日本映像産業界における様々な表現の原典となった「地球防衛軍」という特撮作品について

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生命情報保存研究所 @rodan670

「地球防衛軍」は1957年に公開された日本の映画で、いわゆる東宝の特撮映画としては「ゴジラ」(54)「ゴジラの逆襲」(55)「ラドン」(56)に続く、この時期約1年に一作のペースで製作されていた作品群の4作目にあたると同時に

2018-10-20 18:32:45
生命情報保存研究所 @rodan670

前年の「ラドン」に続き、2作目となる白黒ではないカラー作品である。さらに、横に長い劇場画面を想定した「東宝スコープ」方式を採用した最初の東宝特撮でもある。このカラー+横長という要素は、「地球防衛軍」というさしてメジャーではない作品に特異な立ち位置を与えている。

2018-10-20 19:31:56
生命情報保存研究所 @rodan670

「地球防衛軍」には、後年になると一般的となってきた映像上の表現の原点ではないかと考えられる事例が数多く確認される。その最もたるものが、「光線を発射するような新型兵器」である。地球防衛軍は「ミステリアン」と呼称される宇宙人の、地球への攻撃に対処するといういわゆる侵略系の映画であるが

2018-10-20 23:06:16
生命情報保存研究所 @rodan670

ここでは人類側が「ミステリアン」撲滅のためにこのような兵器を使用する。単に光線を放つ兵器、あるいは光線という現象に関しては、その4年前にアメリカで公開された「宇宙戦争」という映画にてすでに確認されている。

2018-10-20 23:08:04
生命情報保存研究所 @rodan670

「宇宙戦争」には「ある日突然宇宙人の構築物が地球に現れる」「宇宙人が操る起動兵器が街を荒らす」「通常兵器では歯が立たず頭を抱える人類」等、「地球防衛軍」とのいくつかの類似性が見られ、東宝側がモチーフとした可能性もうかがわれる。

2018-10-21 00:25:55
生命情報保存研究所 @rodan670

しかしながら「宇宙戦争」においては、光線兵器を使用したのは一貫して宇宙人側に留まり、人類側は奥の手として核兵器を使用するもこれを倒せず、最終的には地球上の「病原菌」というイレギュラーによって宇宙人は駆逐され、物語は日常に回帰する。

2018-10-27 20:50:36
生命情報保存研究所 @rodan670

この、奥の手でも倒せず、イレギュラーによってようやく非日常が排除されるという図式は、東宝においては同じ特撮であっても怪獣映画において多く見られる。怪獣が雪崩れによって排除された「ゴジラの逆襲」(55)、怪獣が火山活動によって排除された「ラドン」(56)など

2018-10-27 21:03:51
生命情報保存研究所 @rodan670

時期的に「地球防衛軍」(57)に近接した映画でもこの構図は見られる。「人間の技術を超えた存在は自然界によって処理されるしかない」という発想が背後にある。しかしながら「地球防衛軍」において侵略者ミステリアンは、あくまで人類側の科学技術によって排除される。

2018-10-27 21:05:36
生命情報保存研究所 @rodan670

「地球防衛軍」と「宇宙戦争」の間に見られるこのような差異は、直近の世界大戦に破れ、戦争というものをネガティブな視線から扱わざるを得ない日本と、大戦に勝利し、核兵器まで手にして力をもてあまし気味のアメリカという、二カ国の環境が背景にあったかもしれない。

2018-10-27 22:00:29
生命情報保存研究所 @rodan670

アメリカとしては、今さら宇宙人まで圧倒する戦争映画を作ってもしかたがないが、日本の場合自身が善となる戦争映画を撮るには宇宙人でも敵役にするほか当時としては方法がない。日本特有の自然に対する畏怖や、そもそも人間の手では処理できない存在と規定される怪獣と違い、

2018-10-27 22:20:44
生命情報保存研究所 @rodan670

科学技術を発展させただけで、あとはあくまで人間の延長線上に位置する宇宙人ならば、遠慮や配慮は要さず同じ科学で排除できる。「地球防衛軍」と「宇宙戦争」の結末部分に見られた差異は、人間が倒してはならない相手を、アメリカが宇宙人に求めたのに対し、日本は怪獣として定めた事に由来する。

2018-10-28 20:54:13
生命情報保存研究所 @rodan670

その一端は「宇宙大戦争」でわずかに登場する宇宙人が、両肩の異様に隆起した胴体の中央部分に、発光する眼と口を有した人間とは似ても似つかないクリーチャーであるのに対し、「地球防衛軍」における侵略者ミステリアンが、単に人間がヘルメットとマントを身に着けただけのような、

2018-10-28 21:00:02
生命情報保存研究所 @rodan670

限りなく人間に近い存在として描かれる部分などにも現れている。このヘルメットとマントのような特殊衣装を装着することにより、人のようでありながら人とは違う存在を主張できるという手法は、1975年より放映開始されたスーパー戦隊シリーズに共通して見られる。

2018-10-28 21:23:01
生命情報保存研究所 @rodan670

さらにこのミステリアンは階級によりつけている衣装の色が赤、青、黄色とカラフルにわかれ、その中で中央に鎮座する最高指揮官は赤色であるという点からも類似性は高まり、「~レンジャー」が製作される上での一つのモチーフとなった可能性がある。

2018-11-25 12:45:01
生命情報保存研究所 @rodan670

「宇宙戦争」と違って科学で宇宙人に対抗することが許された「地球防衛軍」では、光線兵器を使用してくる宇宙人に対し光線を返すことができる。こうして人類は光線兵器を手に入れる。人間が特殊兵器を使用する、少なくとも日本映画界ではおそらく最初の事例である。

2018-11-04 18:50:13
生命情報保存研究所 @rodan670

映画内における特殊兵器の導入が、1957年の地球防衛軍において初めて実現したのは、この時期邦画作品にカラー映像が用いられるようになり始めたことが極めて大きく影響していると考えられる。54年の「ゴジラ」や55年の「ゴジラの逆襲」は白黒で製作され、

2018-11-04 18:55:47
生命情報保存研究所 @rodan670

よって有名なゴジラの「放射熱線」も白い息のような現象として描写されるにすぎない。東宝特撮で最初にカラーが使用されたのは56年の「空の大怪獣 ラドン」であるが、この映画は人間が科学力で倒してはならない怪獣が主役であるため、光線兵器の初導入は選択肢のうちにない。

2018-11-04 19:14:01
生命情報保存研究所 @rodan670

そして、「地球防衛軍」はカラーの東宝特撮としてはあくまで2作目であるが、東宝スコープ採用作品としては最初の東宝特撮である。この横に大きく長い画面では、今日においては一般的になった端から端まで光線を流すという構図を用意した場合の見栄えが非常によい。

2018-11-18 13:09:55
生命情報保存研究所 @rodan670

「巨大ロボット」という存在もまたこの「地球防衛軍」にて、日本の映像界における恐らく初となる登場を果たす。「モゲラ」という名のこのロボットは、侵略者ミステリアンに遠隔操作されながら映画の序盤で人里を襲うが、これは「宇宙戦争」のやはり序盤にて破壊行為を行う異星人のUFOと対を成す

2018-11-18 14:53:35
生命情報保存研究所 @rodan670

ここで地球防衛軍側におけるそれが円盤ではなく巨大ロボットの形をとった背景には、この作品が東宝特撮の系譜に乗っかるその第4作目として製作された事が大きく影響していると考えられる。過去三作の東宝特撮においてはいずれも着ぐるみにて表現される巨大怪獣が主役として画面の中央に座っており

2018-11-18 15:59:08
生命情報保存研究所 @rodan670

その流れが本作にも受け継がれ、しかし侵略者と人間の争いがメインであり、怪獣に出番がないならば、巨大ロボットを登場させる、という流れとなったことは想像に難くない。事実、東宝特撮の「怪獣」に対する思い入れは深く、そのほとんどの作品においてこれを登場させており登場しており、

2018-11-18 16:45:21
生命情報保存研究所 @rodan670

1962年に地球に接近する巨大惑星の災害をテーマに描かれた「妖星ゴラス」においても、東宝上層部による「せっかくの円谷特撮だから怪獣を出してほしい」との要望で、物語のストーリーとは何の脈絡もない形で怪獣(マグマ)が出現した事例も知られている(円谷氏は地球防衛軍においても特技監督を担当)

2018-11-18 16:45:31
生命情報保存研究所 @rodan670

侵略者からの最初の使者が「宇宙戦争」のような円盤ではなく巨大ロボットの形をとったことは、日本映像界において恐らくは初となるもう一つ別な事象をこの映画にもたらす。「目からビーム」という表現である。先述のように「宇宙戦争」の円盤は光線を放って人間を襲い、モゲラもまたこれに倣う。

2018-11-21 06:57:37
生命情報保存研究所 @rodan670

ただ、「宇宙戦争」の円盤は天井から伸びる触手のようなものからこれを放つが、二足歩行の生き物の姿をした巨大ロボットがそれを丸ごと真似ても味気がない。この場合前例としてのゴジラにならい、口から、という手も考えられるが、モグラをモチーフとした「モゲラ」の口はドリル状で開閉しない。

2018-11-21 07:08:21
生命情報保存研究所 @rodan670

結果モゲラはその双眼から光線を放つこととなる。これが日本映像界における「目からビーム」という表現のおそらくは初出となる。

2018-11-24 03:16:16