エンター・ザ・ランド・オブ・ニンジャ #5

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「予告通りですね」「ああ」彼らは今朝、村の塔に撃ち込まれた矢に括られたオリガミメールによって、ヴォルケイノーの到来を知らされていた。全身全霊でセッタイし、連絡を絶ったヘヴィフィードに関して情報を提供せよとの命令だ。セッタイ。然り。コトブキは大急ぎでなされた宴準備を見る。 25

2019-06-21 23:29:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

モミジに囲まれた広場。テーブルは布で覆われ、そこに重箱が置かれている。重箱の中にはスシが満載。そして米俵。さらには酒樽。樽には「ご歓迎な」のショドーが奥ゆかしい。コトブキはそれらと同様に陳列された状態である。耳を澄ますと、ガサガサと茂みで音がする。村人が配置につく音だ。 26

2019-06-21 23:32:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フェー!フェエエー!強調するように笙の音!アイサツ役の村人がごくりと唾を呑んだ。ドォン!ドオオン!その時、不可解な音が聞こえた。笙の音も止んだ。その音をはかりかねるうちに、案内役の村人に率いられた一団が、姿を現した。 27

2019-06-21 23:35:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エッホ!エッホ!」白い装束のゲニントルーパーが六人。掛け声とともに、ミコシを担いできた。ミコシのシュラインは異様なアトモスフィアを放っている。中に誰かいるのだ。誰かとは、想像するまでもなく、ヴォルケイノーである。「到着でごぜえます!」案内役の村人が振り返り、オジギした。 28

2019-06-21 23:37:17
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フェ、フェー!しんがりの笙奏者が最後のフレーズを吹くと、ミコシは地面に降ろされた。「……」シュラインの扉が開き、中から一人のニンジャが現れ、立ち上がった。3メートル近い巨躯。溶岩じみた皮膚は赤熱しており、目は赤く光り、鋼のメンポから呼気が漏れる。終わりだ。誰かが思った。 29

2019-06-21 23:41:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ようこそおいでくださいました……」「イヤーッ!」「アバーッ!」ニンジャがアイサツ役の村人の頭を掴み、地面に叩きつけて殺すまで、2秒。さらに一番近くにいたゲニントルーパーの頭を掴み、地面に叩きつけて殺すまで、もう2秒。その場が静まり返った。悲鳴すら上げられぬ。不条理だ。 30

2019-06-21 23:43:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒッ……」「アイエッ……!?」村人ばかりではない。ゲニントルーパー達も恐怖に身を竦ませた。ニンジャはその場で顔を覆い、慟哭した。「ヘヴィフィード……愛するわが弟よ……」「どうされましたヴォルケイノー=サ……」「イヤーッ!」「アバーッ!」ゲニントルーパーさらに死! 31

2019-06-21 23:45:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あ……愛する弟を弔うには……これでは足りぬ……」ニンジャはブツブツと呟いた。「わかるのだ……俺にはわかる。理屈ではない。弟は既にこの世におらぬ。それを感じる……」燃える涙とともに、彼は村人達を睨みつけた。そして、にっこりと目を細め、オジギした。「ドーモ。ヴォルケイノーです」 32

2019-06-21 23:48:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア、ア、アッ……」村人たちは後ずさりしかかるが、シツレイになるので耐えた。そしてオジギで応えた。「アリガトゴザイマス。ドーモ、ヴォルケイノー=サン。歓待いたします……」「矢文は見たな?」「アッハイ!弟様の事で……」「そうだ……無惨にも殺されたとしか思えんのだ。何か知らないか」33

2019-06-21 23:51:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトブキはオイランドロイドの無表情を維持し、ひそかに歯を食いしばった。キアイだ。これは既にイクサである。コトブキも、村人も、覚悟のうえでコトにあたっている。今死んだ者達は戦死だ。心を乱せば、犠牲が無駄になる。「カ……カラテクマです」進み出たのはジェイソン翁だった。 34

2019-06-21 23:55:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カラテビーストが村を襲いました。特別大きいクマです。ワシら、見たことがないほどの獣でした。村人の多くが殺され、このままではネングできる人数もいなくなろうかという時、弟様の勇敢な一団が駆け付けなすったのでございます」「フム……!」ヴォルケイノーの目が光った。 35

2019-06-21 23:57:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワシら、ヘヴィフィード=サンのおかげで、こうしてなんとか……貴方様に情報をお伝えし、旅の疲れを取っていただくご歓待ができたのでございます……!」ジェイソンはコトブキ暴走説をアドリブで取り下げた。ミコシから降りたヴォルケイノーの暴力があまりに危険だった為だ。 36

2019-06-22 00:00:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「愛する弟よ……ウ、ウッ、ウ」ヴォルケイノーは涙ぐんだ。「……しかし……奴はニンジャだ。俺が見込んだ戦士だ。共に多くの苦難を乗り越え、同じオイランを抱いてきた。そんな弟が、カラテクマに後れを取るだろうか……?」「そ……それなのです」ジェイソンは頷いた。 37

2019-06-22 00:03:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「極めて大きいカラテクマでした……とてもワシらでは歯が立たず、ゲニンの皆さんも次々に倒されました。ですがヘヴィフィード=サンは素晴らしい斧を振るい、カラテクマを追い詰めました。クマは逃げました!それをヘヴィフィード=サンは、追いなすったんで!」「……そして?そしてどうした」 38

2019-06-22 00:06:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あっちです!」若いジョナスが森の奥を指さした。「そ、そして……戻ってこられなかったんで……!何か、よくない事があったんじゃないかと、ワシら心配で……」「なんという事だ……」ヴォルケイノーの目が怒りに染まってゆく。「クマに殺される筈はない。何かが、あったのだ!」 39

2019-06-22 00:08:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうに違いありません!」「貴様らは何故、愛する弟を探しにゆかない」「……え?」「何故だ」ヴォルケイノーがジョナスに向かって一歩、二歩、踏み出した。「アイ……アイエ……」「アカチャン……ステキネ」不意に、コトブキが声を発した。村人たちは振り向いた。ヴォルケイノーは動きを止めた。40

2019-06-22 00:11:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アカチャン……オッキクネ」コトブキは身をくねらせ、魅惑的な仕草で手招きする。ゲニン達はごくりと唾を呑んだ。「オイランドロイドがいるじゃねえか……たまらねえッスね、ヴォルケイノー=サン」「イヤーッ!」「アバーッ!」ヴォルケイノーの拳!死!「貴様の為のものではないわ!」41

2019-06-22 00:14:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フゥーム……フゥーム、オイランドロイド」ヴォルケイノーはひくひくと鼻を鳴らした。「よい匂いがするな。そして……なんだ?ン?これは……」「メイプル・サケです」ジェイソンが説明した。「一番新鮮な搾り汁で……特別なものでして。弟様に飲んでいただきたかった……」涙を拭う。 42

2019-06-22 00:17:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ほう……一番新鮮な……」特級品はタイクーンに上納される。ヴォルケイノーは興味をひかれた。「そこのオイランドロイドは一体何だ」「へえ、クマ騒動の後に、村に現れた、はぐれドロイドなんです」ジェイソンは言った。「セッタイ・プロトコルを起動すれば、なにか情報が出るやも……」 43

2019-06-22 00:20:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お疲れドスエ?」コトブキは首を傾げて微笑んだ。「英気を養って行かれてはアリンス?」「ほう。なかなかこなれたAIを持っておる。上物だぞ、これは」ヴォルケイノーは笑顔になった。「そ……そうなんですか!?」ジェイソンは食いついて見せた。「ワシら、これほどのものは見た事無くて……!」 44

2019-06-22 00:22:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハッハハハ!知らんのも無理はない。インターネットすら許されぬ貴様ら下賤の者どもには到底わからん世界があるのだ」「ヘヘーッ!」ジェイソンはドゲザした。「どうか色々勉強させてくだせえ!」「どうれ、まずはひとつ!」ヴォルケイノーは敷物にアグラした。「サケを注げ、オイランドロイド!」45

2019-06-22 00:25:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドォン!再び、奇妙な破裂音が聞こえた。「……?」ヴォルケイノーは怪訝にした。村人達は緊迫した。彼らにもわからぬのだ。「ドーゾドスエ」コトブキはサケを注いだ。ドレスの袖を手繰り、白い腕を垣間見せた。「確かめろ」ゲニントルーパー一人に命じ、彼はサケに集中した。 46

2019-06-22 00:29:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンー……これは確かに……」香りを楽しみ、そして琥珀色の液体を口に含む。「蕩けるような舌ざわりよ……!成る程……!」「素敵アリンス」コトブキはヴォルケイノーの腕に身体を押しつけた。ドレスがブスブスと焦げはじめたが、限界まで我慢した。「ンンー。いいサケだ……確かにな!」 47

2019-06-22 00:31:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これにマツタケのスシが合うのです、なあ?」ジェイソンがジョナスに水を向けた。ジョナスは繰り返し頷いた。「そうです!俺ら、めったに食べる機会が無いんですが、今日はスシが作れました!」「何……?マツタケだと?」ヴォルケイノーは興味を示した。 48

2019-06-22 00:34:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェイソンは急いで重箱を取り、蓋を開いてみせた。「ど……どうですか。タケノコ、マツタケ、ネギのスシもあります。それからシカの肉です!」「チッ」ヴォルケイノーは舌打ちした。「野菜ばかりではないか。サーモンはないのか?」「サーモン……!」「山猿どもめが。海の幸がない!食欲が失せる」49

2019-06-22 00:36:40