【書き起こし】特集「薬物報道ガイドラインから見る今回の一連の報道。そして、依存症からの回復への道筋とは?」松本俊彦×田中紀子×荻上チキ 2019年3月14日(木)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」 #ss954
今までの仕事を全部否定するような動きがどんどん加速しているような気がしていて、そこに対しては、こんなつるし上げや見せしめのようなことをされたのでは、やはり私たちのような依存症の当事者や家族はますます助けを求めることが難しくなっていくなということはすごく思いました。
2019-03-18 20:52:36荻:これはあらためて松本さん、白い粉や注射器など、今回はそれに対して外国の紙幣を丸めて吸引して見せるというイメージカットまで作っていた番組もありました。こうしたカットがなぜいけないのか、いかがでしょうか?
2019-03-18 20:58:56松:実は薬物依存症の方たち、一生懸命プログラムを受けたり回復の過程にある方たちは、それを見ることによって逆に薬物への欲求が刺激されちゃうんですね。だから実際著名人が逮捕されてワイドショーなんかで話題になるたびに、
2019-03-18 20:58:56自分たちが治療を担当している患者さんたちの薬物の再使用が相次いでしまうという。だから回復を目指している当事者の邪魔をしないでほしいっていう思いがあるんですね。
2019-03-18 20:58:56荻:実際に芸能スキャンダルのような格好でのみ報じているから、それを見ている一般の方々や、使用者やその家族・回復者、そうした方々にどんな影響を与えるのか、あるいは与えたいのかというのが見えにくいところにあるわけですよね。
2019-03-18 20:58:57田:そうですね。大量のコカインが写真になっているものもありましたし、「虫が走る」とか精神疾患とか、すごく重篤な症状ばかりを取り上げていたようなところがありました。
2019-03-18 20:58:57荻:NHKも「おはよう日本」とか夜の番組でも取り上げていましたし、日テレも「ZIP!」「スッキリ」「ミヤネ屋」で白い粉を使っていましたね。テレ朝でも「モーニングショー」や「グッド!モーニング」などで使っていましたし、TBSも「ビビット」や「ひるおび!」、フジテレビも「とくダネ!」、
2019-03-18 20:58:57田:そうです。なんかすごく、私たちがガイドラインを作った後に浸透してきたかなと思ったものが、一気に逆戻りしてしまったような印象がありました。
2019-03-18 20:58:58荻:また街の声や関係者の談話を使わないこと、という項目について、今回は使っていたところが多くあったのですが、この点については松本さん、どういう問題点がまず考えられますか?
2019-03-18 20:58:58松:やっぱり回復を目指している当事者たちが、そこでまた自尊心を傷つけられるというか、今一生懸命頑張ってプログラムをやっているんだけれども、その先に希望が見えなくなってしまう。そして家族も、ただでさえ非常につらい気持ちで人様に言えない問題を抱えているところが、
2019-03-18 21:00:57荻:よく薬物を使う人というのは、危険なおかしな人なんだという印象がありますけれども、そうではなくて逮捕された時、あるいはその前から自分を責めていたりであるとか、不安感にずっとさいなまれているので、ただでさえ自尊心が低い状況であるということが多いわけですよね。
2019-03-18 21:00:57それをさらに自尊心を傷つけるような仕方で、反省しろと求める空気がつくられることによって、むしろより過剰に責め立てるようなムードに加担するということですね。田中さん、この街録であるとか関係者談話を使っていたメディアはどれぐらいありましたか?
2019-03-18 21:00:58田:今回はもうほとんどのメディアが街録を使っていて、また近所の人の取材とか友人に対する取材もすごく多かったなというふうに思っています。自分の身に置き換えたときに、やっぱり近所の人に聞き込みなんかされたら、本当に子どもたちのこととか考えたら、
2019-03-18 21:06:46荻:そうですね。中には「たまに見かけるという近所の人に話を聞いた」みたいな話があって、その人に一体何が分かるのか。ニュースバリューはないんだけど一応出しました、というようなところも初日の報道ではあったんですけれども、
2019-03-18 21:06:46田:一番最初はテレ朝さんですね。その時はまだお父様の顔は隠して、首から下の所だけ映すみたいな感じだったんですけど、出られるというのが分かったら、フジとかが使った時には顔から名前から全部出して、同意でどんどんどんどんインタビューが出ていく状況になっていって、
2019-03-18 21:06:47でありながらスタジオのコメンテーターの人たちが「お父さんにこんなコメントをさせて、本当に気の毒だ」みたいなことをやって。まず取材するっていうことが問題じゃないのかなってすごく思いました。
2019-03-18 21:06:47荻:しかもそのお父様に対して、反省とか謝罪の言葉を言わせるといったらあれですけど、本人が言ったところを使って「こんな言葉を口にしていました」みたいな。こうした家族に焦点を当てることの問題点は、田中さんいかがですか?
2019-03-18 21:09:53田:まず家族の方が一番傷ついている。私も家族の立場でもありますし、この現実を受け止められないっていうことですごくつらい気持ちでいる時に、さらに「自分たちのせいではないか」と自分たちを責めているわけですよね。そうなっている時に追い打ちをかけるようなことをされてしまうと、
2019-03-18 21:09:53家族は相談することもできないし、どんどん内にこもっていってしまうということで、本当にひどいときにはご家族自身が何らかの病気を発症してしまったりとか、自殺にいってしまうような事例というのも私たちも経験していますし、そういう負の連鎖が起こってしまうと思います。
2019-03-18 21:09:53荻:また例えば街の声で「ショックだ」という言葉を使うことによって、「ああ、それだけのショックを与えるようなことをしたんだ」ということで、使用者・回復者を追い込むということになりますし、家族がそうした発言をする、身内がそういった発言をすることによって、
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