1
サキイカ @sakiika_rinrin
17歳の誕生日に届いた贈り物が私の人生を変えた。 「機械人形って知ってるだろ?」 珈琲を啜りながらダヴィンチちゃんが話し出す。うん、と頷きながら私の視線は傍らに置かれた巨大な箱の中身に注がれていた。クッション材を敷かれた底で身体を折り畳むようにして横たわるピンクの髪の青年。
サキイカ @sakiika_rinrin
ただ眠っているように見えるが、息はしていない。身体は冷たいが皮膚は柔らかく、死んでいるわけでもない。 「こいつはその一体だね。調べたところずいぶんと古い型だった。大量生産に失敗した、いまや幻なんて呼ばれてるNo.0ソロモンの後継機にあたるみたいだ」
サキイカ @sakiika_rinrin
なるほど、と頷きながら首を傾げる。機械人形は中古でも高価な品で私みたいに身寄りのない苦学生が買えるものではない。誰かに頼んだ覚えもないし、それがどうして贈られてきたんだろうか。 「送り主は分からないんだよね?」 「うん。市内からの差出だってことは分かったけどあとは手がかりもなくて」
サキイカ @sakiika_rinrin
「そうか。まあツテもない学生じゃそこまでしか分からないだろう。それで、こいつはどうする気なんだい?」 「どうする気って言われても……私じゃ機械人形なんてもて余すし、出来れば送り返したいけど」 送り主が分からなければ返品なんて出来るはずもない。途方に暮れて溜息を吐き出すと、
サキイカ @sakiika_rinrin
ダヴィンチちゃんがからからと笑った。 ……他人事だと思って。むっと唇を尖らせたのに気がついてるだろうに気にした様子もなく、ダヴィンチちゃんは椅子から立ち上がると箱の前で屈んだ。 つんつん、と興味深そうに青年の頬をつついている。 「ダヴィンチちゃん、起きちゃうよ」
サキイカ @sakiika_rinrin
「言ったろう?こいつは機械人形。この程度で起動するはずがない。彼を目覚めさせるなら電源を入れなくてはね」 家電と一緒さ、と笑うダヴィンチちゃんにそんなものなのか、と思いながらもなんとなく落ち着かない気分になる。何度見ても箱の中の彼は私たちとなんら変わらないように見えた。
サキイカ @sakiika_rinrin
白い肌にピンクの長い髪の毛はふわふわとしていて、折り畳まれた長い足は窮屈そうだ。瞳を閉じた端正な顔はただ眠っているようにしか見えない。 「返品のしようがない以上、これは立香ちゃんの好きにしたらいい。持て余すなら売ればいいし、使えるなら使えばいいのさ」 「……なんか可哀想」
サキイカ @sakiika_rinrin
「機械人形はちょっと高価な家電。それだけだよ」 そう言ってダヴィンチちゃんは立ち上がった。はいこれ、と箱の中に一緒に入っていた取扱説明書を渡される。 「読めばわかることだが、この機械人形は通称ロマン。保証期限は過ぎているようだし、
サキイカ @sakiika_rinrin
古い型だから故障しても部品の取替がもう出来ないかもしれないね。ある意味貴重ともいえるから、使うときはそれなりに慎重な操作をおすすめするよ」 「はあい」 受け取った説明書のページをぱらぱらとめくりながら返事をするとダヴィンチちゃんがふぅと呆れたように溜息を吐いた。
サキイカ @sakiika_rinrin
「まあ送り主が分からないこんな贈り物、キミも困るだろうが盗聴機や発信機もついていないしとりあえず安全性は確立された。またなにかあったら相談したまえ」 それじゃあね、と言ってダヴィンチちゃんは鞄を拾う。 「もう帰るの?」 「ああ、予定があってね。慌ただしくてすまない」
サキイカ @sakiika_rinrin
「ううん、来てくれてありがとう」 すこし寂しいが忙しい人だから仕方ない。玄関まで見送ってひらひらと手を振ると美しい顔がにこりと笑ってくれた。 閉まったドアに鍵をかけると、急に静かになった気がして余計にそわそわしてしまう。静寂には慣れているはずなのになあと思いながら部屋に引き返した。
サキイカ @sakiika_rinrin
それほど広くない部屋の真ん中に置かれた巨大な箱はやはり圧迫感がある。近寄ってみてしばらく端正な寝顔を眺めてみたが、今後どうすればいいのか妙案は浮かばない。 売るのも気が引けるし、使う用途はない。途方に暮れて説明書をぱらぱら捲ると、起動方法が載っていた。 「……キスぅ?」
サキイカ @sakiika_rinrin
ふむふむと読み込んでみたが、どう読み返してもそれ以外なかった。というか、一番マシな起動方法がそれだった。難しい原理はよく分からないが、機械人形は使用者との粘膜摂取で目覚めるらしい。なんで無駄にロマンチック路線なの?と混乱しながら端正な顔をじっと見た。
サキイカ @sakiika_rinrin
……機械人形は家電。家電なら、ファーストキスを失ったことにはならないだろう。固く閉ざされたまぶたの下の目の色が気になった。彼はどんな風に喋って動いて笑うのだろうか。 好奇心が抑えられなくて、ドキドキしながら近づく。相手は人形だというのに気恥ずかしくて目をつぶって唇に触れた。
サキイカ @sakiika_rinrin
ふにゃりと柔らかい感触を唇に覚えてすぐに離れる。 変化は一目瞭然だった。ふぅと息を吸い込むような動作をして口がうすく開いたかと思うと、胸が上下しだす。まるで眠りから目覚めた童話の中のプリンセスのようだった。白い頬に血の気が通い、伏せていた睫毛が震えて持ち上がる。緑の瞳が私を見た。
サキイカ @sakiika_rinrin
視線があった、と思った瞬間、彼は優しく微笑んで身体を起こした。 「はじめまして、マスター。僕はロマニ・アーキマン。貴女の名前を聞いてもいいかな?」 これが17歳の誕生日に起きたこと。私の大切な、機械人形との出会い。
サキイカ @sakiika_rinrin
機械人形パロの補足でもないけど、ぐだちゃんのお家は1Kの普通のアパートなのでこの二人はシングルのベッドですったもんだの末抱き合って眠るし、夏の暑い夜はひんやりしたロマニの肌が気持ちよくてぐだちゃんの素足が絡んでくるから睡眠の必要がない家電くんはオーバーヒートしないよう必死になる
サキイカ @sakiika_rinrin
エンディングまで考えてみたけど、ぐだちゃんの18歳の誕生日にロマニは「お誕生日おめでとう」と笑って経年劣化が理由で壊れてしまうパターン(ロマニの記録や動作が徐々に誤作動を起こすことが多くなり、技師にみてもらったが型が古く修理出来ないと断られてしまう)と、
サキイカ @sakiika_rinrin
数十年の時が経ち、眠りにつこうとするぐだちゃんの深く皺が刻まれた手を握りながら「眠たいのかい? いいよ、おやすみ。良い夢を」と変わらない優しい声で看取ってくれる壊れかけのロマニのパターンのどっちも思いついたけど悩ましいね
サキイカ @sakiika_rinrin
再現された神殿の中で消えゆくロマニをもう一度見なければならないぐだちゃんとかが存在する可能性あるじゃん??これは再現された記憶に過ぎないって自分に言い聞かせて、あの時は涙で霞んでしまった光に溶ける彼をじっと見つめるぐだちゃんに彼は笑って「強くなったね」なんて記憶にないことを言うの
サキイカ @sakiika_rinrin
(ロマぐだ♀) いつからか、美しい花に囲まれると息苦しさを覚えた。 「綺麗ですね、先輩!」 そう言って無邪気に笑う彼女と同じ言葉を口に出来なくて、曖昧に笑って頷く。 綺麗も、可愛いも、美しいも、どれも言えなくなって久しい。
サキイカ @sakiika_rinrin
喉奥に塞き止められた言葉たちが暴れていても、扉を開ける鍵を持たない私にはどうしようもなかった。 やがて言葉たちが血を流し、鮮やかだった色が濁って腐り落ちるのを長い間見ていた。次に失う言葉はなんだろうと、それだけを恐れて。
サキイカ @sakiika_rinrin
美味しいが言えなくなった。嬉しいが言えなくなった。好きが言えなくなった。 私はどこかおかしいのかもしれない。だけどおかしい私以外にこの世界を救える人はいなかった。 こうなる前からずっと指先が痛む。
サキイカ @sakiika_rinrin
それは罪の意識だと、誰かから哀れむように言われたけれど、針のように尖ったものがじくじくと絶えず指先を刺激していた。 救いを求めて祈ろうにも、誰に捧げればいいのか分からない。 白い世界には誰も、何も、いなかった。
サキイカ @sakiika_rinrin
「立香ちゃん」 どうやら私は本格的におかしくなったらしい。 そんなことを思えたのはごくわずかな時間だった。 袖を引かれた感触に振り返ると、藤色の瞳にいっぱいの涙を堪えたマシュが私を見ている。 「先輩、ドクターが帰ってきたんです。ドクターが、あなたを呼んでいるんですよ」
残りを読む(20)

コメント

コメントがまだありません。感想を最初に伝えてみませんか?

ログインして広告を非表示にする
ログインして広告を非表示にする