ドラゴン・インストラクション #2

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ドラゴン・インストラクション】#2

2018-09-14 21:39:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

チャドー。フーリンカザン。そしてチャドー。それがドラゴン・ニンジャの教えの根源である。ドラゴン・ニンジャは平安時代を支配したニンジャ六騎士の一人であり、マスターチャドーの異名を持っていた。チャドーとは礼儀作法であり、暗殺拳であり、カラテを生み出す循環の摂理であった。 1

2018-09-14 21:45:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスラダ・カイはフジキド・ケンジの前で目を閉じ、アグラする。彼はことさらフジキドをくさしたり、挑むような事もなかった。彼はそうした諍いを敢えて起こす事自体を無駄と考えているのだった。だが、憮然としているようでもあった。「スウー……。フウーッ……」彼の呼吸は深い。 2

2018-09-14 21:51:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スウー……ハアーッ……」フジキド・ケンジは呼吸を深めた。深く吸い、吐く、この作法からチャドーは始まる。だが……彼は無言で眉根を寄せる。「スウー……フウーッ……」マスラダ・カイの呼吸は、異質である。チャドーに似て、しかし、チャドーではない。フジキドは片目を開き、観察した。 3

2018-09-14 21:53:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドの瞳の赤い虹彩は、若者の身体を巡るカラテの流れを見て取った。邪悪なるナラク・ニンジャのソウルと己の生命を繋げ、危ういバランスで循環させている。フジキドがかつてニンジャスレイヤーであった時の感覚ともまた違うスタイルだ。……危うい。フジキドはそう感じた。だが。 4

2018-09-14 21:56:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その異質な呼吸……反チャドーとでもいうべきカラテの流れは、しかし、ギリギリのところで均衡を成立させてもいるのだった。その呼吸を無碍に止めさせるべきか、フジキドにははかりかねた。彼との付き合いは長くない。無責任な調節が彼のカラテを崩すおそれがあった。場合によっては命に関わる。 5

2018-09-14 22:02:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

これはこれで現状の正解ではあるのだろう。フジキドはそう判断した。なによりマスラダは自我も強い。半端に口出しをしたところで、聞くまい。「スウー……ハアーッ……」フジキドはチャドーを深める。彼がセンセイであった事はない。彼はかつてサラリマンであり……復讐者……そして今は探偵だ。 6

2018-09-14 22:05:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スウー……フウーッ……」眼前ではマスラダがカラテを循環させている。フジキドの脳裏に、ユカノ、ドラゴン・ゲンドーソー=センセイ、そして胡乱なマスターヴォーパル=センセイの顔が浮かんでは消えた。(俺はセンセイではない……だが……!)フジキドは無言のうちに心を戦わせる。 7

2018-09-14 22:09:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サツバツナイトとしてのフジキドは、他者に深くかかわらず、必要以上に立ち入らぬようにしてきた。彼は誰にとっても余所者であり、旅の中で関わる者は、いわば一期一会の相手だった。ゆえに、わからないのだ。(いざ目の前にすれば、情けなし!)彼は己を叱責した。 8

2018-09-14 22:15:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シトカにおいて、マスラダは実際、目の覚めるようなカラテを発揮していた。粗削りだが決断的なカラテは、ヨグヤカルタの地で垣間見た姿とは大きく違う。フジキドは内心舌を巻いていた。この者には才覚がある。それをいたずらに歪め、潰してはならない。彼は奥歯を噛みしめる。 9

2018-09-14 22:23:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ワラキアの戦いでレッドドラゴンからカラテドレインを受け、彼自身が力を減退させている事も、覚束なさの一因となっている。仮にこのニンジャスレイヤーと戦闘を行ったとして、己はどれ程戦えるだろう?インストラクション。おこがましいのではないか?しかし、萎縮もまた、ならぬ……! 10

2018-09-14 22:25:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナスカの地の完膚なきまでの破壊は、不吉な運命を感じさせた。ヨグヤカルタでの邂逅の後、己が神器奪還に全力を傾けねばならなかった間に、何らかの正体不明の凶運がニンジャスレイヤーのもとを訪れたのだ。何らかの導きがなくば、大きな破滅が訪れるやも知れぬ……だが、何を伝える?いかにして? 11

2018-09-14 22:29:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スウー……フウーッ……!」マスラダの呼吸音が彼を我に返らせる。ナムサン。チャドー出来ていない。マスラダが目を開き、無愛想に声をかけた。「さっきから何だ」「ヌウーッ……」「おれに用があるのだろう。そもそも、アンタもこのまま行くのか。シンウインターのところに」「……そうだ」 12

2018-09-14 22:32:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタはグレイハーミット……シルバーキーと知り合いだったらしいな。それが理由か?」「それがひとつ」フジキドは認めた。既に彼はシルバーキーの事情を知った。他にも理由は幾つかある。ゾーイの拉致、オマークを用いた邪悪なエメツ抽出行為……看過はできない。 13

2018-09-14 22:41:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして、シトカを第二のナスカにしてはならない。場合によっては……「おれを殺すか?」彼の言葉は抜き身の刃めいている。「アンタがかつてニンジャスレイヤーだった事を疑いはしない。ナラクもそう言っているし、おれ自身にも、それがわかる」「否。かつてそれを検討しなかったと言えば嘘になるが」14

2018-09-14 22:45:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おれの事情をアンタに話すつもりはない。意見させもしない。おれは、やめない」「……当然だ」フジキドは言葉を探した。「生半な理由でナラクは宿りはすまい。もとより、俺にそれを詮索したり取沙汰する資格もない。ただ……」「何だ」「……」フジキドの口から答えが出かかったが、躊躇われた。 15

2018-09-14 22:52:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスラダは再び目を閉じ、呼吸を再開した。「スウーッ……フウーッ……」「……」フジキドは無言で首を振った。ただ、彼はマスラダの身を案じたのだ。だがそれを口に出せば、この若者には、いかにも虚しく響くばかりであったろう。「……俺がニンジャスレイヤーになった時」やがてフジキドは言った。16

2018-09-14 22:56:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何もわからぬ俺に、ドラゴン・ゲンドーソーというニンジャが、幾つかの教えを残した」「……」マスラダは呼吸を止めた。フジキドは呻くように言った。「俺はセンセイではない……出来る事といえば、ただその言葉をオヌシに伝える事だけだ」「……そうか」マスラダはフジキドを見た。 17

2018-09-14 23:00:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「正直、妙な気分だ。こんな状況でもなければ、おれはアンタのような人間と関わる事もなかっただろう」マスラダはフジキドの言葉を撥ねつけはしなかった。「……だが、アンタの人となりは、だいたいわかった」「そうか」「……」「……」「その教えとやら、話すなら、話せ。今なら聞く時間がある」 18

2018-09-14 23:07:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは咳払いした。「何から話すというものでもないが……たとえば……」「……」「……スリケンだ」「スリケン?」「つまり……」 19

2018-09-14 23:11:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「イイイイイイイヤアアアーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケン投擲の速度を!量を!さらに増してゆく!ビロウサージとの間で、マズルフラッシュめいた凄まじい光が弾けた。ダイヤモンドダストとスリケンの重金属破砕エネルギー反応光がシトカの海上の冷えた空気の中で乱れ飛ぶ! 20

2018-09-14 23:14:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヌウーッ、コシャク……!」ビロウサージは無限めいて新たなササメコリを空気中に生み出し、スリケンを押し戻そうとした。ニンジャスレイヤーの眼が光った!(百発のスリケンで倒せぬ相手だからといって、一発の力に頼ってはならぬ。一千発のスリケンを投げるのだ!) 21

2018-09-14 23:18:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イイイイイヤアアアーッ!」投擲!投擲!投擲!投げながら、ニンジャスレイヤーは半ばトランス状態となり、アグラ・メディテーションを行いながらフジキドが語った言葉が、それに伴う幾つかの実践の語りが、ニューロンを駆け抜けていった。「ウヌッ!」スリケンが弾け、ビロウサージの腕を裂いた!22

2018-09-14 23:20:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

即ち、インストラクション・ワン!反復と貫徹の概念である。ニンジャスレイヤーは徐々にビロウサージのササメコリ・ジツを押し始めた。今この時において、彼は別の策を敢えて考えはしなかった。今この時はインストラクション・ワンで押し通すべし!「イイイイヤアアーッ!」 23

2018-09-14 23:24:49