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巨匠を換骨奪胎した異色作、「恐怖の報酬」と「暴走機関車」

このたび、デジタルリマスター完全版が公開される、ウィリアム・フリードキン版「恐怖の報酬」と、そこから連想される「暴走機関車」についての呟きです。(セルフまとめです)
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エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

ウィリアム・フリードキン『恐怖の報酬』完全版は、以前VHSで出ていたものと同じだと思う。そうであれば、VHSを持っているので、私は観ている。ただ、フリードキン監督には大変申し訳ないが、私は劇場公開版の方が好きであった。ファースト・インパクトの強さだろう。 natalie.mu/eiga/news/2998…

2018-10-03 19:28:49
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

フリードキン『恐怖の報酬』日本公開版は、映画会社が勝手に30分カットして90分に再編集したもので、批評は良くなかったが、ジャングルの熱気が匂うようなギラつく映像に惹かれて繰り返し観た。劇場公開版が好きだった私は、まだ観ぬ完全版に憧れていて、VHSで出た時もすぐに購入した。

2018-10-03 20:11:50
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

しかし、それはイメージとは少し違った。ジャングルでのトラックのサスペンスがボリュームアップするのかと期待したのだが、主人公達が南米へと逃れて来るまでの前段の描写がたっぷり増えていたのだ。私には、それが間延びして感じられてしまったのだ。実は、それでもまだオリジナルより短かいのだが。

2018-10-03 20:27:43
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

劇場公開版はオリジナルのクルーゾー版に合わせて、トラックによるニトログリセリン運搬のサスペンスに集中した構成になっているのだが、フリードキンの意図は違ったのだろう。むしろフリードキン版では、トラックによるサスペンスはかなり希薄でメインではない。それが気にいるかどうか?だと思う。

2018-10-03 20:38:41
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

ここで思い出すのは黒澤明の脚本をアンドレイ・コンチャロフスキーが映画化した『暴走機関車』だ。黒澤明の脚本では、脱獄した主人公がいきなり機関車に乗り込んで、後は暴走する機関車でのサスペンスに集中した構成がミソなのだが、映画ではその前に刑務所脱獄のシーンが30分付け加えられているのだ。

2018-10-03 20:48:20
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

この改変についてプロデューサーは「米国人はいきなり話が始まるのを好まない。ことの始めから丁寧に語るのが好きなんだ」と答えている。しかし黒澤明の脚本の特徴を消してしまったこの改変が、成功だったとは思えない。完成パーティに呼ばれた黒澤明は、監督のコンチャロフスキーと握手をしなかった。

2018-10-03 20:53:16
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

フリードキン『恐怖の報酬』完全版にも「始めから丁寧に語る」米国映画的なストーリーテイルを感じる。そして、私がVHSを観た時に物足りなかったのは「映像の質感」だった。あのジャングルの熱気とじめつくような湿気が漂って来る映像。それを、今回のデジタルリマスターで、もう一度味わってみたい。 pic.twitter.com/Nx063w8m7Q

2018-10-03 21:19:15
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エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

フリードキン版『恐怖の報酬』完全版は、『カプリコン1』を作った頃のピーター・ハイアムズが「理想的な映画」と評したんですよね。スティーブン・キングも絶賛していたし、ウィリアム・フリードキン本人も「自分の最高傑作」だと述べている。もう一度、虚心に観てみる必要があるかもしれませんね。

2018-10-03 22:26:53
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

『暴走機関車』は不思議な映画で、脚本はコミカルな要素もあるエンタテインメントとして書かれているのに、映画はシェイクスピアを引用したりして何だか深刻なのである。監督は「黒澤明といえばシェイクスピアだから」と言うのだが、黒澤明にすれば「いや、こういう映画じゃないし」という感じだろう。

2018-10-03 21:36:30
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

この映画には、そういう伝言ゲーム的な誤解がある。最大はジョン・ヴォイトの演技で、もの凄く大袈裟なのだが、監督に「三船敏郎風にしてくれ」と言われたからなのだ。私達は「えー!三船の演技ってこう見えるの?」と驚くが、米国では「三船そっくり」と評価が高くアカデミー賞にもノミネートされた。 pic.twitter.com/dAPCE5t4B8

2018-10-03 21:48:59
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エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

それではこの映画がつまらないかと言えば、そうでもないのだ。機関車はアラスカの雪原を暴走するが、本当に凍えるように寒そうなのだ。『恐怖の報酬』がジャングルの熱気を感じさせたのと対照的だが、どちらも、その場に居合わせるような臨場感だ。そして、特筆すべきは前半の刑務所脱獄シーンだろう。

2018-10-03 22:02:33
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

刑務所シーンは、犯罪者上がりのカルト的作家、エドワード・バンカーが書き出演もしているのだが「さすがバンカー!」という感じで素晴らしい。監督のコンチャロフスキーが最も描きたかったのはこのシーンではないかと思う。しかし、ここは黒澤明の脚本の構成からすれば必要のない「付け足し」なのだ。

2018-10-03 22:12:10
エンタメ放浪者 ウディ本舗 @woody_honpo

黒澤明にすれば「俺の脚本を利用して違うことをやるなよ」という感じだろう。そして、この「巨匠のオリジナルを利用して違うことをやる」というのは、フリードキン版『恐怖の報酬』にも共通していますよね。だから両者共に高い評価を得られなかったのだろうが、不思議な魅力に溢れた作品でもあるのだ。

2018-10-03 22:18:27