の前にかざすと、粉じみた土のパーティクルが風に吹かれて舞うのが見えた。彼女の背中の下にあるのは、湿ったアスファルトではなく、乾いた荒野の土であった。 21

2018-09-03 23:00:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どこだろ、ここ……。重金属酸性雨が降ってない。夢かな……?」テマリは仰向けに寝たまま、しばし空を見上げていた。雲ひとつない青空だった。「私、死んじゃったのかな……?」 22

2018-09-03 23:04:28