川上からどんぶらこっこと美少女メイドが流れてきて拾ったら一生つくしてくれる【中編】

長い。気にしないで。
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前回の話

まとめ 川上からどんぶらこっこと美少女メイドが流れてきて拾ったら一生つくしてくれる【前編】 今から衝撃の裏話するね。 実はこれ全部、ハッパとかキメず素面で書いてるんだ。 9030 pv 29

本編

帽子男 @alkali_acid

前回までのあらすじ。 仕立屋の孫ヤンは、川上からどんぶらこっこと流れてきた美少女メイドを拾い、リッカと名付けた。 リッカは命の恩人であるヤンに一生つくすという。 だがリッカは川に落ちる前、さる滅びた公爵家に仕えており、跡継ぎであるケレイドは浪々の身となってはいたが健在だった。

2019-04-15 21:34:47
帽子男 @alkali_acid

リッカはケレイドに再会し、亡き公爵夫人が託した公爵家再興の望みを伝えた。 ケレイドはその場では答えをはぐらかしたが、リッカを手元に置きたがるそぶりだ。 はたして未熟な徒弟の少年と、零落した貴族の男と、どちらが美少女メイドの主人になれるのか。 どんぶらこっこどんぶらこっこ。

2019-04-15 21:38:53
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 仕立屋の孫ヤンが、祖母サンドーラと暮らす“運河の町”は、名前の通り川から水路を引いているのだが、取入口になっている閘門のそばはいくつもの支流が合流して折れ曲がるあたりで、色々なものが漂着しきやすい場所にあった。

2019-04-15 21:44:07
帽子男 @alkali_acid

ものだけではない。人もだ。今は女中として仕えるようになったリッカが、半死半生で浮かんでいたのも町の近く。 屍としてたどりつきもすれば、ぴんしゃんして筏に乗ってたどりつくのも、中には腹に一物を隠し、丸太と木板の囲壁を超えて入り込もうとする無法の徒もいる。

2019-04-15 21:46:14
帽子男 @alkali_acid

材木商の座(ざ)が腕っ節の強い見廻りをそろえていて、たいていは追い払うが、中には手ごわい泥棒もいる。 このごろ、川上で暴れたあげく、領主であるナルコッホ侯爵の討手にかかって壊滅した川賊の残党がひとり、材木商の売上金をかすめようとした。

2019-04-15 21:48:25
帽子男 @alkali_acid

だが強盗はしくじり、暗夜に水路の上であかあかと燃える松明の囲みに遭った。かくしてお縄となり、一件落着かと思いきや。 やけっぱちになった泥棒は、金貨の入った革袋を短剣で裂いて、中身をばらまいたのだ。

2019-04-15 21:51:08
帽子男 @alkali_acid

結局、川賊の生き残りはさんざん棒打ちにあったあげく、はるばるやってきたナルコッホ侯爵家の代官の手に渡ったが。 いつもは肩で風切っている材木商の元締めも、被害にあって青ざめた。水底に消えた売上金は、雇人への支払いはもちろん、次の仕入れに当てる分も含んでいた。

2019-04-15 21:55:46
帽子男 @alkali_acid

ことがことだけに町にいる両替商の支店主もしぶい顔で、融通を利かせてくれそうにない。身代が傾きかねない。

2019-04-15 21:57:08
帽子男 @alkali_acid

元締めは右往左往したあげく、教会を訪れ、教誨室で司祭に苦衷を訴えた。 以前から息子達を手習いに行かせるなど縁があった。 「おお…司祭様わしはどうしたら」 「金をとりもどすしかあるまいが」 老僧はあまりありがたみのない回答をする。 「どうやって…」 「うちの寺男を使ってもよいぞ」

2019-04-15 21:59:34
帽子男 @alkali_acid

寺男というのは中肉中背でひげもじゃの、しかしまだ若い青年で、面倒ごとも無難にそつなく、ほどほどにこなす。よそものだが、以前は大きな商家につとめていたのか、いささか学があって、材木商の息子達や、それに仕立屋の孫ヤンの読み書き計数の先生役でもある。

2019-04-15 22:01:52
帽子男 @alkali_acid

「はあ。かいぼりでもしますか」 「できっこない!あれには人手も時間もかかる」 「はあ。それはなんとかなります」 「がめつい町の連中をそうそう駆り出せるものか。うちの雇人だけでは」 「はあ。肥え汲みはこうした仕事が得意です。すくった泥も肥えの種として引き取ってくれるでしょう」

2019-04-15 22:03:44
帽子男 @alkali_acid

「肥え汲みだと!市外の連中ではないか!百姓どもと変わらん!泥棒に金をくれてやるようなものだ」 「はあ。信用できる方々ですよ。うちのクレフの親は肥え汲みの頭です」 「クレフ?何度も言っただろう。ああいうのとうちの息子達を同じところで手習いさせるなんぞ」

2019-04-15 22:05:19
帽子男 @alkali_acid

寺男は黙って元締めを好きなだけわめかせてから、淡々と工程を説き聞かせた。 「これなら〆までに間に合うでしょう」 「うううむ…寺男さん。あんたは司祭さんの保証があるから、帳簿も少し見てもらってる」 「はあ」 「前の番頭のごまかしを教えてくれたのはありがたいと思う。だが…ことは金だ」

2019-04-15 22:07:28
帽子男 @alkali_acid

「はあ」 「わしの命より大事な」 「はあ」 「む…うむ…」 「ではクレフに頼んで、つなぎがついたら、水を抜く日を決めましょう」

2019-04-15 22:09:04
帽子男 @alkali_acid

水路のかいぼりは何年かに一度やるが大変に骨が折れ、町民はあまり好まない。だが病が生じるのを防ぐためにも、きちんとすべきだと教会から町会にたびたび話が出ていた。元締めの不幸に乗じてねじこんだともいえる。

2019-04-15 22:11:23
帽子男 @alkali_acid

そういう訳なのか、あらかじめ備えていたかのとく、は寺男の言葉通り、肥え汲み達はやってきた。男も女も、見慣れぬ道具をそろえて。 町民はよそものをうとんだが、老いた司祭はわざわざ出迎えて聖なる印を切り、思し召しと奉仕の尊さについて、驚くような朗々とした説教をした。

2019-04-15 22:13:17
帽子男 @alkali_acid

「どうもクレフのお父さん」 「息子が世話になっているな」 「はあ。こちらこそ。息子さんには色々教わって助かっていますよ」 肥え汲み頭と寺男のやりとりに、遠巻きに聞いていたクレフとヤンはひそひそと声をかわす。 「何かしてんの??」 「別に。寺男さんが訊いたこと答えるだけ」 「何?」

2019-04-15 22:15:27
帽子男 @alkali_acid

「取引してる荘園の作物のできとか、小作頭のご機嫌とか」 「せけんばなしじゃん」 「うん」 「へんなの」 「ところでヤンはどうするの?かいぼり」 「いっしょにやる!だってさ!だってさ!水路の底ってどうなってるのか知りたいもん!」 「汚いよ」 「俺、できるよ!クレフにできるんだから!」

2019-04-15 22:17:50
帽子男 @alkali_acid

仕立屋の親方である祖母サンドーラは当然孫が不潔な泥まみれになるのに渋い顔をしなかったが、男児のわがままが始まったら止められないのも承知していたので、ぴしゃりと机を叩いて小言を述べるのみだった。 「ヤン!お前が汚れた服で戸口をくぐったらそのまま洗濯屋の煮えた壺にたたきこむザマス!」

2019-04-15 22:20:08
帽子男 @alkali_acid

クレフからボロを借りて着替えたヤンはうきうきして木匙だの桶だのの道具を持って干上がった水路の底へ降り、手習い所の子供らがだいたいそろっているのに驚いた。 「なんで!」 「金貨はもって帰っちゃだめでも、別に銀貨ぐらいなら落ちてるかも」 「ナマズがとれるって」 「死体があるかも」

2019-04-15 22:22:23
帽子男 @alkali_acid

もっとも洗濯屋の娘だけは仕事場に残っていた。合戦も同然のありさまになると母が踏んだからだ。 さらに愕然としたのは、女中のリッカも肥え汲み女からボロを駆りて着替え、手伝いの準備をばんたんととのえていた。 「ぼっちゃま。お手伝いいたします」 「だめだよ!リッカは!」

2019-04-15 22:24:40
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