その4、悪の結社の元戦闘員、失恋から立ち直る
- alkali_acid
- 1534
- 1
- 0
- 0
「絶対安心、悪の組織のグッズ買い取ります…か…金になるかな」 先日の墓参りで手元不如意。最近道路工事の飛び込み仕事はあるもののまだお給料がもらえるのは先の元戦闘員さん。世の中色んなマニアがいるもので、悪の組織グッズを取り扱う専門店がアキハバラにあるらしい。
2016-06-06 01:46:43「こいつともいよいよお別れだな」 黒い戦闘服と覆面。結社の戦闘員である証だが、もはや着る機会はない。 「この店自体がヒーローの罠ってことは…ないんだよな…実際」 滅びた組織への関心の低さは、最近身をもって味わった元戦闘員さん。
2016-06-06 01:47:54行ってみると、雑居ビルの地下一階。さして広くない店内にぎっしりさまざまな悪の組織のグッズが積み上げてある。紫に輝く水晶に、八芒星を描いた小型ミサイル、何かぶつぶつしゃべる偃月刀。でもどれも随分古臭く見える 「あれ、今の“青い亡霊”のカフスだよな。あれって70年代の組織じゃ…」
2016-06-06 01:50:14「もしかして言うほど売れてないのか…あの、戦闘服を売りたいんですが」 眼帯つけた老人がカウンターから不機嫌そうににらむ。 「戦闘服ぅ…?いやー戦闘服は…ん?いや待て、もしかして例の秘密結社のやつ?」 「はあ。あと覆面もあります」
2016-06-06 01:51:41「チラシ見て…秘密厳守で買い取ってくれるって」 「ああ、そりゃそうだけどね。そうか。ちょっと見せてくれ」 眼帯を外すと昆虫めいた義眼があらわれる。ためすすがめつ元戦闘員さんが差し出した品を定める 「あれ、ご亭主もしかして怪人…」 「はっ…過去を話すは無用、聞くは無礼」
2016-06-06 01:52:57「あっはい」 元戦闘員さんがかしこまっていると、店主はむっつりしながらうなずく。 「いつもならこんなもんに大した値はつけんがね。おたくんとこは幹部から末端までひとりのこらず大爆発して、ほとんど現物が残っとらんし、それに物好きがどうしても欲しいって言っててね」 「はあ誰が」
2016-06-06 01:54:29店主がまた昆虫の複眼でにらむ 「だから聞くなっちゅーに」 「はぁすいません…」 「ま、これだね」 指を五本立てる 「五十万…」 「五万」 「あっはい」
2016-06-06 01:55:23とうとう戦闘服を手放した元戦闘員さん 「いよいよ俺もただのおっさんか…」 「何がおっさんだ。まだ若いんだ。頑張りな。いざとなったら体に埋め込んである自爆装置売りに来な。そっちも2万ぐらいにはなる」 「あっはい、検討します」
2016-06-06 01:56:28後日、悪の組織グッズの店を訪れる影あり 「やっほー!おひさいぶりー」 「なんだもうできあがってんのかお嬢ちゃん」 「お嬢ちゃんんて歳じゃにゃーですよ。うひひ」 「そういや、あんたに頼まれてたあれ入ったぜ。レア物だ」
2016-06-06 01:59:00「え、まじ?」 「例の秘密結社の戦闘服。だいぶ使いこんじゃいるが、よく手入れしてある。覆面もついてるぞ」 「…ちょっと、ちょっと見せて下さい」 女はひったくるようにして品を奪い取ると、くんくんとにおいをかぐ。
2016-06-06 01:59:52「…悪のにおいがする…」 「あーまあそうだろうな」 「…知ってます?ここの組織って戦闘員がイ゙ーッとか言うんです」 「伝統的なところだな」 「馬鹿っぽいですよね…ほんと…おいくら?」 「10万、といいたいところだが常連割引で8万だ。出血大サービスだぜ」
2016-06-06 02:01:21「はい」 「即金か。保育士さんがあんまり金使いあらいのはよくねえな」 「なーに言ってんですか。またおごってくださいよお」 にへーっと笑う女。また戦闘服に鼻を寄せてくんくんして、頬ずりする 「しかし変わった趣味だな…」 「ひひひ。すいませーん」
2016-06-06 02:02:34「ヒーローやってたときのくせで、悪のにおいをそばに感じてないと、生きてる実感がねーなくて…」 「そんなもんかね」 「そんなもんなんです」 「まあおかげでこっちゃしょうもないマイナー商品がさばけるんだ。毎度あり」 「はーい」
2016-06-06 02:03:38・釣堀編
元戦闘員さん釣り堀へゆく。秘密結社が滅びて生き残ったものの、色々あってなかなか定職が決まらない元戦闘員さん。飛び込みの解体工事の仕事を請け負い、といって単純労働の下っ端ばっかだが、とりあえずつつながく終わらせ、お給料をもらって休養。
2016-06-06 20:47:58現場がけっこう山の中だったので、乗せていってくれるという親方の厚意を辞して、ひさしぶりにのんびり歩く。山岳でもよく暗躍したのでわりとアウトドアには慣れている元戦闘員さん 「あーこのへん、昔よくいいった採石場に似てるなあ。よく爆発したっけなあ味方が」
2016-06-06 20:48:59などとなつかしみながら歩いていると、緑おいしげる道の端に「釣り堀」の看板がぽつん。このさき4kmとある。 「釣り堀かー…一度もやったことないなー…へー釣った魚を食わせてくれるのか。ニジマス?…ふーん…まあ懐もあったかいしな」 てくてくと行ってみる。どうやら昔の養魚場を改装したやつ
2016-06-06 20:53:23オフシーズンなのか客はほとんどいない。お金を出して釣り餌と竿とバケツを借りて、糸をたらす元戦闘員さん 「平和だなー…平和…平和はよくないな…嵐の前の静けさだなー」 妙なところにこだわりつつ、まったり太公望していると
2016-06-06 20:54:38「お?おおおお?さ、魚ってこんなに強く引くのか…そういえば地獄の人面魚作戦でもヒーローをあと一歩で海中にひきずりこむとこ…うぐ…くそ…」 腐っても元戦闘員。ただの魚に負ける訳にはいかない。ふんばる。ふんばる 「うおおおおお!!」 ボキ
2016-06-06 20:56:24なぜか糸ではなく竿が折れる 「げえ?」 弁償という言葉が頭をかすめる元戦闘員さん。だが水面が泡立ち現われたのは 「ひさしぶりにいい勝負をさせてもらった」 喋るでかい魚 「か、怪人」 「世界怪人連合にありし、男爵(バロン)ピラルゴフ、だが今はただの釣り堀の主」 「な、なぜ魚の姿に」
2016-06-06 20:58:24「決まっているだろう…この姿が、一番人生をエンジョイできるからだ」 「は、はあ」 「魚はいいぞ。君もなってみんか」 「いや、自分は怪人じゃないので」 「そうか…もしやヒーロー?」 「い、いえ元戦闘員です…」
2016-06-06 20:59:44