少年に化けたドラゴンと少女に化けたドラゴンの話

2016年8月11日放送分です。
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人間と共存を図ろうと、魔女の助けを借りて少女に化けたドラゴンがいざ出かけてみると…

帽子男 @alkali_acid

人里にはドラゴンのままの姿の若い雄がいて、子供等にめっちゃなつかれており 「は…?」 と顔がひきつる少女 「ドラ公~、また乗せて飛んで~」 「んー」 「あー寝る気だー」 「ドラ公寝んなー!」

2016-08-11 14:19:33
帽子男 @alkali_acid

「え、ちょっと待って。なんであなたそんな邪悪な長虫の姿丸出しで人間どもとなれ合いを楽しんでやがりますか」 「んー…なんかー…食べないって約束した」 「このがきゃぁ!」 なぜか異様に重い少女の拳をくらってよろめく♂ドラ

2016-08-11 14:20:50
帽子男 @alkali_acid

「いって…なに?」 「古き種族の誇りはねえのですか?」 「んー?乗る?」 子供はだいたい乗せて飛べばあやせると思ってるふしがある♂ドラ 少女は異様に重い蹴りを打ち込む。

2016-08-11 14:22:11
帽子男 @alkali_acid

「いって…」 「お前のような不心得ものがー!!楽しそうにー!!」 遠巻きに眺める村の子供 「あのお姉ちゃんすげーな。ドラ公が痛がってんの初めて見た」 「うん。この前攻めてきたオーガにでっかい木で殴られても平気だったのに」

2016-08-11 14:23:23
帽子男 @alkali_acid

「ドラゴンというのはー!!」 「んー?」 「この寝ぼけづらがー!!」 よく分からない怒りとともにさまざまな体技を繰り出す少女。 例え姿は非力な人間の幼態に変じようとも、始祖の蛇たる血には豪壮さを能う

2016-08-11 14:25:56
帽子男 @alkali_acid

「む、村の皆さん。ドラゴンは、たとえ幼い頃はおとなしげに見えても、齢を重ねればその狷介で獰悪な本性をあらわにします。子供等のそばにおいてよいものではありません」 「なるほど、嬢ちゃんは物知りじゃな」 「一理あるわい」 「わしらも子供が喜ぶ新しいものっていかんと思ってた」

2016-08-11 14:27:23
帽子男 @alkali_acid

どこぞの拡張現実遊戯ばりに追い出しの対象となる♂ドラ 「またなードラ公」 「往来で寝るなよー。邪魔だからー」 「んー」 村を離れ、飛び去って行くのを見て、これがドラゴンと人間のあるべき関係とうなずく少女。 数分後自己嫌悪で顔をおおってうずくまる。

2016-08-11 14:28:57
帽子男 @alkali_acid

「や、やってしまった…ドラゴンと人間のあいだに新たな溝を…こ、これでは…うう」 「いやーお嬢ちゃんのおかげで助かったわい」 「正直あのドラゴン。ほかの魔物を追い払ってくれるのはすごいありがたいんじゃけど、飯食いすぎ」 「傭兵雇うほうがコスパ高いんじゃよ」

2016-08-11 14:30:25
帽子男 @alkali_acid

「お嬢ちゃん。この村で働かんか?なぜか知らんけどドラゴンを叩きのめせるぐらい強いらしいからのう」 「なぜか知らんけど」 「うむ」 少女は顔をひくつかせ、首を振るとあとずさった。 「そ、そんな…そんな資格は私には…うわーーん!!」

2016-08-11 14:31:31
帽子男 @alkali_acid

罪悪感にまみれて逃げ出す少女。地面を蹴るとへこみができて、まるで矢のように孤を引いて飛んでいく。 「すごいのう」 「あれがドラゴン退治の英雄ってやつかのう」 「じ、じょうじ…」 「じょうじ…」

2016-08-11 14:32:40
帽子男 @alkali_acid

一方、♂ドラは山で倒したばかりのバンダースナッチをむしゃむしゃ食べながら 「人間のご飯はもっと塩味が利いてうまかった」 などと考えていたという。

2016-08-11 14:34:34
帽子男 @alkali_acid

「もっと好きなだけ人間のご飯を食べたくない?」 いつの間にか目の前に背の高い影が立っている。 「んー食べたい」 「人間の姿になれば、食べ放題」 「食べ放題」 「ただし、あなたの正体を漏らしたらその瞬間にすべておしまい」 「食べ放題」 「変身の魔法をお望み?」 「んー食べ放題」

2016-08-11 14:36:00
帽子男 @alkali_acid

なるほどこいつはいわゆる西洋型の最近見かけないぐらい頭のだめなドラゴン。魔女は感心するのでした。 「食べ放題。やってみない?」 「食べ放題ー」 「どう?」 「んー」 提案がしっかり頭になじむまで時間を要するようす。

2016-08-11 14:36:58
帽子男 @alkali_acid

「やる」 「よろしい。それでは」 魔女がまるで機を織るように空中で指をうごめかすと、天から星明かりが縦の糸のように降りてきてからみつき、夜露にうつった月陰から横糸が伸びて交差する。あわい光の繭が、鱗ある巨躯をすっぽりと包むと、みるみるうちに縮んでゆく。

2016-08-11 14:39:34
帽子男 @alkali_acid

手品にかけたように、あとには小さなひとかかえほどの楕円形をした輝く塊が残り、突如、蜘蛛の巣に似たひびを走らせると、中から小柄な少年があらわれる。

2016-08-11 14:40:31
帽子男 @alkali_acid

「んー」 「おやおや。本当に子供だったとは」 「食べ放題…」 「約束。忘れないでね」 「食べ放題…」

2016-08-11 14:41:13
帽子男 @alkali_acid

国を遠西に横切る街道沿いに、行商が馬と足をやすめる小さな宿場がある。大市を前ににぎわう一軒の酒楼では、北方産の細工物のように麗しい少女がひとり、巨大な木杯を傾けては、強い葡萄粕の酒をがぶ飲みしていた。 「私は!!何ということを!」

2016-08-11 14:44:18
帽子男 @alkali_acid

「おかわり!」 まさしくうわばみと言った態で、すでに幾樽もを空にしている。いったい小さな体のどこに入るというのか、亭主も給仕もまわりの客も唖然とするほどだ。 「お嬢ちゃん。まるでドラゴンみたいな飲みっぷりだな」

2016-08-11 14:45:31
帽子男 @alkali_acid

「ちがわう!!そんにゃんじゃにゃぃ!汝らとの共に生きる道をとざひてひまったやも…ひっく…うひ…おかわり!!」 がぶがぶ。ごくごく。ぐいぐい。 意味不明な叫びをあげながら、少女はすさまじい勢いで飲み続ける。店のものも、勘定について聞ける雰囲気ではない。

2016-08-11 14:47:04
帽子男 @alkali_acid

「ふご…ふごぉ…あんな…十度も脱皮してそうもない小僧っこに…」 少女が酒臭い息を吐きながら、磨いた木の卓に向かって話しかけるうちと、ふいに入口の扉が開く。 「んー…食べ放題ありますか」 声変り前の、何とも頼りなげな声の主は、しかし臆した風もなく華奢な身を喧噪に滑り込ませた。

2016-08-11 14:50:10
帽子男 @alkali_acid

「なんだ坊主。ここは酒を飲むところだ。物乞いならよそでやれ」 「んー…ごはんが食べたい」 「ち、金はあるのか」 「おかね」 服というよりは襤褸布に近い何かをまさぐって、いきなり潰れた黄金の塊をカウンターに置く。 みしり、と樫の一枚板がきしむ。

2016-08-11 14:51:51
帽子男 @alkali_acid

無数の金貨が、まるで鍛冶場の火にあぶられたかのごとく熱で溶け、固まったもののようだ。 「おかね」 「か、金だな」 「食べ放題」 「食べ放題…」 痩せ細り、背も低いうわべで、到底、大金に見合うだけのご馳走を平らげられそうもないが、亭主はごくりと喉を鳴らす。

2016-08-11 14:54:02
帽子男 @alkali_acid

店の隅を一瞥すれば、細身で可憐なうら若い娘が、底なし穴のような勢いで蜂蜜酒を生(き)のまま空けている。稀に北から来る上客をもてなすためのとっておきのはずだが、恐らく安酒の類がすべて飲みつくされたのだろう。

2016-08-11 14:55:28
帽子男 @alkali_acid

「お前さん。どれくらい食べるんだ」 「あるだけ」 「あるだけ…じゃあまあ…とりあえず、羊の一頭ぐらいでかまわんか」 がっかりした表情をする少年。亭主は髯に隠れた口元を引きつらせてから、うなずく。 「とりあえず、羊二頭と豚一頭、鶏五羽に鱒十尾だ。うちで出せるのはそれだけだ」

2016-08-11 14:57:18