Affair Story -wct- 序章

とりあえず序章として区切りのいい所に来たと思うので個別に一つ。これから、色々とやらかしていくつもりです。
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Affair Story @affair_story_s

あの日、下を向いて道を歩いていた俺は、変化のない日常を呪いながら、ふと、何かに惹かれるように顔をあげた。ちょうど、栗色の髪が揺れて俺の横を通り過ぎる瞬間だった。何か聞こえた気がして振り返ったが、その時にはもう、誰もいない土手道が見えただけ。 #as_wct

2011-04-01 18:37:42
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思えばあれが、最初の出会い。俺が、『君』に、惹かれた瞬間だったのだろう。 #as_wct

2011-04-01 18:39:05
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目を覚ました俺は、薄く開けた視界で天井を見上げる。その視界に伸ばした右手を加え、天井が掴めない事を再確認して力を抜く。ぽふ、と。手が視界を塞いだ。そのまま、息を吸い、吐く。「懐かしいな」「いい夢でも見れたのかい?」 #as_wct

2011-04-01 19:32:22
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手の隙間から横を見れば、『夢』が本を閉じるところだった。「内容分からないの?」「僕は夢を見ている訳ではないからね。君の見た夢が、僕なんだ。だから――」『夢』が本の背表紙を見る。「このタイトルは……思い出、かな? 悪い夢じゃなければいいけど」「いい夢だったよ」 #as_wct

2011-04-01 19:36:17
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悪い夢ではなかった。しかし、「何で今、こんな夢を見たのかな」「ふむ……これは僕の意見だけど」「ん?」「夢は、その人の思っていることを写す鏡のようなものなんだ」「つまり?」「良い夢も悪い夢も、それは何もないところから生まれるものではない」 #as_wct

2011-04-01 19:39:56
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『夢』は続ける。「夢は、思いによって見るものだよ。忘れられない、思い出みたいなもの」「……ふーん」確かに、あの出会いは俺の中で忘れられないものだ。「たぶん――」「ん?」「僕には夢の内容は分からない。だけど、たぶん、君は、何かを感じたんじゃないかな」「何を?」 #as_wct

2011-04-01 19:42:53
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「僕には分からないよ」苦笑で『夢』は本を掲げ、「感じたのは君だ。今見た夢を連想するような、何かをね。気になるなら、考えてみるといい。どうしてその夢を見たのかなって。少なくとも、暇つぶしにはなるかもしれないよ?」そう言って、消えていく。薄かった視界が、広がっていた。 #as_wct

2011-04-01 19:45:11
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慣れない事を考えて、完全に頭が起きたのだろう。見回せば『睡魔』ももういない。二度寝する気にもなれず、俺は考える。ここ数日、『君』と何を話したかを。「……あ」思いだそうとして、思いだしたのは別の事。「ここ数日、『君』に会ってないな……」 #as_wct

2011-04-02 21:32:03
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となると、『君』とのファーストコンタクトを夢に見たのは、単純に最近会ってなくて、会いたいなという俺の潜在的な願いなのだろうか。「……ぞっこんじゃないか」知ってたけど。少し恥ずかしくなって布団に顔をうずめ、その行為にも恥ずかしさを覚えて顔が熱くなる。 #as_wct

2011-04-02 21:34:07
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目を薄め、溜息を吐きながら頭を掻く。「あー……」窓の外を見ればいい天気。散歩にはもってこいの日だろう。「……うん」俺は立ち上がり、伸びを一つ。決めた今日の予定を頭に小さく、笑いながら呟く。「今日は会えると嬉しいな」 #as_wct

2011-04-02 21:37:10
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「誰にだ?」急な問いかけに振りかえれば、『音』が首を傾げていた。「おま、いつから――!?」「ん? そうだな……君が外を見て清々しい顔で何かを決意したところからだな」「ぐ、説明されると恥ずかしいがまあいいか……」「うん。そういう事にしておこう。君だって――」 #as_wct

2011-04-03 21:29:23
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「ぞっこんとか言った挙句思春期の乙女のように布団ゴロゴロする姿は見られて嬉しいものではないだろうしね!」「しっかり見てんじゃねえか!!」 #as_wct

2011-04-03 21:30:46
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しまった、といった顔をする『音』に俺はため息をつく。「い、いやほら、しょうがないじゃないか。な? 私は音だ。君の独り言は全て、私として分かってしまうんだから」「ああ、わかって……」ん? 待てよ? 俺の独り言、声、つまり音を自身として理解するというのなら、それは―― #as_wct

2011-04-04 21:21:14
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「……お前って、もしかして感情すらも読み取れるんじゃないのか?」「えっ!?」目を丸くしたその顔で返事は分かった。俺は顔を両手で覆ってうなだれる。「えっと……あ、安心しろ!別に誰にも言わないし、そもそも君の片恋慕なんて周知の事実じゃないか!」「片とかいうな――!!」 #as_wct

2011-04-04 21:23:33
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もうやだ。決別したはずの布団に倒れ込み、俺は枕を濡らす。「ご、ごめん、私が悪かった! そんなつもりじゃなかったんだ!」少しだけ顔をあげれば、『音』が枕元に座って両手を合わせていた。素直な『音』の事だ。本当に反省しているのだろう。「まあ、『音』は悪くないし」「いや」 #as_wct

2011-04-04 22:08:24
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意外にも、『音』は否定の言葉を発した。「悪気がなかったと言えば、嘘になる」何故、と目で問えば、『音』は腰に手をあてて少し眉を立て、「わ、私だって、女なのだぞ? 君の彼女への恋慕は知っているとはいえ、毎度その感情を私として発せられているこちらの身にもなって欲しい」 #as_wct

2011-04-04 22:11:07
Affair Story @affair_story_s

「そう、私とて女なのだ。純粋で、素敵な感情を身に受けて、けれどそれが私に対するものじゃないと分かっていて、それでも! その素敵な言葉がもし私に向けられていたらって! ……そう思うと、少し意地悪をしたくなったというのが、恥ずかしながら私の本音でもある」 #as_wct

2011-04-04 22:13:37
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まっすぐだ。まっすぐ故に、言葉を発した『音』よりも、言葉を向けられた俺の方が、「――」「そ、そんな声を出すな! 私も恥ずかしくなるじゃないか」「俺が既に恥ずかしいんだよ……」「う、す、すまない……」「ああいや、謝らせたいんじゃなくて……」 #as_wct

2011-04-05 18:07:10
Affair Story @affair_story_s

言葉が見つからない。何と言えば、今の俺の気持ちを正確に伝えられるのか。探し、しかし、ああ、と。その必要は、無いんだ。俺は起き上がって布団の上に座り、『音』と目線を合わせる。眉を八の字にした『音』に笑顔を向けて手を頭にのせ、「――な?」と、ただ一言。 #as_wct

2011-04-05 18:09:37
Affair Story @affair_story_s

言葉ではない。しかし、『音』は少し肩を跳ねさせ、先程までとは別の感情で眉を八の字のまま、もじもじと視線を逸らす。「き、君は、卑怯だ……」「どんな言葉よりも雄弁だったろ? 今の音は」笑い、わしゃわしゃと『音』の頭をかき乱す。「今日ほど我が身を呪ったことはないよ……」 #as_wct

2011-04-05 18:13:10
Affair Story @affair_story_s

「だが――」『音』が俺の手をとって立ち上がり、歯を見せて笑う。「素敵な音で、嬉しかったよ」「それは何よりだ」手から感触が消える。宙に浮かんだ手をしばらく見つめ、パン、と膝に打ちつけ景気のいい音を鳴らす。改めて立ち上がり、うん、と。さあ、今日も一日頑張ろう。 #as_wct

2011-04-06 17:50:30
Affair Story @affair_story_s

軽い朝食を経て外に出ようとドアを開ければ、少しの隙間から、「やー!」「だああ!」待ち構えていたといわんばかりに『風』が襲ってくる。「お出かけですか?お出かけですよね?お出かけしましょう!」「ああはいはい外出るからお前ちょっと離れろ!」風のせいでドアも開けられない。 #as_wct

2011-04-06 20:36:02
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『風』の頭を抑えて外に出る。風が強い。『風』が無駄に元気なのはそのせいだろう。「何かあったのか?」「春ですからね!」お前の頭がな。『風』を肩車で持ち、髪を乱されながらのんびりと歩く。「桜、咲いたなぁ」「ですね! そろそろ散らさないと!」風情の欠片もねえなこいつ。 #as_wct

2011-04-06 23:08:02
Affair Story @affair_story_s

頭の上で騒ぐ『風』に足を右へ左へ取られながら歩く。向かうのはいつもの土手。この陽気なら、彼女も散歩をしているのではないだろうかという単純な考え。いてくれよ、と思いながら前に道が開けてくる。そこを曲がれば、いつもの土手だ。 #as_wct

2011-04-07 19:20:48