佐高信さんが週刊金曜日編集委員を辞任。

風速計　ひとりに還る　佐高信
わが師の久野収が名づけ親の本誌の編集委員を辞めるについては何日間かの眠られぬ夜を過ごした。その上で辞任に踏み切ったのは「盗用問題」に対して社員があまりにも鈍感だからである。その原因を考えていて編集委員制度も悪く作用しているのではないかと思った。何かあった場合、責任を問われるのは表に顔を出している編集委員であり、社員は直接には非難されない。そのために無責任の構造が形成されていった。盗用は出版社にとって一発で信用を失う行為であり、書き手は当然、書く場を失う。それほど大きな問題である。
　もう一つ、定期購読も残念ながら悪く作用している。私は駅売りの夕刊紙の連載からスタートしたが、一回一回が勝負だった。今日おもしろくなければ明日は買ってくれないからである。しかし、現在の本誌にはその厳しさが感じられず、他では通用しないレベルの連載が惰性的に続いている。一号一号工夫をこらして編集しているとは思えないのである。私が社長になって編集会議に出て開いた口がふさがらなかったのは企画を一本も出さないで平気な編集部員がいることだった。「商品」であることを忘れるなと口を酸っぱくして言ったつもりだが、それが改まっているとは思えない。
　定期購読は宅配にも似ているだろう。今日マンネリの記事が載っても、すぐに購読中止とはならないからである。
　編集委員が無報酬であることに驚かれることも多い。雨宮処凛、田中優子、中島岳志の三氏を私は編集委員に誘ったが、そのことを話しても彼らは快く引き受けてくれた。そして本誌はもちろん、単行本の販売にも協力を惜しまなかったのである。
　私も講演会の度に宣伝し、多くの友人、知人に購読してもらった。その人たちのためにも私は今回、辞任という意思表示をせざるをえなかった。
　盗用はニセ札の発行に似た行為であり、それに手を貸すことはできないと、とりあえず私だけでも意見を表明する必要があると思ったのである。
『週刊金曜日』の、という冠りものをはずして私はひとりに還りたい。
　それでもなお私の意見を聞きたいという人は、まぐまぐのメルマガ『佐高信の筆刀両断』にアクセスしてほしい。週一回発信のそれは少なくとも商品になっているつもりである。