クルセイド・ワラキア #2 後編

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そこに連れてきたのは何者だ?ルンペン旅行者か?そんな奴をなぜ連れてきた!?ラリっているのか貴様ら!分け前を減らすぞ!」「ニンジャ、ニンジャ (^-^-^)」オー・オーが錆びた電子音声で返す。「ニンジャだとォ……?ハ!」アイアンフォージドは鼻で笑い、そのトレンチコートの男を観察した。23

2019-01-30 23:17:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

背中には長旅用の背囊や寝袋が背負われている。目つきは鋭く、体格はまあまあ良いが、旅行者か放浪者にしか見えない。「どおれ……」アイアンフォージドはこのコートの男の前に立って腕を組み、威圧的に見下ろした。その背丈はアイアンフォージドのほうが頭一個分高く、総筋肉量の差は圧倒的である。24

2019-01-30 23:21:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、初めまして、俺はこの部隊の隊長をつとめるアイアンフォージドだ。名乗ってみるがいい、ニンジャならばな」「ドーモ、初めまして、サツバツナイトです」男は手を合わせ、オジギした。「……サツバツナイト?知らん名だなァ……」アイアンフォージドは有機LEDマキモノを広げ始めた。 25

2019-01-30 23:25:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どれ……ううむ……やはりな!俺が持つどのニンジャソウル憑依者データベースにも、そんな名前は見当たらんぞ!」アイアンフォージドはマキモノを手で叩き、鼻で笑った。「アー、ちょっといいかニャー……」ツインテイルズが何かを言いかけたが、コートの男は彼女の肩に手を置き、それを制した。 26

2019-01-30 23:26:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アイアンフォージドは再びサツバツナイトを見下ろし、鼻で笑った。「どのデータベースにも乗っていない。つまり、その程度の実力のニンジャということ!よく生きてこれたな!?この時勢、どの暗黒メガコーポにも仕えた事がないような野良ニンジャに、まっとうな食い扶持と実力があるとは思えん!」 27

2019-01-30 23:30:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ルンペン旅行者!貴様のプロフェッションは何だ?傭兵か?殺し屋か?ハッカーか?その薄汚いコートから安っぽい合成酢飯の臭いがするが、まさか、スシ職人ではあるまいなァ?」「私は……」フジキドはハンチング帽を被り直しながら言った。「国際探偵をしています」「o_0」オー・オーが驚いた。 28

2019-01-30 23:33:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「国際探偵だと、生意気な…!」アイアンフォージドはガントレットに覆われた拳を握った。「いいか、これを見ろ!」彼は棚から強化ガラス瓶入りのビールを取り、それをオー・オーに持たせた。そして上に向けた掌の小指側を、ビール瓶の横にそっと添えた。これは…ボトルネックカットチョップの構え!29

2019-01-30 23:36:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」彼はカラテを一点集中させ、横一文字にチョップを振り抜いた。凄まじいまでの切れ味であった。ダイヤモンドカッターで切断されたかのごとく滑らかに、ビール瓶の首が跳ねられたのだ。彼が単なる力任せのカラテではなく、優れたワザマエをも併せ持つことの、何よりの証左であった。 30

2019-01-30 23:40:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

古事記にもある通り、ボトルネックカットチョップはカワラ割りと並び、ニンジャの力量を比べマウンティングを行う為の最も基本的な作法の一つである。「どうだ、貴様のカラテを証明してみせるがいい!」アイアンフォージドは切断したビール瓶を持ち、ごくりと呷りながら、サツバツナイトを指差した。31

2019-01-30 23:42:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

他の傭兵ニンジャたちも興味深そうにこのやり取りを一瞥し、ニヤニヤと馬鹿にするような笑みを向けた。スナブノーズとソリチュードに至っては、アイアンフォージドの後ろで賭けを始めていた。「よかろう」サツバツナイトと名乗る男は、投げ渡された強化瓶ビールを木製テーブルの上に無造作に置いた。32

2019-01-30 23:46:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが……ビール瓶の固定はしていない。このままでは仮に瓶をカットできたとしても、瓶が倒れ、ブザマな結果を晒すこととなるはずだ!(なんと愚かな……!ボトルネックカットチョップの作法すらも知らんのか!)アイアンフォージドは思わず、フルヘルムメンポの奥で含み笑いを漏らしそうになった。 33

2019-01-30 23:48:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だがトレンチコートの男は意に介さず、弓を引きしぼるようにチョップ腕を構え……横一文字に振った!「イヤーッ!」一瞬、サツバツナイトの瞳が赤く輝いた。次の瞬間、振り抜いた腕は瓶の反対側へと達していた。瓶は? 一瞬だけ、その場でカタンと小さく跳ねただけだった。 34

2019-01-30 23:50:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

次の瞬間。チョップ手が通過した部分に真っ赤な線が走り、焼き切れた。オー・オーが瓶をサイバネ腕で掴むと、思い出したかのように、切断面からビールが溢れ出してきた。ナムアミダブツ……!「ワオワオワオ」スナブノーズが思わず身を乗り出して言った。「アンタァ、凄いカラテじゃねえの!」 35

2019-01-30 23:52:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フゥーム……まあいい!なかなかのカラテだと言っておこう!頭数は多い方がいいからな!」アイアンフォージドは、ボトルネックカットチョップで開けられたビール瓶を不機嫌そうに腕でなぎ払って床に落とした。「今回は特別に俺のチームに加えてやるから感謝しろ!絶対に勝手な行動は取るなよ!」 36

2019-01-30 23:56:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そしてアイアンフォージドは別の有機LEDマキモノを広げ、作戦手順を改めて示した。「こいつ以外にも今日来たばかりの新顔がいるから、改めて全員よく聞くがいい!俺がこの部隊を率いるリーダーであり、お前らの取り分を働きに応じて正当に評価する!俺のリーダーとしての資格は?歴然である!」 37

2019-01-31 00:00:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アイアンフォージドはサムズアップした両手で自らを指し示しながら、部隊内の8人全員を見渡した。「何故なら俺はニンジャとなる前から、重サイバネのパラディンとしてハック&スラッシュを繰り返してきた、真の無頼漢だ!俺は常に公平性を重んじ、矜持を持ち、不正行為を行った事は一度もない!」 38

2019-01-31 00:05:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まもなく出発時刻だ!何か今回の作戦について質問はあるか!?」「質問」「ジャンキー女!」「オヒメサマを救ったら30億円手に入るっていうけど、他の財宝とかニンジャオーパーツについてはどうすんの?」「我々の第一の目標は、地下牢に捕えられていると思しきオヒメサマを確保することだ!… 39

2019-01-31 00:07:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

…あとはどうなろうと知らん!宝物庫からは各人好きなものを好きなように奪え!その取り分は計算の外だ!」「オヒメサマの報奨金の取り分はどうなるか、念のため改めて説明してくれませんかね?一番でかいのはそれだ!」とスナブノーズ。「ホラ、頭数も増えちまったじゃないですか」とソリチュード。40

2019-01-31 00:09:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「基本的には均等だが、働きに応じて評価する!この作戦に参加し生還した奴全員は、どれほど作戦への貢献度が低かったとしても10%の分け前が得られることを保証してやろう!なおサツバツナイト=サン、お前は予定時刻を過ぎてのエントリーだったので、5%とする!」その言葉を聞き数名が笑った。41

2019-01-31 00:12:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「取り分は、必要無い」サツバツナイトが平然と返した。「何だと……?」「私はブラド・ニンジャとその宝物殿に用がある。オヌシらはその場所を知っているという。そこへ案内してもらえるならば、取り分は求めぬ」「カカカ!気が合うな、若いのォ!儂と同じか!」スミソニアンが笑う。 42

2019-01-31 00:15:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「キチガイが増えやがったぜェ、へへへヘ」セルソードが陰気に呟く。「よかろう、物好きなやつめ!先ほどの発言は録音したから、好きにするがいい!では出発するぞ!MOVEMOVEMOVE!」アイアンフォージドが号令をかけると、酒を飲んでいたニンジャは全員それを飲み干し、気怠そうに動き始めた。 43

2019-01-31 00:17:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だがその身のこなしの隅々には、油断ならぬニンジャの身体制御が含まれてもいる。モータルの重サイバネ者とは違うニンジャとしての存在感と、チーム内の仲間すらも欺き自らの真の能力を隠し通そうとするしたたかさが、そうした一挙手一投足の奥には隠されているのだった。 44

2019-01-31 00:18:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

かくして全員が酒場の階段を登り、店の前につけてあるチョッコビン社の輸送トラック積荷コンテナに乗り込んだのを見ると、アイアンフォージドがその蓋を締め、彼自身は独り運転席に座った。そしてアクセルペダルを踏み込み、暗黒のネオブカレスト市街を北へ北へと進んでいった。 45

2019-01-31 00:21:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

明滅する微かな灯りの下、8人の傭兵は互いに距離を取り、コンテナ内の各所で正座、アグラ、直立不動などの姿勢を取る。ビジネス前の静けさ。強力なチームを組み気が大きくなる反面、仲間すら完全には信用できない。剣呑なアトモスフィアが漂う。ニンジャもモータルも変わらぬ、こうした行いの常。 46

2019-01-31 00:26:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

このメンバーの中でただ独り、ニンジャスレイヤーの恐ろしさを知るツインテイルズは、他のならず者ニンジャたちが軽率に邪悪な行動を取らないかどうか、祈るような気持ちで見ていた。またそもそも、何が彼の逆鱗に触れるのかすら、彼女にはハッキリとはわからないのだった。 47

2019-01-31 00:27:53