「大きなこと」はとても小さい

shinshinohara @ShinShinohara

若い間は「大きなことを成し遂げたい」という気持ちが強い。それがために焦りになることも多い。一つ始めてみては「チマチマしてる」と言って放棄し、別のことに乗り換えてみても「こんな小さなことにかかずらってるヒマはない」とやる気をなくす。そうして目移りばかりしてる自分に嫌気が差したり。

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私は思う。「大きなことは、すごく小さい」ことが多い、と。光るタンパク質（GFP）でノーベル賞を取った研究者は、ひたすら海でクラゲをすくった。アルツハイマーの治療にもつながるとしてノーベル賞を取った大隅さんは、酵母を顕微鏡で眺めるというチマチマしたことだった。

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アップルのジョブズ氏は、天才肌として知られるが、たぶんチマチマしたことをおろそかにしない人だ。iTunesで大成功を収めたが、あれには、音楽の権利をもつ企業に足繁く通い、一軒ずつ説得するという地道な活動なしには成り立たない。小さなことの積み上げが、音楽業界を変えた。

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クロネコは日本の流通を変えたが、それには、小さな荷物を全国津々浦々に運ぶという、気の遠くなるような取り組みを粘り強く続けたからに他ならない。そういったチマチマした活動が、大きな変革につながる。

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チマチマしたことの積み重ねが、大きな変革につながるわけだが、ここで大切なのは、「チマチマを楽しむ」ことだ。大きなことばかり夢想していると、チマチマしたことがバカバカしくなり、「やっとられるかこんなこと！」と投げたしたくなる。大きなことだけを楽しもうとするからだ。

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山を登るときのコツがある。歩いているときは山頂を忘れることだ。足許の枝や石ころを、いかに巧みによけて足を運ぶか。その場その場で出会うものを楽しんで、歩みを続けることだ。すると、楽しんでいるうちに驚くほど進んでいる。一歩を楽しんでるうちに登頂してしまう。

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大きな山に登るために歩いているのだけど、歩く一歩一歩を楽しむ。それぞれの瞬間に出会う景色を楽しむ。そうすると、一歩が苦にならなくなる。苦どころか、楽しくてならない。むしろ、登頂してしまうと「ああ、もう終わりか」と、楽しみにピリオドを打つことを惜しむ。

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私はむしろ、小さな一歩を楽しむために大きな目標を立てるのだと考えたらよいと思う。だから、大きな目標の達成は楽しむ対象ではなく、むしろ楽しみにピリオドを打ってしまう、少し憎むべきものと思ってよいのかも。

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大きな目標達成を楽しみにしてしまうと、途中の一歩はノルマでしかなくなる。楽しみの対象ではなく、楽しみに到着するまでを邪魔する「つらいこと」に転じる。だから続けられなくなる。つらくなって投げ出したくなる。

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大きなことなんか成し遂げなくてよい。毎日が楽しめるなら。毎日を楽しむための、方向付けくらいに「大きなこと」を位置づけてはいかがだろう。人生がそれで楽しくなるなら、別に大きなことなんか成し遂げなくてもいいじゃないか。

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と、日々を楽しんでいる人が結局、ある確率で大きなことも成し遂げる。何しろ、チマチマしたことが苦にならない。チマチマしたこと自体が楽しいから。楽しいから発想が自由になり、楽しいから巧くなり、楽しいから続く。で、偉業が知らぬ間に達成される。

shinshinohara @ShinShinohara

楽しもう、楽しもう。日々楽しくするための目標ならよし。日々をつらくする目標ならやめちまえ。 遊びをせんとや生まれけん、戯れせんとや生まれけん。