【竹の子書房】140字の街角・vol.2 

様々な人生や風景を140字に切り取った超短編集です。 竹の子書房社員、つくね乱蔵がお贈りします。 vol.2、スタートしました。
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つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

散々悩みましたが、また始めます。 140字の街角投下『家族愛』 #tknk

2011-04-24 18:25:44
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

亜紀はソープ嬢だ。今日最初は、人懐こい馴染みの青年。いつもとは違う背中に驚く。右側に刺青を入れていたのだ。漢字三文字で家族愛とだけ。「なんとなく。施設育ちで家族いないのにね」そう言って笑う。親を恨む気はないが、いたらいいだろうなと微笑んでいた事を思い出した。あの時の笑顔と同じだ。

2011-04-24 18:26:04
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

恭介と別れて五度目の夜が来る。習慣が点けさせたテレビでバラエティー番組が始まった。一人では広すぎるソファーで膝を抱え、里菜はぼんやりと隣を見た。いつもならそこにある筈の笑顔がない。一人では笑えない。そうか私、喜怒哀楽全部を彼に頼ってきたんだな。里菜はとりあえず泣く事から始めた。

2011-04-25 10:13:03
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

アルバイトを終えたのは午前一時。昌史は深夜営業のスーパーに立ち寄り、惣菜コーナーに向かった。散々迷い、結局食欲に任せた。豆ご飯のおにぎり、チクワの天ぷら、鰤大根、マカロニサラダ。何だか脈絡の無い選択だが、食べ終わってから気づいた。全て、亡くなった母親が得意にしていた料理だ。

2011-05-01 23:10:48
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

母さんが会いたがってる。父はそれだけ言って電話を切った。その瞬間、愛奈は無意識に左手を見ていた。火傷の痕は母がつけたものだ。父と母は、愛の代わりに暴力と侮辱で私を育てた。生きてこられたのが不思議なぐらいだ。その母が会いたがってる?冗談でしょ。愛奈は軽く笑い、母の記憶を投げ捨てた。

2011-05-07 00:20:13
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

酷い渋滞で、さっきから1cmも動かない。あ、正紀から電話だ。「渋滞に巻き込まれて、帰るのに三時間かかった」「お疲れ、大丈夫?」「うん。でさ、俺思ったんだ。この三時間あれば、大阪まで逢いに行けたのにって。だから結婚しよう。俺達、離れてちゃダメだ」とりあえず、私達の渋滞は解消した。

2011-05-14 19:39:15
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

いつも一人で寂しくない?しみじみと訊かれて、翔子は戸惑った。一人が寂しいなんて、今まで一度も思ったことが無かったのだ。仕事も遊びも、一人で充分やっていける。「強いのね」そうも言われた。違う。強いとか弱いとかは関係ない。ただ、自分を好きなだけだ。自分の一番の親友は自分なのだ。

2011-05-16 23:41:46
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

「遅いじゃないの。待ちくたびれたわ」五年ぶりに出会った妻の開口一番の台詞だ。「すまん。我ながら意外だ」「相変わらずノンビリ屋さんねぇ。行きましょ。見せたい場所があるの」「待て待て。まだ死にたてだから飛ぶのに慣れてない」笑いながら差し出した妻の手。今度こそ離さない。来世でもずっと。

2011-05-23 01:21:04
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

今年の夏、トカゲが矢鱈多い。今朝も部屋の中に入っていた。やはり天候のせいか、はたまた天変地異の前触れかと愚痴っていたら妻が呟いた。「今年の夏はミィちゃんがいないからよ」ああそうか。あの猫はよくお土産を持って帰ってきたよな。忘れかけていたのに、思い出はまだあちこちに転がっている。

2011-05-23 21:10:23
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

四条通りを河原町から烏丸まで歩く。途中の雑貨屋で彼女を見かけた。優しそうな男と一緒だ。二人でグラスを選んでいた。僕と暮らしていた頃より化粧が薄く、服も大人しい。髪も黒だし、爪も塗ってない。なんだか地味な女になったものだ。でもなんて素敵に笑うんだろう。あんな笑顔、見たことなかった。

2011-05-29 00:53:22
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

こんなに人を好きになったこと、今まで無かった。笑顔、声、さらさらの髪、Vネックから覗く鎖骨、指、香り。優しくて意地っ張りで、涙もろくて努力家。私を大切にしてくれる。ただし、友達として。ああ、好きって言えたらなぁ。でも、それがこの関係を壊してしまうかも。明日も私は好きが言えない。

2011-05-31 18:05:46
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

今日、妙な男を見た。五十代ぐらいだと思う。スーツ姿で自転車に跨り、歩道の縁石を睨んでいる。よし、と呟き、自転車を縁石に乗り上げ、慎重に進み始めた。途中、何度か落ちかけたが、結構な距離を見事に渡りきった。思わず拍手する私に向かい、男は肩ごしにピースサインを出して去っていった。

2011-06-09 19:17:27
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

@ts_p 【竹の子書房 七夕企画】に参加します。140字の街角の一編として。街角にもトギャリますが、よろしければ七夕企画にも使ってくだされ。 題名は『小さくて大きな願い』です。 #tknk

2011-06-13 00:12:36
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

帰宅した洋介は声を荒げ、娘を叱りつけた。部屋中にゴミを散らかしていたのだ。母親が入院して二か月経つが、こんな遊び方をしたのは初めてだった。娘は涙を必死にこらえて作っていたものを差し出した。七夕の短冊だ。何十枚もある。その全てに『おかあさんがはやくなおりますように』と書いてあった。

2011-06-13 00:13:00