鳥籠に入った少年がかわいいけど衰弱していく話

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帽子男 @alkali_acid

逞しい夫と共に異国で暮らすおねが昔飼っていたショタを捨ててきた事を気に病んで、ショタを連れてきて異国の棲家の衣装部屋の奥の鳥籠に隠して飼うんだけど虚弱なショタには空気が合わなくて衰弱していく話 odaibako.net/detail/request… #odaibako_alkali_acid

2019-05-05 12:51:41
帽子男 @alkali_acid

鳥籠に入った少年。 かわゆ。かわゆ。

2019-05-05 12:55:23
帽子男 @alkali_acid

空気が合わなくて衰弱してるのかわゆ。 ゆ。ゆ。

2019-05-05 12:56:01
帽子男 @alkali_acid

「かわいそうな私の鴆羽。空気が合わないのね」 蛇苺は鳥籠の童児を格子ごしにそっと撫でるしぐさをする。 「でもお前を外に出したらすぐに旦那様の家来に見つかって命が危ないの。だからここにいてね」 黒い翼がだいぶ傷んだ子供はもう自慢の喉から声も出せず、ただ鉤爪を鳴らすだけ。

2019-05-05 13:04:05
帽子男 @alkali_acid

奥方は長い睫をしばたかせてから、そっとそばを離れる。 涼やかな翠玉の鈴の響きがあまた重なって、衣擦れの音と相和す。流れる黒髪にも、ふっくらした耳朶にも、形の良い鼻にも艶やかな唇にも、豊かな両胸の先にも、羚羊に似た両腿の間にも、小さな楽の器がついている。

2019-05-05 13:08:57
帽子男 @alkali_acid

やはり翠玉の輪を連ねた細鎖がそれぞれをつないでいる。 動くたびに清気を発して、汚気を払い、正覚をもたらす。 故郷を離れ聖域に輿入れしたばかりの頃は迷いと妄(みだり)ばかりだった蛇苺も、四六時中聞き入るうちに、悪女から良妻へと変わりつつあった。 だが。

2019-05-05 13:16:29
帽子男 @alkali_acid

鴆羽にはあまり合わぬようだった。 鈴が聞こえるたびに身を縮め、清気から遠ざかるように鳥籠の反対側にしがみつき、なつかしい飼い主がすっかり以前と異なるたたずまいになったのがまだ腑に落ちぬというようす。

2019-05-05 13:21:08
帽子男 @alkali_acid

響き合う玉の楽器がもたらす法悦に、思考のまとまりを欠きながら、蛇苺はしかし無作法にへたりこまぬよう気だけは使って、慎重に歩を進めた。 横を婢(はしため)が二人、同じよう静々と通りがかり、第三夫人でに対してうやうやしく挨拶する。

2019-05-05 13:27:06
帽子男 @alkali_acid

どちらも若い娘だが、すっかり聖域になじんで鱗も牙も爪もとれた蛇苺に比べると、まだ獣の縞毛がうなじのあたりに生えていて、汚気の名残がある。第四夫人の虎橡(とらつるばみ)の側仕えだろう。 「蛇苺様ごきげんよう」 「ごきげんよう…まもなく凝心の時間ですよ」 「は、はい…」

2019-05-05 13:32:39
帽子男 @alkali_acid

婢の片方は頬染めて目を伏せ、もう片方はどこか挑むように合図の鈴が鳴るはずの方角を見やる。だがどちらもまだ聖域の習いに十分熟れてはいない。 嫁いだばかりを思い出して蛇苺は少し微笑ましかった。 まだ鱗が肌のあちこちに張りつき、矛を手に持てぬのが落ち着かなかった頃。

2019-05-05 13:35:44
帽子男 @alkali_acid

「今日はきっと虎橡様が合図の鈴を」 言いかけたところで激しく乱れた音が皆を打ちのめす。 刻限より少し早い。第四夫人はまだ役目に慣れない。 蛇苺はあえぎとともに足をもつれさせ、どうにか平伏すると、腰を少しもたげ、三つ指をそろえ、額を絨毯にこすりつけ、法悦の連続に肩をわななかす。

2019-05-05 13:38:36
帽子男 @alkali_acid

縞毛の娘等が情けない鳴き声を発して崩れ落ちる。 婢のたまわる鈴の数はわずかで、せいぜいが方耳に一つというところだが、そばにあまたの鈴をつけた第三夫人がいるせいで共鳴が大きいのだ。

2019-05-05 13:40:02
帽子男 @alkali_acid

あたりに清気の満ち満ちる恍惚に我を忘れそうになりながら、蛇苺は夫である広聞天(こうもんてん)への貞節の誦句と、至尊である玉上皇への忠義の誦句をそれぞれ口にする。

2019-05-05 13:43:13
帽子男 @alkali_acid

だが聖域への限りない信伏の歓びに陶然としながらも、意識の隅ではなお鴆羽ははたして無事でいるだろうかとつい慮るのをやめられないでいた。

2019-05-05 13:45:11
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 凝心のあと、第四夫人の虎橡は、胡坐をかいた広聞天に腰をおろし、息を弾ませ、豊かな乳房を上下させていた。まだ鈴の音がささめくように響いている。 玉のような汗を掻いた肌は滑らかで、もはや汚気をまとっていたころの毛深さはどこにもない。

2019-05-05 13:52:31
帽子男 @alkali_acid

腹は子を宿したように丸いが、懐妊はまだで、かわりに翠玉の井から汲み、鈴の音をよく聞かせた浄水を注いである。体の内から汚気を払うためだ。 そばでは珍しく第一夫人の狗橘(いぬたちばな)と第二夫人の鰐柏(わにがしわ)がはべっている。いずれも浄水ではなく真の羊水と嬰児を抱えた太い胴。

2019-05-05 13:56:28
帽子男 @alkali_acid

聖域では孕んで産むまでは外界より長くかかり、新たな天人が世にあらわれるまで百年を待つ場合もあるが、しかし奥方は身重のあいだ、五識が敏くなり、鈴なくとも風がそよぐだけで法悦に達するほどになる。

2019-05-05 14:00:15
帽子男 @alkali_acid

狗橘と鰐柏もすでにうっとりと腹を撫でては時々気をやり、また鈴に揺り起こされる繰り返しで、翠玉がぶつかり合うのにも似た可憐な声をこぼすばかり。 もはや言葉の態をなさぬ境地だが、夫への貞節と皇への忠義を唱えているのだ。

2019-05-05 14:02:46
帽子男 @alkali_acid

かつて汚気にまみれ万軍を率いた蛮将の面影はない。いまだ迷妄を抜けきらず、浄水の助けを借りる虎橡もいずれ同じ正覚を得るはずだった。 蛇苺はうらやましげに目上、目下それぞれの女等を見やってから、つつましやかに平伏する。

2019-05-05 14:05:23
帽子男 @alkali_acid

身に着けた鈴が鳴り、法悦が四肢を伝い体の芯を貫き、はしたない声を抑えるのに苦労する。 「蛇苺よ。汚気の残り香があるぞ」 筋骨隆々たる偉丈夫は磊落に第三夫人に話しかけながら、抱いている第四夫人をゆるやかに揺すり、さらなる歓びに引き上げる。

2019-05-05 14:12:04
帽子男 @alkali_acid

虎橡がのけぞり、むせび泣くように発した言葉なき感謝に、ほかの奥方はそろって熱い吐息をこぼした。 だが蛇苺は答えを返すべく、鈴の音に身を任せたくなる心をつなぎとめる。 「いまだ旧悪をぬぐいきれず、おはずかしゅうございます」 「よい。最も迷い妄りあるものこそ、最もよく悟るという」

2019-05-05 14:15:06
帽子男 @alkali_acid

広聞天は莞爾とした。 「のちほど浄水を遣わそう。ときに蛇苺よ。せんだっての膺懲(ちょうよう)の軍のこと」 「はい」 「蛇族はそなたの正覚をもって等しく玉上皇の赤子となったが、眷属にいまだまつろわず、聖域に汚気をたなびかさんとした一統があったな」 「おっしゃる通りです」

2019-05-05 14:19:29
帽子男 @alkali_acid

「鴆族は蛇族と鵬族のあいだより出て、もっぱら蛇族に仕え、鴆族の長の血筋はそろって蛇族の長のもとで子飼いの将となるとか」 「はい。確かに」 「すべてそなたが我がもとへ来て奉じたくさぐさであるが…いまだ迷妄にとらわれ、鈴を授けてもまだ激しく暴れていた頃ゆえ、憶えておらぬやもしれぬな」

2019-05-05 14:24:34
帽子男 @alkali_acid

旧悪のふるまいをつまびらかに教わって、蛇苺は含羞にいっそう深く額づく。 だが広聞天は呵々と笑って、破邪の斧鉞を握るのに慣れた太く長い指でもって虎橡の胸と腹に力強く功徳を施すと、慟哭にも似た陶酔のむせびを引き出す。 「すぎたこと。ことの肝要は、鴆族のふるまい」

2019-05-05 14:34:07