その3、悪の結社の元戦闘員、恋に落ちる
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前の話
本編
定食屋で納豆定食にビールをつけて晩酌にしている元戦闘員さん。テレビではまた秘密結社の戦闘服を着た海外の強盗団の話 「政府は否定していますが、以前に壊滅した日本の秘密結社**の戦闘服であることから…」 「違うって!」 大声で否定したのは元戦闘員さんではない。
2016-06-05 19:02:09こんな男、それも元戦闘員さんを除けば中高年の方が多い定食屋にはめずらし、若い女性だった。20代の後半から30代初めぐらいだろうか。何かスポーツをやっているらしい締まった体つきで、器量よしだが、今は酒に赤らんでいる。 「分かってないなー」
2016-06-05 19:03:29「あの結社の戦闘服は、胸にある髑髏のボタンがこう、三連でしょ?あれ二連じゃん。縫製も雑だし、いい加減な偽物だよ!コスプレ!!」 「お嬢ちゃん静かにな。それにしてもそっちの兄ちゃんと同じようなこと言うなあ」 納豆ををかきまぜる箸をとめる元戦闘員 「そうでしたっけ」
2016-06-05 19:05:07酔うと結構口が軽い元戦闘員さん。ちょっと反省。だが女はにんまりすると、おちょことぐい飲みをとって隣にすわる 「おにーさん、話が分かる!」 「あ、ああ」 「もーさー。世の中秘密結社とか地下帝国とかいったらだいたい同じもんだと思ってんだよねえ。ぜんぜん違うのにねえ」 「そうだな」
2016-06-05 19:06:20「ほらこれ、なんだと思う?」 「ああ、レッドサンエンパイアのトージョースクアッド…ひところ勢いのあった組織の記章だけど、なんであんたが?」 「えーとね。えへへヤフオク!ヤフオクだよー。いやーお兄さん偉い。偉い。私以外にこういうの分かる人少なくてさー」 「ああ、うんうん」
2016-06-05 19:07:49「私ねー、大空流星っていうんだ。リューセイって男みたいな名前だけど、いちおう女」 「お、俺は…認識番号****…あ、いや…なんだ、まあ名乗るほどのもんじゃないよ」 「じゃーお兄さんでいいか!ね!」 「うん、うん…」 この距離感なんだろと思いつつ悪の組織談義に花を咲かせる二人
2016-06-05 19:09:40一応IDも交換してトークぐらいはできるように。翌日 「昨日は本当にすいませんでした」 という謝罪メッセージが来る。酔うと虎になるらしい。大空氏は保育士。子供たちを見守り育てる仕事についている。
2016-06-05 19:11:51「保育士か。よく園児のバスを襲ったときは“やめてください”とかいうのを、怪人がいじめたっけな…みんな真面目そうだったが、意外な面もあるもんだ…いや、市民なんかとあんまり深く付き合わない方がいいぞ…」 と思いつつもなんとなく大空氏からのトークがあると 「そうですね」 とか返す
2016-06-05 19:13:32元戦闘員はおおぜいの仲間とともに悪事を企んできたから、ひとりというのは結構身に応えるのだった。ときどき会って、また飲んで、ゲロ吐くまで酔っぱらう大空氏をタクシーまで送っていくことに。 「もーお兄さんいっつもごめんなしゃい」 「いや、いいっすよ。今日の逆十字団の話は面白かった」
2016-06-05 19:15:09「そーなんすよ意外と知られてないけど十字団の左右騎士長は二卵性双生児で一卵性じゃないんですだからよく見るとクリソツってほど顔は似てないんですよー」 「なるほど。体格も使う技も結構違いますよね言われてみると」 「ねー。それを双剣双剣いいす…あう…帰ります」 「おつかれさまです」
2016-06-05 19:16:29一緒にヒーローショーに行っては「あーあの怪人ほんとはもっと強いですよねー」「まあ尺が短いですからね」とか、大空氏のいきつけの喫茶店にいったり。なぜか穏やかそうな顔の割に目つきのするどいマスターや、テンガロンハットをかぶった身ごなしの凛々しい若者とかが出入りして、異様に鳥肌が立つ店
2016-06-05 19:17:58「これデートじゃね?」 って元戦闘員さんも遅まきながら気づく。 「カップルとか…襲って泣かせたことしかなかったな…俺が…いつの間にか…」 不思議と屈辱感がない。なんとなく、秘密結社での日々さえ色あせ、最近の暮らしが鮮明になってくる。
2016-06-05 19:19:07海辺を二人でそぞろ歩いていたところで、コンビナートで火災が上がる。漆黒の煙、真紅の炎。多くの作業員が逃げまどっているのが見える。 「た、大変だ」 「…(事故っぽいな。襲撃にしては火の広がり方が制御されてない)」 「ごめんなさい。お兄さん…私…ええい、もう。驚かないで…いえ」
2016-06-05 19:22:44「驚かせるかも…変身!!」 大空氏がいきなり波打ち際に駆け出し、ポーズを決める。まばゆい光が走り、銀のコンバットスーツに身を包んだ戦士が、水面を駆け抜けていく。沈むより早く次の足を前に出して、恐るべき速さで。
2016-06-05 19:23:48呆然とする元戦闘員さん。大空氏はそのパワーを生かして救助にあたる。銀の輝きが火災現場を飛び回り、何か光線を放って建物のがれきなどをどかし、人命を救っていく。あざやかな活躍
2016-06-05 19:24:55すべてが終わって戻って来た戦士は、荒い息をついて変身解除。 「驚き…ましたよね…」 「ああ…」 「私、あはは…実は…ヒーローなんですよ…っていっても、敵組織を倒しちゃったから、今はすることないですけど」
2016-06-05 19:25:49「すいません。隠すつもりじゃなかったんですけど、結構ひく人もいるから…でもお兄さんなら…だいじょうぶかなって…」 「…」 「…だめ、でしたか」 「俺は…あんたとはもう会えないな」
2016-06-05 19:26:34ショックを受けた顔をする大空氏 「そ、そうですよね。やっぱヒーローとか重…」 「俺は…俺はな…イ゙ーッ!!!!」 両足を開き、両手を挙げて指を折り曲げ、あのポーズをとる元戦闘員
2016-06-05 19:27:33「っ…!?」 「たくさん悪の組織を研究してきたあんたなら分かるだろ。これがただの真似か。本物かって」 「そ、だって…お兄さんは…でも…あんなに…私が酔ったときも…」 「偽装だ…人間社会に溶け込むための」
2016-06-05 19:28:36「どうした殺れよ!俺の秘密結社はあんたの敵じゃないけど、悪の組織には変わりない!」 「でも、もう壊滅…」 「壊滅しても!!結社は俺の中で生きてる!!俺がいる限り!再び人間社会を混乱の渦に叩き込む!」 「そんなの、あなた一人で」 「そっちが来ないなら!こっちから行く!イ゙ーッ!!」
2016-06-05 19:30:29