人間を素体として生み出される戦略生体兵器の少女

人間を素体として生み出される戦略生体兵器の少女の話
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@akuochiken

--- この「研究所」での彼女の地位はそこそこ高いのだと思う。そして、道行く少女、おそらく少女の姿をしているのは彼女の同胞たちだと思うが、そういった少女から彼女は「お姉ちゃん」だとか「姉さん」だとか、気軽な言葉を投げ掛けられて挨拶される。

2019-02-11 21:38:20
@akuochiken

どう見ても彼女より年上の見た目の女性から「姉」と呼ばれ慕われているのは、やはりギャップもあって滑稽に見えた。 「面白いでしょ?」 彼女は俺の心を見透かしているのかと思った。 「私が」 そっちじゃないよ、そんなことはないよと軽く釘を刺しておいた。 彼女は想定外の反撃に頭を痛めていた。

2019-02-11 21:42:13
@akuochiken

「入るわよ」 扉をコンコンと2回ノックして、ドアノブを回して扉を開ける。 『第二応接室』と書かれたこの部屋は、研究所の他の部屋は認証により自動で扉が開く全自動なシステムであるのに対して、この部屋はアナログであった。 ガチャリと、勢いよく開けた先に、先程の長身の女性が静かに佇んでいた。

2019-02-11 21:52:55
@akuochiken

「姉さん、御無沙汰しています」 彼女が軽く会釈する。 「そして新しい方も、ようこそ私たちの研究所へ」 最低限の礼は払う、しかしながら本当に最低限の言葉を投げ掛けているという印象。 「急に呼び出して申し訳なかったね、先に来てたんだからソファーに腰掛けて待ってればよかったのに」

2019-02-11 21:56:56
@akuochiken

彼女はふいっと少し首を振った。 「そう、確かにあなたの性格を考えれば、客人より先に自分がくつろいでいるよりは、立ったまま迎え入れる方が性にあっているわね」 すごい、全く分からなかった俺に自動翻訳してくれてる。 「まぁ、さっさと座りなさい、あなたも忙しいはずだから」

2019-02-11 22:05:21
@akuochiken

ソファーに深く腰掛ける少女、というか少女体型故にソファーの大きさと合ってないことも滑稽だったのだがそれは突っ込まないでおいて、それに対して、いかにソファーであろうとも、隙のない挙動で腰掛け、目の前で微動だにしない整った姿勢で腰掛けているのが、先程の彼女。

2019-02-11 22:17:23
@akuochiken

隣に腰掛けている少女は、目を見れば彼女が機械であることが分かる。彼女の全身を構成する肌も、所々機械的な意匠が見える。 それに対して、目の前の彼女は、どこからどう見ても人間のままである。 全身を包む白い軍服に、艷やかな黒髪、端正な顔つき、腰掛けていても分かるスラリとした細長い脚。

2019-02-11 22:20:07
@akuochiken

白い手袋をはめた手を、拳を軽く握って腰掛けた太腿の上に載せ、彼女の身体と比べても少し大きめのソファーに飲まれることなく、ビシッとした背筋でこちらに正対して構えている。 改めてこちらに目を向けた彼女は、少女のぎこちないそれとは違い、ニコッと笑って言った。 「姉がお世話になります」

2019-02-11 22:25:46
@akuochiken

「待って、開口一番その言葉はおかしくない!? ほらもっと言うことあるでしょ、お姉ちゃんもお疲れ様とか、私が今日ここに来たのは本当に偶然だったとかさ!」 「いえ、既に姉さんが話されていたのかと思って」 「くぅううう……」 直感的に感じた。 このコント、結構長く続くだろうなと。

2019-02-11 22:27:43
@akuochiken

少女の方は、その言葉を聞けば、とても人間らしい言葉を吐いていることは分かる。悲しいかな、表情が、人間らしい挙動が薄くて感情が伝わらないだろうなという気はするが、一方で彼女は、人間としての余裕というか、隙がないだけであって、それ以外に関してはまるで完璧な人間であるかのように感じる。

2019-02-11 22:32:35
@akuochiken

それでいて、人間として完璧過ぎることを逆に不気味だと思う本能的な恐怖というか、そういうものは感じずに、ただただ、正対している女性に引き込まれてしまう。 女性としての魅力以上に、引力がある。 気を抜いたら取り込まれてしまいそうな、そんな印象。 これは、危険だ。 ここから何を話せば……

2019-02-11 22:50:20
@akuochiken

「私に合わせなさい」 隣の少女が、こちらを向いて真剣な眼差しで小声で語り掛けた。 「彼女と話し合うには人間であるあなたには荷が重いかと思う。だから私に、私のテンションに合わせて話しなさい。いま、見るべきは彼女ではなく私の方。私を介して、徐々に彼女という存在に慣れていきなさい」

2019-02-11 22:53:59
@akuochiken

そういうことを彼女の目の前で俺に話すのは失礼じゃないかと思ったけど 「大丈夫よ、さっきも言ったでしょう、彼女は私に逆らえない。私の行動はスルーしてもらうし、第一、彼女の特性として、こういう“事実”は何も彼女の感情にも、行動にも影響しないから、安心して。彼女はそういう生き物なのよ」

2019-02-11 22:58:31
@akuochiken

彼女はそう言い終わると、腕組みをしてソファーに倒れ掛かるようにして更に深く沈み込んだ。 「あなたの口から話しなさい、あなたが何者であるのか。この人とはあなたも長い付き合いになるだろうから、いま、この場で、あなたの言葉で伝えて、知ってもらいなさい」 もはや姉というよりは監督である。

2019-02-11 23:18:19
@akuochiken

「分かりました。ではまず、そうですね……あなたがいま、抱いているであろう疑問から解消していきましょう」 そういうと彼女は、軍服の胸元のボタンを外し、上着を脱ぎ始めた。 突然のことに変な声が出そうになって隣の少女に目配せしたが「黙っとれ」という冷たい目線が返ってきた。

2019-02-12 00:03:39
@akuochiken

ゆっくりと、そして臆することなく上着を脱いで、自らの豊満な胸がもう少しで顕わになる直前まで下着を押し下げて、その胸の谷間を見せつけてきた。 「見てください、ここに線が入っているでしょう。これが姉さんと同じ、私が人間でなく、戦略生体兵器である証です」

2019-02-12 00:22:00
@akuochiken

「同じ戦略生体兵器であっても、私たちは個体によって容姿が様々です。例えば姉さんは、詳しい方がその姿を見ればすぐに判別は可能かと思いますが、私はそうではなく、完全に人間だと思われます。妹たちからも『限りなく人間に近い』と羨ましがられていますね」 彼女は少し顔を緩ませて苦笑した。

2019-02-12 00:30:59
@akuochiken

「ただ、容姿の違いを気にするなど、まだまだ兵器として未熟な証拠。妹たちにはそれを自覚してもらわないと」 彼女は再び軍服の上着に袖を通して、きちんと服装を整えて改めて正対した。 「いいじゃない、容姿を気にしても。それにあなたの姿、私でも惚れるし、羨ましいと思ってる」

2019-02-12 01:00:49
@akuochiken

「姉さんもそう言いますけど、私たちは望めば好きな姿になれるのですから、容姿に拘ることはない。それよりも、私は姉さんには、その心の中身、精神の在り方では全く敵わない、追いつけないです。だから姉さんは、私にとってはずっと美しい存在です」 「ふん、彼の前で言ってのけたのは褒めてやるわ」

2019-02-12 01:09:52
@akuochiken

この少女、言葉では悪態をついているけど、今すごい上機嫌な気がする。 「話を続けなさい」 「はい。先程私の胸を見せたのは、私が人間とは違うということをあなたに理解してほしかったためです。私と関わる方は、私が人間ではないことを忘れないで欲しい。気遣いも、人間らしい扱いも不要です」

2019-02-12 01:49:07
@akuochiken

「御存知の通り、私は姉さんと同じ、人間を素体にして生み出された戦略生体兵器です。姉さんとは10年の開きがありますが、人間を素体としたのは私の世代で最後。それ以降は、人間を素体とするのではなく、戦略生体兵器として生み出され、育てられるようになりました。彼女たちは全て私の姉妹です」

2019-02-12 02:01:30
@akuochiken

「姉妹と言いましても、私の姉は、姉さんを含めて、もう数が少なくなってしまいました。一方で生き残っている私は、時代の流れと、人間の頃の性能が合致したのでしょう、今では私が最高の性能を誇る戦略生体兵器と呼称され、彼女たちの総司令官となって従軍するようになりました」

2019-02-12 02:19:30
@akuochiken

「私たち姉妹は兵器ですが、同時に人間らしさという要素も重要です。ですので、私は司令官という立場的には彼女たちの上位存在でありますし、一方で彼女たちの姉であり続けます。いえ、彼女たちの中には私を姉としか思っていない子もいるでしょう。私が姉さんのことを、ずっと姉と思っているように」

2019-02-17 02:55:19
@akuochiken

彼女はずっと開きっぱなしだった目を一瞬閉じて、視線を少女の方に向ける。 それを見た少女も、彼女へ目配せして、彼女からの視線を受ける。 何気ない彼女たちの動作も、俺が彼女に引き込まれないよう、俺への負担を軽減させるという点で、全て、この少女によって計算されているのであろう。

2019-02-17 03:03:37
@akuochiken

「あなたの過去の話も必要でしょう」 「はい」 彼女は再びこちらを見る。 その瞳はとても冷たく、相変わらず引き込まれそうな黒色ではあるが、彼女の表情は穏やかで優しいものであり、そのアンバランスさが大変美しく見えた。 「私は戦略生体兵器へと志願したのですが、実はその前の記憶がありません」

2019-02-17 16:07:38