Affair Story -wct- 一章

キリがいいというか、視点(時間)移行をしたいと思うので一旦章を区切りましょう。新しく現れた『見える』存在、後輩。その後輩との交流において、日常となっていた事象達との関係、その存在を見つめ直していきたいと思ってます。
5
Affair Story @affair_story_s

「うわー、あたし以外にも見える人っているんですね! よかったー! あたし、昨日から自分の頭がおかしくなっちゃったんじゃないかって、凄く心配だったんですよ! 昨日なんて、この子が人にぶつかりながら走ってて友達と危ないねとか話してたら白い目で見られまして――あっ」 #as_wct

2011-04-10 22:10:29
Affair Story @affair_story_s

「ご、ごめんなさい、いきなり! 何か凄く嬉しくって」「あ、いや、別に……」謝ろうとしていたのはこっちなんだが……。どうすればいいのか分からずに眉をひそめていると、少女が顔を曇らせる。「あの……これって、ホント、病気とかじゃないですよね……?」「え? あー、うん」 #as_wct

2011-04-10 22:15:34
Affair Story @affair_story_s

「まあ病気じゃないとは思うよ。『病』もいないし」「やまい?」「あー……えっと、君はこいつらが何なのか、知ってる……?」『風』を肩から降ろし少女の目の前に差し出す。少女は『風』と少し目を合わせ瞬きし、「かわいい女の子!」いや、まあそうだけどさ。 #as_wct

2011-04-10 22:18:05
Affair Story @affair_story_s

「えっと……」頭を掻き、俺は少女を見る。『風』が普通ではないという事がわかっているのなら、「こいつの前に、誰かに会って何か聞いた?」「はい。えっと、確か……」「私だ!」俺と少女の間に、突然両手を上げた『音』が現れた。 #as_wct

2011-04-11 20:22:24
Affair Story @affair_story_s

「お前はまた急に現れたな……」「ん? 別に急ではないぞ? 君たちは会話をしていた、つまり私をやり取りしていたわけだ。な?」うん、無理やりだな。「『音』ちゃん!」「おお!」呆れるこちらを余所に、少女が『音』に抱きついた。「随分と仲がいいな」 #as_wct

2011-04-11 20:27:44
Affair Story @affair_story_s

少女の話だと見え始めたのは昨日のようだが……。「うん、彼女と会ったのは昨日が初めてだが、これが中々いい音を出す子でな?」「音?」「あ、あたし、音楽やってるんです。それで昨日も練習してたら急に『音』ちゃんが出てきて」「私が彼女の音に釣られてしまったという訳だ!」 #as_wct

2011-04-11 20:30:36
Affair Story @affair_story_s

笑う『音』に、俺は、ああ、うん、と頷く。この様子じゃ大した説明してないや。ってか説明役の『時』は出てこなかったのかと俺は時計に目をやって横に目をやる。そこに、先程まではいなかった『時』がいる。「説明してないの?」「うむ、説明も何も、まだ彼女に私は見えてないのでね」 #as_wct

2011-04-12 21:29:34
Affair Story @affair_story_s

あれ、と俺は前を見る。少女は一人喋りはじめた俺に首を傾げており、どうやら『時』は見えてないようだ。「あー……えっと」どうすれば。少し考え、「今何時?」「今ですか?」少女は時計に目を落とし、笑顔をあげながら、「じゅううわぁ!?」あ、見えたらしい。 #as_wct

2011-04-12 22:21:33
Affair Story @affair_story_s

「い、いきなり中世紳士ルックなナイス髭のおじいさんが!?」「紹介しよう。カップラーメンを食べたいとき、電車に遅れそうなとき、明日が待ち遠しいとき、そんなときに役に立つようで役に立たないちょっとだけ役に立つ時間の権化、『時』のおじさまだ」「君とは一度話し合いたいね」 #as_wct

2011-04-13 20:25:20
Affair Story @affair_story_s

「話し合うのはこの子とにしてくれ」俺は『時』の視線を少女へと運ぶ。「理屈は俺も知らんが、昨日からこの子も見えるようになったらしい」「ああ、知っているよ」「なら話は早い。『時』は俺のときも説明してくれたし、今回もやってあげなよ」な、と同意を求める俺に、『時』は笑み、 #as_wct

2011-04-13 20:28:36
Affair Story @affair_story_s

「君がやればいいじゃないか」「……俺、あんたは二つ返事で承諾してくれると期待してたのに」「私が君の期待に応えられたことは少ないからね」くそ、皮肉言いやがった。「いつもの無茶振りとは違うしいいじゃないか」「そうもいかない」「何で」「彼女に私はもう見えていないからさ」 #as_wct

2011-04-13 20:31:19
Affair Story @affair_story_s

え、と少女の方を見れば、その視線は俺だけを見ている。「あれ、えっと、さっきのおじさん見えてない?」「え? はい、何か消えちゃいました」どういう事だ。疑問の視線を『時』に向けると、彼は肩をすくめながら口を開く。「彼女にはまだ、私が認識できていないのだよ」 #as_wct

2011-04-14 21:50:11
Affair Story @affair_story_s

『時』は続ける。「私達の存在は、君達の認識だ。君達が私を――『時』を、時間として認識してくれなければ、私の存在など希薄なものなのだよ」そういうものなんだろうか。思い、俺はもう一度少女に、「時計見てみて」顔を降ろして、上げて、また少女は驚くが、視線はすぐに俺に戻る。 #as_wct

2011-04-14 21:54:11
Affair Story @affair_story_s

もう『時』は見ていない。見えていないのだろう。「分かったね? そういう訳で、説明は君からするといい。君がちゃんと教えてくれれば、彼女には私達がちゃんと見えて、ちゃんと居続けられるだろうからね」それだけ言うと『時』は手を振り、消えてしまった。 #as_wct

2011-04-14 21:55:33
Affair Story @affair_story_s

『時』から少女に視線を戻し、まいったな、と頭を掻く。「あ、あのっ」こちらよりも先に口を開いたのは少女。首を傾げて先を促すが、少女はどこか言いにくそうに視線を泳がせ、「もし迷惑でないなら、でいいんですが……」「うん」 #as_wct

2011-04-15 18:46:34
Affair Story @affair_story_s

「あたしに何が――いえ、あたしが何を見ているのか、教えてくれませんか?」「ん、ああ、そのつもりだけど」「ホントですか!?」元気だな!? 少女のかわりに『音』が喜んで抱きついてきたのをいなしながら、「どうせ『音』は何も教えてくれなかったんだろ?」 #as_wct

2011-04-15 18:50:32
Affair Story @affair_story_s

「ん?失礼な、私はちゃんと私の事を教えたぞ?」少女に目を向ければ苦笑いだ。うん、ちゃんと教えられてない。「まあ俺も詳しくは知らないけどさ、どういう事になってるかくらいなら教えられると思うよ。それでもいい?」「はい、宜しくお願いします、先輩!」「せ、せんぱい……?」 #as_wct

2011-04-15 18:52:12
Affair Story @affair_story_s

「あ、名前聞いてなかったので……見える人として先輩ですし!」先輩、か。俺も昔を思い出し、ファーストコンタクトで名前を教えてもらえなかった事を思い出す。「あ……名前の方がいいでしょうか?」「いや、いいよ」先輩。うん、何かこう、いいね。 #as_wct

2011-04-16 22:25:13
Affair Story @affair_story_s

ともあれこちらは名前を聞いた方がいいだろうかとも思うが、初対面で名前を聞くのはどうかと知った。「じゃあ、俺は後輩で」軽く言うと少女はなぜか吹き出して笑う。「何ですかそれ、後輩って、普通相手に向けていいませんよね」あ、確かに。悩み、しかし、 #as_wct

2011-04-16 22:30:01
Affair Story @affair_story_s

「あー、思いつかないし、後輩で」「先輩って、結構適当な性格なんですね」「ああ、彼は適当だぞ!」「『音』にだけは言われたくねえよ!」笑われた。まあ呆れられるよりはいいか。「えー、では、改めまして、後輩です。よろしくお願いします」開いた手のひらが向けられる。 #as_wct

2011-04-16 22:47:39
Affair Story @affair_story_s

感じるのは、デジャブだ。目を薄くしてしまった自分に気づき、それを悟られる前に俺は笑みをつくり直す。似ているのは、後姿だけじゃなかった。――いや、よそう。俺は後輩の手を握り返し、「知ってることしか教えられない頼りない先輩だけど、まあ、よろしく」 #as_wct

2011-04-16 22:50:58
Affair Story @affair_story_s

「あはは、頼りないですね」「はっきり言うね、君」軽快に笑われ、俺も小さく笑う。「場所、移す?」「ここでいいですよ。暖かくなってきましたし、そこら辺に座ってでも」空は相変わらずのお散歩日和。外で話をするのも気持ちいいかもしれない。「じゃあ、そうするか」「はい」 #as_wct

2011-04-17 21:21:26
Affair Story @affair_story_s

土手を降りて草の上に座ると、『風』が駆けよって来て膝の上に載ろうとしてくる。姿勢を変えて椅子の形にしてやっていると、「うわー、懐かれてますね」風に揺れる髪をおさえながら、横に後輩が座って来た。「ん、もう結構長いしね」「どれくらいなんです?」「一年くらい、かな?」 #as_wct

2011-04-17 21:35:22
Affair Story @affair_story_s

「うわ、長いんですね。じゃあもう慣れっこでしょ?」「いや、今でも『睡魔』とか『病』とか急に出てくるとびっくりするよ」「すいま、やまい。色々いるんですね」「あー、うん。まあ何人いるのか俺も知らないけど、ほとんどには会ってると思う」「へー、あたしも見てみたいです」 #as_wct

2011-04-17 21:47:29
Affair Story @affair_story_s

「とりあえずまあ……」俺は後輩に顔を向け、「『音』とか『風』は見えてるんだよね」「はい、音も風も、止んでませんし!」後輩の視線を追えば、『音』が草の上を転がってかさかさと音を立てている。あれ、俺には見えてなかったけど、彼女には見えてたのか? #as_wct

2011-04-18 22:40:12