半竜パロ

ギルガメッシュ兄弟メインのマリギルとプサギルの似非ファンタジーもどきみたいな何かです。
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アバヨ @s_cs74_

「でも、王族が前線に出ると兵の士気が高まるんだ。救国の竜、なんて箔もついてる。実際、かれは実に多くの敵兵を殺した。……殺したという自覚があるだろうか。変体しているとき、あの子の自意識はおぼろげだったようだから。ただ促されるままに息を吐いていただけ、だそうだよ」

2018-08-22 12:34:29
アバヨ @s_cs74_

「己の噴く炎で何千の人間が死んだとは知らなかった筈だ。竜に暴れられてはとてもではないけれど敵わない。なんとか竜を始末しなければと当然ながら敵軍の将は考えた。彼らは自軍の精鋭を揃え、野営地の天幕で眠る皇子を攫った。すぐにかれの不在に気付いた従者たちがかれを取り返しに行ったけれど、」

2018-08-22 12:35:55
アバヨ @s_cs74_

そこでマーリンは口を切る。先を言い淀んでいるようだった。アーサーはマーリンを促す。ここで切られては、気になって仕方がない。そう思って。マーリンは、確かにここで切るのはすわりが悪いとでも思ったのか、軽くうなずいてからことばを続けた。

2018-08-22 12:36:18
アバヨ @s_cs74_

「皇子は酷い状態だった。……牢は不衛生で異臭に包まれていた。かれは身体中切り傷や打撲痕だらけで、足の腱を切られてひとりで動けなくなっていたし、喉を切られて声も出なくなっていた。……そして、それでも生きていた。竜の血が、傷を修復し始めていたから」

2018-08-22 12:38:31
アバヨ @s_cs74_

「敵軍の兵士は皇子が竜に戻って反撃することを恐れて、定期的にかれを傷付けた。常に弱らせて、抵抗を封じていたわけだ。従者たちは皇子を連れ帰った。自陣に戻った際には、既に傷の四割は治癒されていたという。……どれだけ痛めつけられても、皇子のからだの中の竜の細胞が、宿主を生かそうとする」

2018-08-22 12:39:28
アバヨ @s_cs74_

マーリンはすっかり冷めたお茶を一口飲んでから、ここまで話したから全部話してしまおう、とまるで自分に言い聞かせるように言った。アーサーはすっかり顔色が悪くなっている。幼いこどもにする仕打ちではないからだ、でも、ここで話を打ち切られてはもやもやが残る。うん、とマーリンに相槌を打った。

2018-08-22 12:40:58
アバヨ @s_cs74_

「丁度皇子が連れ帰られたタイミングで、援軍がきた。戦上手な将軍が率いる精鋭部隊。かれらがいれば押し負けることはあるまいと、従者たちは皇子を都へ連れ帰った。そして、戦争は終わった。敵兵士の大部分は皇子が焼いてしまったし、残りは援軍を率いた将軍が制圧してくれたからね、すぐだった」

2018-08-22 12:41:42
アバヨ @s_cs74_

「戦争は終わり、民は喜び、街は華やいだ。誰もが王の偉業を称え、平和の訪れに歓喜する。……こころとからだに深い傷を負った第二皇子のことを、誰も気にかけなかった。というより、気に掛けることはできなかった。王家からはかれの拐取や負傷は国民に伝えられていなかったからね」

2018-08-22 12:45:09
アバヨ @s_cs74_

「かれはただ救国の竜として王家のプロパガンダに利用された。多くの民はそれを信じたよ。六つ……あのときはもう誕生日を迎えて七つであらせられたかな。数え年でね。それだけ幼いこどもが、戦場を支配した軍神だと喧伝され、それを素直に信じたのさ。思考停止の典型だ」

2018-08-22 12:48:29
アバヨ @s_cs74_

「皇子の傷は、すべて完璧に癒えた。竜の因子があり、優れた宮廷魔術師が控えた城塞で、かれに治らない傷なんてない。……でも、こころの傷は治らなかった。皇子はあらゆることに無気力になり、人嫌いになり、塞込んだ。かれの厭世的な気持ちに応えるように、かれの足は歩むのを止めた」

2018-08-22 12:49:11
アバヨ @s_cs74_

「かれはいま、城内で暮らしている。限られた使用人たちとのみことばを交わし、日がな一日、中庭の噴水で水の跳ねるさまを眺めている。戦争が終わって、九年が経つが……、いまだにかれの足は動かない。医学上は何の問題もない、健常な足なのだけれどね。切られた腱もきれいに治って」

2018-08-22 17:32:49
アバヨ @s_cs74_

マーリンが話し終えたところで、アーサーは最後まで聞いても全然胸のもやが晴れなかったことに落胆しつつ、口を開いた。聞きたいことが、いくつもあった。迷った挙句、「マーリンはその皇子様となぜ知り合うことになったの?」と尋ねる。

2018-08-22 17:33:26
アバヨ @s_cs74_

マーリンはすこし考える素振りをしてから、何年前だったかは忘れたけど、と前置きをして続けた。「王の御前に召されたんだ。わたしも魔術師の端くれでね、特殊な技能を使って倹しく商売をしていた。王……というより、王の側近の方に見込まれてね。それ以来王家とは縁がある」

2018-08-22 17:33:56
アバヨ @s_cs74_

「わたしの仕事に王様は満足してくださって、皇子の助けになってほしいと紹介された。初対面のときは威嚇されてね、お気に入りのローブだったんだけど焦がしておしゃかにしてしまったよ。それで、王様がお詫びにくれたのが、いま着てるこれ」 そう言って、着ている白いローブの袖を広げて見せる。

2018-08-22 17:34:34
アバヨ @s_cs74_

「いまでは普通に話してくれるようになったけどね」と付け加えて、マーリンはまた薪の位置を組み替えた。消えかけていた炎がまた勢いを取り戻す。あたたかいオレンジ色の炎を眺めながら、アーサーは続けて尋ねる。「国のひとは、9年経ってもまだ皇子の真実を知らないの?」と。

2018-08-22 17:34:59
アバヨ @s_cs74_

知らないね、とマーリンが言う。皇子は公にすがたを見せないし、と。妙に簡潔な物言いに違和感を感じながらも、じゃあ、とアーサーは次の質問をする。「マーリンは、だから僕を気にかけてくれたの?」と、マーリンは、そうだね、あの子と似たケースかと思って、とこれにも肯く。

2018-08-22 17:35:36
アバヨ @s_cs74_

アーサーは紅茶を飲み干し「今の話はとても大事な話のように思うんだけど、僕みたいなどこの馬の骨とも知れないこどもに話してしまってよかったのかい」と尋ねる。マーリンは「構わないさ。交渉の必要条件だろうから」と。交渉、とアーサーは聞き返す。明らかにマーリンは自分を見て、その単語を述べた

2018-08-22 17:37:03
アバヨ @s_cs74_

「アーサー、僕と来ないか。皇子様の話し相手になってほしい。近い年代で、似たような境遇で、同じように心に傷を負っている君は、かれと友達になれる気がする。わたしはまったくの別件でこの辺りを旅していたのだけれど、そういえば王様から皇子のことも相談されていたんだった」

2018-08-22 17:37:36
アバヨ @s_cs74_

「そんな……急にそんなこといわれても、」と口籠るアーサーを「悪い話じゃないんじゃないかな。君は居場所を得る。衣食住も心配しなくていい。偏見の目だってこのあたりよりずっと少ないよ。あの国で、竜は正義の象徴だ。皇子の活躍のお蔭でね。皮肉なことだけれど」とマーリンは宥める。

2018-08-22 17:37:59
アバヨ @s_cs74_

「ただ皇子は気難しい方だから、君は苦労するかもしれない。これだけ壮絶な過去を聞かされては、気が引けるのもよくわかる。でも騙して連れて行くことはできないし、アーサーには全てを知った上で決めて欲しかったから。この泉に愛着があるかい?あまり関わりたくないというのなら、正直に言ってくれ」

2018-08-22 17:39:35
アバヨ @s_cs74_

「大事なことを初対面の人間に伝えてもいいのかと君は心配してくれたけど……、そうだね。君に語ったことを忘れさせるくらいのことは、わたしにもできる。君はいままでどおりの日常に戻れるよ。だから、君は何も気にせず選んでくれればいい。この森に残るか、わたしと一緒に救国の竜に会いにいくかだ」

2018-08-22 17:40:21
アバヨ @s_cs74_

アーサーは一国の皇子の話し相手なんて絶対に務まらない、とも思ったんだけれど(ただ埋めこまれて終わっただけの自分と、戦争に駆り出されて拷問まで受けたような壮絶な経験のある皇子とでは比べ物にならないから)、マーリンの「彼は孤独を感じてる」ということばに「行きます」と返事をするのね。

2018-08-22 17:41:37
アバヨ @s_cs74_

気が合わなくて、その場で追い返されるとしても、同じような身体の人間はちゃんといるんだと、「世界にひとりきり」じゃないことだけは伝えてあげたいと思うんですよね。 マーリンは「君ならそう言ってくれると思っていたよ、アーサー。わたしの見込んだ通りだ」と満足げに微笑む。

2018-08-22 17:42:03
アバヨ @s_cs74_

それでふたりはえっちらおっちら旅をして、マーリンのいう王国に向かうんですけどね、アーサーは初めて市場や目抜き通り、サーカスやお祭りなんかを見てすごくはしゃぐと思うし(かわいい)、一緒に旅するうちにマーリンの適当さに呆れて面倒を見始めるので、ここなかなかいいコンビです。

2018-08-22 17:42:27
アバヨ @s_cs74_

ある港町の食堂で食事をしながら、アーサーはずっと気になっていたことを尋ねる。「マーリンを雇って旅を命じたのって、王様なの?」。マーリンはラムの骨からナイフで肉を削ぎ落としつつ「そうだよ。あの城塞の一番天辺にいるはずのひとさ」と窓から覗く隣町、首都の城郭をゆびさした。入城前夜。

2018-08-22 17:43:37
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