オーク、東へ行く！ #ぴくめす

帽子男 @alkali_acid

オークメイジはあくびをすると、空飛ぶ絨毯を呼び寄せて跳び乗った。 「ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞ…しあげもせねばならん」

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エルフローニンは乱れた呼吸を整え、太刀を鞘に収める。 居合を使えるのもあと一度だ。 オークサムライはまだ余力を残しているようだが、剛剣のくせはだいたい掴めた。向こうとて同じだろう。 「…認めるぞ…豚人…いや…侍よ…貴様の武士道をな」 「ハガクレ！！！！！」

帽子男 @alkali_acid

視線と視線が絡み合う。 言葉は相変わらずちんぷんかんぷんでも、互いに命を捨てるのに惜しくはない敵と領解したのだけは伝わる。 「秘剣…エルフ無双…！！！」 「ブシドオオオオオオオ！！！！！！！」

帽子男 @alkali_acid

蛮刀の打ち込みと太刀の居合とが同時に発し、刃圏がぶつかり合い、金属のきしむ音がする。 へし折れ、吹き飛んだ刀身が空を舞い、日差しを受けて煌めいた。 「…ふっ…」 エルフローニンは手元に残った使い物にならぬ愛剣を認め、取り落とすと、どっかりと座り込んだ。

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「介錯しろ！！」 浪人は脇差を抜いて、切先を腹に当てる。 「サムライ！！」 いま一度マサカドが蛮刀をふりかぶる。 「ｸﾞｸﾞｸﾞ…そこまで」

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空飛ぶ絨毯から、巻布をかぶった老オークが呼びかける。 「…オークメイジ！！」 東方オークの大将は、いつのまにか家に紛れ込んだ毒虫を見るようにねめつける。 「ブシの戦い！穢すな！気に入らん！」 「ｸﾞｸﾞｸﾞ…そう仰るな御大将…わしは力添えがしたいだけ」

帽子男 @alkali_acid

水晶玉をかかげる魔術師に、浪人は総毛立つ。 「外道のものか！切腹の邪魔をするとは…」 「ｸﾞｸﾞｸﾞ…どうでもよい」 石英の丸塊から稲光が発してエルフローニンを打ち据える。

帽子男 @alkali_acid

「ｸﾞｩｳｳ…」 腹に突き立てようとした脇差を落とし、うずくまる東方エルフ。 東方オークは唸りを上げる。 「魔法！好かぬ！」 「結構。だが…オークにとってはもっと大切なものがある」 老鬼が指さした先には、髷がほどけ、金髪が滝のように流れ落ちる着流し姿の妖精の乙女がいた。

帽子男 @alkali_acid

エルフローニンのなれのはては、情欲にうるんだ眼差しでオークサムライを見上げながら、懸命に言葉をつむぐ。 「かい…しゃく…を…」 マサカドは片目の端を歪ませて、オークメイジをねめつけてから、腰帯を解きにかかる。 「うせろ」 「御大将の仰せのままに」

帽子男 @alkali_acid

亜人の魔術師は薄笑いながら平伏し、空飛ぶ絨毯を操って遠ざかって行った。 妖精の牝は震えながら、強敵だったはずの獣鬼の牡にかきくどく。 「しなせ…しなせろ…」 「牝、だまれ」 言葉は通じずとも、意味は伝わる。

帽子男 @alkali_acid

華奢な肢体を隆々たる巨躯に圧し潰すように抱き竦め、決着を迎えず終わった果し合いがわだかまらせた、行き場のない激情のありったけを注ぎ込んだ。

帽子男 @alkali_acid

かくして東方オークの牡はいささか数を減らしたが、新たな牝を得て旅は再開する。 点々と道に倒れた顔なしエルフ大仏を乗り越え、夜にはまだ生意気さの抜けぬ盲目や隻腕、金髪の牝をさんざんに嬲って憂さを晴らしながら、先へ先へと。

帽子男 @alkali_acid

鬼の道の尽きるところ、海のかなた、東方オークの故郷にはまだ遠い。 途中あらわれるのは果たしていかなる強敵か。 またもオークメイジの秘術冴えわたるか。 ガブの斧が首を飛ばすか。 あるいは悪辣な鬼どもの命運ついに潰えるか。 次回に乞うご期待のほどを。

帽子男 @alkali_acid

（ドロドロドロドロドロドロ） #ぴくめす