【Twitter小説】暁原書

巫女と、神官の少年の物語。 (そのうち続編を書く…かも……)
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23時の夢物語 @23novel

本当のことを語ろうと思う。事実ではなく、現実でもない、私にとっての本当を。真実があったとしても、これはあくまで夢物語。私を信じないで。嘘はつかなくても、あなたを騙すことはできる。耳を澄ますべきは「物」の語る言葉。私ではない。 #twnovel

2011-05-11 23:05:19
23時の夢物語 @23novel

何度も何度も、繰り返し、見る夢がある。炎と侵略。略奪寸前の家から逃げ出す夢。憎しみに満ちた兵がやって来る。泣きながら荷物をつめる。今すぐ駆けても生き残れない。いっそ隠れた方が…?わからない、わからない。目覚めた時はいつも、夢で死んで、今の自分になった気がする。 #twnovel

2011-05-11 23:11:37
23時の夢物語 @23novel

ぼろ船に乗って、茶色く濁った川を渡る。おびえた母が飛び降りて、元の岸に戻ろうとする。まわりの人に助けてもらって、なんとか引っ張り戻しても、不安に震えてずっとうずくまっている。わたしだって恐い。でももう戻れない。先に待つのが地獄でも、後ろにあるのは確実な死だもの。 #twnovel

2011-05-11 23:17:13
23時の夢物語 @23novel

たどり着いたのはみすぼらしい集落。人が住んでいる気配はあるのに広い道には誰もいない。静寂が痛い。しがみつく母を支えて歩いていると、突然、何者かに建物の影へ。頭を掴まれて、ぬかるみだらけの地面に押さえつけられる。うへぇ!っと顔を上げると、自分の死と目が合った。 #twnovel

2011-05-11 23:25:26
23時の夢物語 @23novel

見上げた先にいたのは、血で染まった牙をむき出しにした巨大な獣。ぬめぬめと光る瞳に宿るのはまきれもない憎悪で、それを見た瞬間、殺されると理性が言った。頭を押さつけてる人、助けてくれようとしてくれたのにごめん。白い毛並みがゆったり動く。ああ、これは、わたし死ぬわ。 #twnovel

2011-05-11 23:31:19
23時の夢物語 @23novel

不思議と心は澄んでいた。殺される不安を感じないことに、不安を感じるほど。それだけ獣の殺意は美しかった。なんて純粋な怒り。ねえ、なぜそんなに怒っているの?意識を、心を集中させる。共鳴しても濁らない。ああ、もっとよく見えるなら、私の命をあげてもいいよ。 #twnovel

2011-05-12 23:16:50
23時の夢物語 @23novel

すっと獣が視線をそらして、奇跡のような時間が消え去った。身軽に駆けていく優雅な巨体を、俊敏な犬たちが追っていく。犬たちの勇敢さを嫌がって、白い獣は見事な引き際で逃げてしまった。助かってほっとしていいはずなのに、残念だと思う自分が信じられない…。 #twnovel

2011-05-12 23:23:07
23時の夢物語 @23novel

現実がゆっくり戻ってきて、涼やかな鈴の音が耳に響いた。振り向くと、それは綺麗な美少女。黒々と長いまっすぐな髪に、赤い服がよく似合っている。言葉もなくひどく驚いていたが、結局その理由はわからなかった。彼女が助けようとしてくれた人だとわかった直後、意識が切れた。 #twnovel

2011-05-12 23:42:09
23時の夢物語 @23novel

593〜598【白い獣】2004年12月6日の夢。

2011-05-12 23:45:00
23時の夢物語 @23novel

鈴を響かせた少女に呼び止められた。お互いよく見知っているが、声をかけてくるのは珍しい。「あの子…決まったとか」肝心な部分をすべて省いて彼女は言った。そう、評定はただの確認作業。こうなる他ないとはわかっていても、やりきれなかった。無名の娘を血族に迎えるなど。 #twnovel

2011-05-13 23:09:24
23時の夢物語 @23novel

ただの戦災孤児なら同情もする。実際かわいそうだとも思う。だが家族になるというのは別の話だ。成人前の自分に何を言う権利もない。たとえ一族の醜く浅ましい計略を感じても。手を握りしめる。「俺には関係ない」できるだけ感情を込めずに言った。それが、今の俺の精一杯だった。 #twnovel

2011-05-13 23:11:19
23時の夢物語 @23novel

あたたかい闇の世界で遊んでいた。明かりのない、影に沈んだ場所で。ここにいるのは無邪気なものたちばかり。鋭い爪が見えたとしても、本当に怖いことは起こらない。影を捕え損ねる。ゆらりと背後で何かが逃げていく。くすくす笑いが響きあう。「鬼さん、こちら。手の鳴るほうへ…」 #twnovel

2011-05-13 23:15:24
23時の夢物語 @23novel

ざあっと空気が震えた。「隠れなきゃ、隠れなきゃ」「探しにくるよ。捕まってしまう」まるでそれが遊びの続きのように、みんないっせいに逃げていく。あわてて追いかけようとして立ち止まる。一体どこへ。何のため?ほんの一歩が遅れてしまうと、もうそこには誰もいない…。 #twnovel

2011-05-13 23:20:28
23時の夢物語 @23novel

闇に一人で立ちつくす。もう追っては行かれない。ここへ来るのが災いであれ幸運であれ、わたしはそれを迎えなければならない。魔物たちが避けていった何かを。逃げ出したい。逃げられない。虚空に向かっては走れない。ああ、暗闇の中、このまま永遠に一人きりだったらどうしよう。 #twnovel

2011-05-13 23:22:56
23時の夢物語 @23novel

遠く、争うような気配がする。甲高いみんなの悲鳴が聞こえる気がする。恐怖心が蘇る。身に染みついたあの重い冷たい感覚は、武器を持った人間の気配。訓練された動きで、みんなを効率よく追い立てていく。闇より無慈悲な消滅へ。ぞっとした瞬間、背後で葉ずれの音がした。 #twnovel

2011-05-14 23:02:07
23時の夢物語 @23novel

松明の炎に、白刃が光る。薮の向こう、大人でも子どもでもない軍装の少年が静かに驚いている。なぜだろう。恐くない。ゆっくりと礼儀正しく近付いて来る。澄んだ空気、穏やかな声。保護をする、と言っている。そっと自分に問うた。「この人のこと、どう思う?」心が答えた。「好き」 #twnovel

2011-05-14 23:08:11
23時の夢物語 @23novel

崖の上で、魔物たちが死んでいくのを眺めていた。もう仲良しの、みんなの元へは戻れない。隣に立つ端正な少年を見上げる。この人について死んでも、それはそれでいいや。黒い真っすぐな目がわたしを見た。差し出された手を握る。敵かもしれない、わたしを殺すかもしれない人の手を。 #twnovel

2011-05-14 23:11:51
23時の夢物語 @23novel

603〜608【鬼ごっこ】2005年3月24日、夢。

2011-05-14 23:12:43
23時の夢物語 @23novel

卑国の娘が逃げたと聞いた時、仲間連中は驚かなかった。厄介者がついに厄介事を引き起こしたなあと。捜索は国をあげて行われ、危険な黒森へは神士が遣わされた。当然、俺を含めた見習いも探索に加わったが、正直まさか自分が発見するとは思わなかった。避け続けていた、義理の妹を。 #twnovel

2011-05-14 23:17:50
23時の夢物語 @23novel

戦火に追われた哀れな娘。理屈だけで、すべてわかったつもりでいた。その甘い認識を松明が照らし出した。やせ衰えた小さな体に、瞳だけがギラギラと異様な力強さで輝いている。焼けてしまったのだろう、不揃いに短い髪は、雪のように真っ白だった…。 #twnovel

2011-05-14 23:28:06
23時の夢物語 @23novel

透明な目がじっと俺を見ていた。野生動物の厳しさで、心臓を取り出され、検分されている気分だ。このまま握りつぶされるか、信頼か、自分の運命の天秤が揺れている。ほんの10歳ほどの小娘に自分の存在が試されていた。これが本物の巫子。神と、渡り合った娘…。 #twnovel

2011-05-15 23:08:25
23時の夢物語 @23novel

震えながら条件反射に立ち向かおうとする刀を、無理矢理に手放した。冷たい金属音が響いて消える。歯向かえば命が危ないのは俺自身。こんなに武器が無力とは。師範の教えが胸に迫る。心がすべて。神の前にそれ以外の強さは通じない。必死に息を整える。せめて無様にはなりたくない。 #twnovel

2011-05-15 23:14:51
23時の夢物語 @23novel

最高礼の神式を思い出し、ガチガチに凝り固まった体に鞭打って、それを執り行った。文字通り命懸けの真剣さで敵意が無いことを弁明したが、松明に揺らめく瞳は動かない。絶望的な状況で、唐突にある考えが閃いた。これは異国の娘。言葉が通じていないのだ。 #twnovel

2011-05-15 23:31:38
23時の夢物語 @23novel

敵国の言葉は禁忌。災いをもたらすと、口に出すことすら許されない。知るだけで厳罰の技を身につけていたのは、長となるべき者が引き受ける暗黒の教えの一つだったからだ。一瞬で覚悟を決めて、守るとか助けるとか子供のようにわめきたてた。泣けてくるほど下手な発音で。 #twnovel

2011-05-15 23:40:15
23時の夢物語 @23novel

真剣な緊張が情けなく崩れた時、ふっと小さな娘が微笑んだ。花のようにくすくすと声を立てて。呆気にとられて見ていると、急に崩れるように座り込んだ。笑い声が次第に嗚咽に変わっていく。死にそうなほど不安だったのは彼女の方だったのだと、その時はじめて気が付いた。 #twnovel

2011-05-15 23:44:55