- natumeitika
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「まだ抜かないで下さい。もう少しこのままで、どうか……」 「ですが、兄様。もう勇作は……」 そうこうしている間にも、弟は俺の中で硬度をみるみる失っていく。
2019-03-08 23:55:00まだ弟に出て行って欲しくなくて、そうさせないように俺は今よりもっと体を近づけようとしていた。 「あ、だめです。今動かれては……!」
2019-03-09 00:03:55俺はもう、俺のままではいられない。花沢少尉の部下の尾形上等兵に戻らなくてはならなかった。俺に覆いかぶさったままでいる弟を押しのけて、身支度を整える。
2019-03-09 04:36:54たとえばもしも俺が弟の部下でなかったら、もしも兄弟でなかったら、もしも俺が女だったなら……。くだらないと思いつつ、もしものことばかり考えてしまう自分が嫌になる。
2019-03-09 04:42:37内務班に戻る途中、中に残っていた弟の種が流れ出て褌に滲みた。わざと中のものは出さずに残しておいたのに、俺の意思とは関係なく体の外に出て行ってしまう。
2019-03-09 14:42:54弟に抱かれた証を体の中に残しておきたいという、ささやかな願いも叶わない。俺は諦めて便所に寄り、指を突っ込んで弟の残したものを全てかき出した。
2019-03-09 14:54:37俺と弟の間にある隔たりを数え上げればきりがない。生まれた時から俺と弟は違うのだ。そのことを今更どうこう言うつもりはない。俺にはこの簡素な寝具が合っている。
2019-03-09 15:16:40瞼を閉じて、次はいつ弟に抱いてもらえるだろうかと考えた。本当は毎晩だって抱いて欲しいくらいなのだ。一日でも一刻でも早ければいいと思う。
2019-03-09 15:24:31そして傷が癒える前に、また新しい傷をつけてもらえたら、どんなに幸福だろうかと思う。でもきっとこの願いは叶わない。弟は決して俺を傷つけるようなことはしないから。
2019-03-10 05:19:46◆◆◆ 兵営内を移動中、弟と遭遇し声をかけられる。挨拶を交わし、しばし談笑をしたのだが、去り際に弟が俺の耳元に口を寄せて囁いた。 「今夜お待ちしています」 俺は黙って頷き、敬礼をしてから弟と別れた。
2019-03-10 05:36:30弟はまだ恋を知らない。いつか弟が誰かに恋をしたら、俺は弟に求められなくなるだろう。あと何回弟に抱いてもらえるだろうか。この関係が一日でも長く続けばと俺は願わずにはいられない。
2019-03-10 06:00:27いつもより念入りに体を洗い、夕食は腹が膨れない程度にしか食べなかった。こんなむさくるしい男の体でも、弟の前では少しでも美しくありたいと思う。
2019-03-12 21:35:38日夕点呼が終わると消灯を待たずに弟の元へ向かう。今夜の不寝番には既に手を回してあるし、俺が夜に居なくなることをとやかく言うやつもいない。所詮は人間相手なのだ。規律などはやりようで、どうにでもできた。
2019-03-12 21:58:14弟の部屋の前で、深呼吸をひとつ。気持ちが急いて早歩きでここまで来てしまったため、呼吸が乱れてしまっていた。制帽をかぶり直し、軍衣に乱れがないか確かめる。
2019-03-12 23:03:32一通り整え終えたあとで、もう一度制帽のつばをつまんで位置を直していてたら声をかけられた。 「そんなに確かめなくとも、兄様の身だしなみはきちんと整っておりますよ」
2019-04-16 23:17:14振り向けば弟が廊下を歩いてこちらへ向かってくる。見られていたとは不覚だ。恥ずかしさを無表情で押し込めて、努めて平静を装う。 「上官に招かれたのです。失礼があってはいけませんので」
2019-04-16 23:17:36「上官だなんて、他人行儀な。兄様は弟に合いに来ただけではありませんか」 話をしながら部屋に入り、扉が閉まることには弟に抱きしめられていた。
2019-04-16 23:18:10「兄様、お逢いしたかった……」 それだけで体がしびれて「はぁ……」と、ため息が漏れた。俺だって逢いたかった。弟の厚い胸板を押し返しながら「昼間お会いしたばかりです」と俺が言えば、「だって、あの時はこうして兄様に触れられなかった」と弟は幸せそうに笑う。
2019-04-16 23:44:03