ローズ・ロゼシア・ストロベリー〜推理(物理)で解決しちゃダメですか〜
今日の山田さんの書く事件は 「画家がショートケーキの苺を食べられた恨みのため探偵を豪華客船で焼殺」 です! #お題殺人事件 shindanmaker.com/870768 ひどい
2019-03-09 14:46:13そして書く
わたしはどうも、赤みのある肉が嫌いなのです。おそらく昔、生肉を食べてお腹を壊したからだと思います。ですから焼肉に行くとわたしは焦げる寸前まで火を通します。心配性で結構。わたしは常に危機を避けたいのです。
2019-03-09 15:00:01ですから、今、目の前で「先生」と呼び慕う方が全身丸焦げでブスブスと煙を開けているのを見て真っ先に思うことは「きっと中まで火は通ってないんだろうなぁ」でした。なんたる不謹慎!しかし、それ以外にはすぐに思えませんでした。
2019-03-09 15:02:05先生…先生。探偵事務所を開く、階層では「不謹慎のかたまり」「死神」「恥知らず」などと不名誉な二つ名を欲しいままにしている男性。正直、彼が死んだことで悲しむ人は少ないでしょうが、わたしにとっては命の恩人であるのです。その人は、わたしの前で無残に死んでいました。
2019-03-09 15:05:00声を出せず、ぱくぱくとわたしは口だけを動かします。何を言おうとも分からないまま。なんで先生がこんな目に?いや、こんな目に遭ってもおかしくない悪行を死ぬほどしてきたのでどちらかといえば「やっぱり?」と思うのですが。でも、人間は殺されるために生きていないのです。
2019-03-09 16:20:34わたしは落ち着こうと目を閉じました。周りの悲鳴や喧騒を遠くに押しやります。…豪華客船、メアリー号。そこへわたしと先生は招待されたのです。正確には先生だけで、何をしたのかわたしの分のチケットまで取ってきたので同行せざるを得ませんでした。海は死ぬからやだと騒いだのですが、ダメでした。
2019-03-09 16:23:48この船のオーナーからの依頼が舞い込んできたそうです。こんなクズに?と思ってしまいましたが先生の腕は確かです。内容はーー起きる事件を解決してほしい。それだけだったようです。珍妙な依頼にわたしは首を傾げましたが、先生は変わらず楽しげな笑みを浮かべて船に乗り込みました。
2019-03-09 16:26:09だというのに三日目の朝、こうして先生は死んでしまいました。世渡りも愛想も良くないわたしが、この豪華客船でーーしかも先生を殺した犯人とともに生活していかねばならないなんて!先生を頼りきっていた罰なのでしょうか?
2019-03-09 16:27:58「大丈夫?」いつのまにかわたしの横に立っていた青年が話しかけてきます。パーソナルスペースが!パーソナルスペースに侵入されています!先生助けて!「…はい」わたしはなんとか言葉を絞り出しました。「この人と君、一緒にいたけど…お父さん?」「……」首を振ります。「雇い主」
2019-03-09 16:31:45本当に人と話すのが苦手なので単語でしか返せません。ごめんなさいお兄さん!「…そっか。とりあえず、いつまでもこのままじゃかわいそうだ。何か布を被せてあげたい」優しい人です。ありがとうございます。うなづくしかできません。精一杯なのですこれでも。…その前に。
2019-03-09 16:34:18先生の死体に近寄り、そばにしゃがみます。そしてまじまじと全体を観察し、おかしいことがないか注意しながら見渡していきます。『遠目で見ただけで分かった気になるな』と、まずは観察しろと、なんども言われました。先生の教えを守ろうとするわたしは愚鈍でしょう。
2019-03-09 16:39:01でも先生の助手です。このぐらいは、せめて、させてほしいのです。溶けた皮膚と焦げた衣服が癒着し境目がわかりません。眼球は蒸発し、口は固く結ばれ覗けません。喉仏が辛うじて見え、筋肉は萎縮しいわゆるファインディングポーズを取っていました。そして、手首にはーー「先生…」
2019-03-09 16:42:02愛用の腕時計が、針を止めていました。まるで先生が死んだことを突きつけるように。…先生。わたしが肩を落としていると客室乗務員の方がそっと立たせてきました。「お辛いのは承知しています…別室で休まれましょう…」小さく頭を振り、乗務員さんと部屋を後にします。
2019-03-09 16:45:58雑多な感じの部屋に通されました。どうも休憩室のようです。焦げ臭いにおいは髪や服についているようで、鼻腔に未だ付きまといます。「このようなところで申し訳ありません。すぐに用意できたのがこちらで…」「いえ」暖かいお茶を出してくださいました。口に含んでみても味がしません。
2019-03-09 16:49:07先生の淹れたお茶が好きでした。それももう叶いません。「私、紅茶淹れるの本当に下手で…不味かったらすいません」感傷による味覚鈍麻ではなくただ無かっただけですか。なるほど。わたしは何を言えばいいかわからずひたすらうつむいていました。いや、二人っきりって気まずい。
2019-03-09 16:51:33ふいにドアがノックされます。乗務員さんが声をかけると、さきほどの青年が入ってきました。なんで?怖い。「何か用?」ああ、つっけんどんに聞いてしまいました。「…犯人を見つけようと思って」何を言ってるのですかね。「豪華客船メアリー号は、すぐには陸に向かえない孤立無援状態だ」
2019-03-09 16:55:46「そうね」精一杯舐められないように強がります。「殺人犯はまだいるーーそう言いたいのね」うっ強がりすぎました。恐る恐る見上げると青年は特に何も感じることはなかったようでうなづいています。「そう。…ここで食い止めなければ」「でもどうするの?警察も…探偵もいないのよ」
2019-03-09 17:05:07今しがた先生は死にました。わたし?まさか、ただの探偵助手。推理なぞできるわけないのです。青年は言います。「僕も探偵なんだ。だけど一人では心許ない……無理を承知で頼む。君の雇い主さんの無念を晴らすためにも、協力してくれないか?」「……」先生ー!先生助けてー!知らない人と動けません!
2019-03-09 17:08:25拝啓、天国の先生。ついでに両親。知らない人についていってはいけないのは百も承知ですが、知らない人が付いてくるのはどうすればいいですか?いえ、みんな天国じゃなくて地獄にいそうですね。先生に至っては三途の川でボートレースしてそうですけど。
2019-03-09 18:15:25「…つまり、君も自分を拾った先生なる人のことを詳しく知らないと?」青年はわたしの少ない語句からそこまで読み取ったのは純粋にすごいと思いました。願わくばこのまま解散したいです。「案外、悲しむのはわたしだけかもね」ああああっ、だからなんで素っ気ない言葉にしちゃうんですかわたしは!
2019-03-09 18:18:07青年は神妙な顔をして黙りました。そのままわたしを一人にしてください、お願いします。「…君はこれからどうするの? この豪華客船を降りた後は…」「その詮索は、犯人探しに必要かしら?」未来のことを考えたくないあまりに辛辣になってしまいました。たしかにどうしましょう…。
2019-03-09 18:20:42「ごめん」青年は目を伏せます。気になりますよね、分かります。「そうだ。名前を聞いても?」「……」断りかけました。名前ぐらい教えても減るものではありませんし、これ以上冷たい対応していると人間関係にヒビが…そ、それだけは避けたいです。「花園ノバラ」「どちらで呼べば?」
2019-03-09 18:26:27えっ勝手に呼んでください。「どちらでも構わないわ」「じゃあノバラさんで。僕は天野陽月。ヒは太陽の陽、ヅキは月」滑らかな解説からするに、慣れてるんですね。「そう。覚えたわ」「うん」なんでちょっと満足そうなんでしょう。「それで、ノバラさん。あの死体は本当に先生だった?」「は?」
2019-03-09 18:29:47