その6、悪の結社の元戦闘員、南海に散る

帽子男 @alkali_acid

【予告】今夜、帽子男のアカウントでは「劇場版 元戦闘員さん～南海に散る悪の花～」を予定しております。ちょっとニンジャスレイヤーを思わせる連投になりますので、うっとうしい方はリムーブ・ミュート推奨でございます。

帽子男 @alkali_acid

【予告】 「犯人たちが乗っ取ったメガフロート…あれは爆発した秘密結社の海上要塞をモデルに作られているんだ」 結社の元研究員は黒ぶち眼鏡を手上下させながら静かに告げる。 「なんだって！？なぜそんな？うあっち」 元戦闘員は思わずメヴィウスの灰を手の甲に落して悶絶する 「すべては…」

帽子男 @alkali_acid

【予告】 なりひびくトランペットの音。見上げると、高く積んだコンテナの上に、テンガロンハットをかぶり、楽器を手にした男の姿が。 「ふ…結社の手先にまだ生き残りがいたとはな…」 「お、お前は！！」 震えて指さす元戦闘員に、男はにやりと笑って跳躍する。 「とう！変身！」

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◆夜な◆

帽子男 @alkali_acid

【予告】 今夜、帽子男のアカウントでは 「劇場版 元戦闘員さん～南海に散る悪の花～」 の上映を予定しております。 ニンジャスレイヤーを思わせる連投になりますので、うっとうしい方はリムーブ・ミュート推奨でございます。

帽子男 @alkali_acid

【予告】 「新生秘密結社かー。新しい戦闘員たちとうまくやれるかなー。外国の人らしいけど言葉とか通じるかなー。英語？英語とかだよなー」 元戦闘員さんは語学は苦手なのだ。 「すげー緊張してきた。でも、俺達にはあれがあるからな。そう共通の合言葉、イﾞーッ！！！！」

帽子男 @alkali_acid

◆まもなくな◆

帽子男 @alkali_acid

（黒磯に白波が弾け、三角形をしたロゴが迫ってくる。漢字二文字で帽子）

帽子男 @alkali_acid

帽子男フィルムプレゼンツ

帽子男 @alkali_acid

「元戦闘員さん～南海に散る悪の華～」

帽子男 @alkali_acid

男はその日も六畳一間のアパートで目を覚ました。台所でヒゲをあたり、やつれた己の顔を覗き込む。年齢は20代後半から30代前半。身長は175cm、体重は64kg。中肉中背。特徴のない目鼻立ち。短く刈りそろえた髪にも、しまむらで買った服にも主張はない。どこにでもいる、ごく普通の底辺。

帽子男 @alkali_acid

だが男はかつて、悪の秘密結社に所属する元戦闘員だった。強力な怪人に付き従い、数々の作戦を実行し、世界に恐怖と混乱をもたらしてきたのだ。もっともその記憶も最近は薄らぎつつある。結社は滅びた。無敵のヒーローとの戦いに敗れ、本拠地である海上要塞は大爆発を起こし、総統以下構成員は自爆

帽子男 @alkali_acid

男のみが、なぜか生き残ってしまた。恐らくは体に埋め込んだ自爆装置の不発によるものだろう。以来、生活は一変した。 はじめは息を殺し、身を潜め、科学特捜隊や地球防衛軍といった「公」の組織の追及から逃れようと神経を張り詰めさせていた。だが、次第に、自分が注目されていないのに気づいた

帽子男 @alkali_acid

野心にあふれる悪の組織はほぼ一年交代で次々と名乗りをあげ、我こそは世界を覆さんとさまざまな奇手を尽くして社会に挑んだが、たびごとに新しいヒーローがあらわれ、その大志を粉々に砕いた。そうこうするうちに、男の所属していた結社は、もともとあまりこれといった特色もなかったがために翳んだ。

帽子男 @alkali_acid

正直、結社の名前を憶えているのは、ヒーローの活躍や怪人の暴虐を朝のニュースに食いつくようにして見ていた子供や若い母親、一部のマニアを除けば、いやそうした人々のあいだでさえ、ほとんどいなかったのだ。

帽子男 @alkali_acid

元戦闘員は、忘れられつつあるのを感じた。社会の中に、なんとなく、底辺として、新しい生き方も決まらぬまま、埋没しつつあるのを。 「せめて俺が怪人なら…思いのままに姿を変え、新しくやり直せるのに」 つぶやいてもみたが、実際はそういう問題ではなかった。

帽子男 @alkali_acid

元戦闘員には、欠けていた。怪人や幹部、総統にある資質、主体性が。誰かの指示を待ったり、命令に従ったりするだけでなく、進んで悪事を働き楽しみ、あるいは魂を燃やす強い自我がなかったのだ。

帽子男 @alkali_acid

何かを決断しなければならないとき、元戦闘員はおびえ、すくみ、うつむいてしまった。怪人に改造してもらう機会があったのに、逃した。だから現状は、実は自業自得といっていいかもしれない。

帽子男 @alkali_acid

男は溜息をついて、スマートフォンを確認する。特にメッセージはなかった。新しい仕事も見つかっていないので、予定もない。 とりあえず、ふだん吸っている煙草、メヴィウスを手に、アパートの外に出て、一服する。

帽子男 @alkali_acid

「…ふう…しみるなあ」 ニコチンもタールも少ないのに妙にかっこいいセリフを口にしながら、もう一吸い、というところで、スマートフォンが震える。 確認すると、以前の職場で知り合った人物だ。いや、正確にはもっと古いなじみ。同じ結社に所属していた元研究員だ。

帽子男 @alkali_acid

怪人や戦闘員と違って自爆装置をもともと埋め込んでおらず、生き残った。いわば外様の人物。最近は大手製薬会社に再就職に成功し、いわゆる勝ち組になった。 同じ悪の組織出身でも、その後の人生は色々だ。

帽子男 @alkali_acid

「おひさしぶりです。いつぞやはご迷惑をかけて」 “いやいやこちらこそね。今時間あいてる？” 「あーはい無職なんでね」 “ちょっと話したいことがあるんだが、いいかな？” 「いっすよ」 “君の街まで来てる” 「じゃー駅前のガストでいいっすか」