その6、悪の結社の元戦闘員、南海に散る

帽子男 @alkali_acid

「おぐ…お…」 立ち上がる元戦闘員 「イﾞーｯ…イﾞーッ…」 あきれたようすで肩を竦めるヒーロー。 「何のつもりだ…秘められた力があって怪人に変身するのか？実は総統のクローン？ダークヒーローになるか？どれもなさそうだな」

帽子男 @alkali_acid

「…おまえには…不満でも…俺は…充実してるぜ…やっと…結社の一員として、悪の側にたって…最後まで戦えるんだからな…くそみてえな…余生も…これで…」 破れた覆面からにやりと笑みをのぞかせる元、否、現戦闘員。もう一度フウライガーにいどみかかろうとして、一瞬、走馬燈のように記憶が蘇る

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2分と持たずに挽肉になったバルカンゴリラ。いつもヒヒヒと笑ってたDr.デス。自分の代わりに怪人として改造を受け、いまいちな戦いぶりだったドリルアザラシ。数多くの仲間たち。結社が滅んでから会った人々も。コンビニでよく買い物をしていた女子高生たち。とても溌剌としていた。

帽子男 @alkali_acid

すぐ正義に心を売る信用できない元研究員。釣り堀にいたでっかい魚の姿をした元世界怪人連合の男爵（バロン）ピラル…なんだっけ。東京のアキハバラにあった悪の組織放出品のお店のあやしいおっさん。片目が複眼だったけどあの謎は解けなさそう。怪人酒場のイケメン店長。

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正体はイケメンばかりの悪の組織、逆十字団の大幹部左右騎士長の片割れだったっけ。そして、銀光戦士シャンバランこと大空流星。彼女も戦いが終わったあと、むなしさを感じていた。この疾風迅雷フウライガーみたいに正義かどうか微妙な感じになってほしくはない。いつまでも正義として悪に相対して

帽子男 @alkali_acid

「おい。長いぞ回想」 「い、イﾞーｯ！！」 「せっかくだ。この日のために編み出した新技で葬ってやろう。風雲怒涛！！フウライボンバー！！！！！」 稲妻の拳と疾風の拳が合わさって戦闘員の胸をうがつ。

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「イﾞーッ！！！」 あばらを砕き、心臓をえぐりぬいた一撃のあとで、フウライガーは見事な残心を決めた。少しもブランクを感じさせない。 「この技は、爆裂ではなく、穿孔。つまり細い穴を作るのだ。装甲のぶあつい敵向けに作った。故にお前の肉体も粉々にならなかった」

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「それにしても」 フウライガーは手の中にある血まみれの装置を見つめた。 「自爆装置。最期の最期でも不発とは。つくづくぱっとしない男だなこいつも」

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フウライガーは変身をとくと、テンガロンハットを指でおさえ、トランペットを肩に担いで風のように去っていった。

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あとには元、否、現戦闘員の躯が、胸に大穴を開けてあおむけに横たわっていた。

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「い、イﾞーッ」 飛び起きた元戦闘員。あたりを見回すと、どこかのベッドだ。 「ゆ、夢落ち…」 だが胸に激しい痛み。 「ど、どっち？」 不条理系の展開は苦手だった。

帽子男 @alkali_acid

「危ないところだったな。あとちょっと遅ければ臓器移植も再生も間に合わなかったよ」 黒ぶち眼鏡を上げ下げしながら、かたわらでほほえむ元研究員。 「あ、あなた！え？どういうこと？」 「分からないのも無理はないね。まあつまり、医療に転用された怪人の再生技術を使い、君を蘇生させた」

帽子男 @alkali_acid

「いわば今の君は、再生怪人ならぬ、再生戦闘員だ。違った、再生元戦闘員だな」 「さ、再生元戦闘員…は、でも怪人の細胞を移植したことで強く」 「それはない。むしろ自爆装置を抜き取られてよみがえった君は、より“ただの人”になったと言える」 「ただの人…」 「まああれだ。感謝したまえ」

帽子男 @alkali_acid

「あ、ありがとうございます…」 元戦闘員は礼をしてから、ちょっと首をかしげて 「あれ？でもよく考えたら全部あなたのせ…」 「さてと、私はここを離れる。君にはたっぷりと保険適用外の治療を施した。費用についてすぐ払えとは言わんが、ま、その分、秘密は、守れるね？」

帽子男 @alkali_acid

「…え、あ、はい」 とは応じた元戦闘員だが、首をさらに反対側にかしげて 「もしかして…やっぱり再生怪人工場に放火した一件、めっちゃ恨んでるのではこの人…」 「何かな？私は忙しいのでこれで」

帽子男 @alkali_acid

「あ、そうそう。君のスマートフォンを調べて、見舞いに来てくれそうな人を探したんだが、案外友達いないね」 「…え、それ最低では？」 「まあとにかく、ひとりだけは来てくれたみたいだから」 すたすたと病室を出ていく元研究員。

帽子男 @alkali_acid

「あの人最低では？」 今更ながら再確認してしまう元戦闘員さん。考えてみると、自爆装置が不発で生き残った己も情けないが、ちゃっかり生きてるあの元研究員は何かそうとうなたまのような気がしてくるのだった。 「あー…か、かっこよく死ぬはずだったのに…悪として」

帽子男 @alkali_acid

「イﾞーッ…ででで…」 叫ぼうとして胸をおさえる元戦闘員 「なーにが、イﾞーだか」 聞きなれた声にぎくっと頭を上げると、花束を持った女性がひとり

帽子男 @alkali_acid

「あ、しゃ、シャンバら…」 花束をフルスイングして頭を殴り付けると、背をくるりとそむけて鼻息も荒く去っていく 「ばっかみたい」 花びらに埋もれながら、元戦闘員は？マークを沢山浮かべて、また横たわるのだった。

帽子男 @alkali_acid

「劇場版 元戦闘員さん～南海に散る悪の華～」 終