エンター・ザ・ランド・オブ・ニンジャ #5

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハンニャアアアアア!」天を裂く咆哮を放ち、邪悪な龍はホンマルの展望階に帰還した。「イヤーッ!」龍の背から赤い手すりを越えて回転着地したニンジャを、第四寵姫のミズマルが待っていた。「おかえりなさいませ、偉大なるタイクーン」「タダイマ」ドゲザする姫に一瞥もくれず、王は城内へ。 1

2019-06-21 22:04:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ミズマルはタイクーンの11人の寵姫の中でも特に気に入りの一人である。それであっても、彼は微笑み一つ与える事はない。彼の黒金甲冑には凄まじいニンジャアトモスフィアがまとわりつき、四本の腕は恐るべきカラテを漂わせている。彼はかつては二本腕であった。もう二本はオダ・ニンジャの腕だ。 2

2019-06-21 22:08:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タイクーン。その真の名を、アケチ・ニンジャ。彼は平安時代を終わらせた「江戸戦争」において、主君オダ・ニンジャをムーホンによって葬り、肉体を奪い、融合を果たした。オダのソウルはキンカク・テンプルに逃れ、彼の野望は未遂に終わったが、覇王と呼ばれるにふさわしいカラテが備わったのだ。 3

2019-06-21 22:14:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

朱塗りの階段を降りると、巨大ブッダデーモン像の間である。そこには沙汰を待たせたサラリマンが震えながら正座していた。口には木の猿轡が噛まされ、傍らにはアケチ・シテンノの一人が立つ。クロームのキツネ・メンポを装着し、何らかの魔的な鎖をまとったニンジャだ。彼の名はインヴェイン。 4

2019-06-21 22:19:35
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アケチ・ニンジャのネザーキョウには様々な戦士が集まる。……集められてくる。食い詰めた傭兵、チンピラ、IRC経由で桃源郷の噂を信じてやってきた無軌道な若者、放浪の強力なニンジャ。彼らはアケチの印「コクダカ」を与えられ、邪悪なるカラテの尖兵となる。その中でもシテンノは最強の一角だ。 5

2019-06-21 22:23:44
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インヴェインはタイクーンよりも旧いニンジャである。だが、ネザーオヒガンの苦悶に満ちた雌伏の時を経て現世に帰還したタイクーンは、神話的な剣のタツジンである彼をねじ伏せ、コクダカで縛りつけ、腹心の一人とした。主君を見るインヴェインの眼差しは虚無的である。 6

2019-06-21 22:27:29
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「そうか、その愚か者の処断がまだであったな」タイクーンは祭壇の髑髏の杯を掴み、第七寵姫レネが注いだサケを呑み干す。オダ・ニンジャの髑髏である。そして彼は血走った目でサラリマンを見る。サラリマンは小刻みに震え続けている。もちろん、恐怖ゆえにだ。 7

2019-06-21 22:31:55
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「今一度御慈悲とご理解を……!」サラリマンは上ずった声をあげた。カタナ社の社章がむなしい。「へ、弊社のイノベーションはネザーキョウに革新をもたらす事は間違いなく……効率が200%増えます!」「200%?……二倍だと?」タイクーンが眉間に皺寄せる。 8

2019-06-21 22:34:39
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「ハ、ハイ、左様にございます」「くだらねえ」フスマを開いてエントリーした大柄な女のニンジャが、虫でも見るような冷酷な目でサラリマンを睨んだ。「ネクタイを締めてる奴にカラテの何がわかるンだ?ア?」アケチ・シテンノの一人、ヘヴンリイだ。耳の上に生えた角がアーク放電している。 9

2019-06-21 22:40:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カ……カ……カラテではございません!インフラでございまして」「……インフラだと?」タイクーンがぴくりと反応した。「胡散臭えんだよ」ヘヴンリイは拳を固め、ミシミシと鳴らした。「ダマラッシェー!」タイクーンが一喝すると、ヘヴンリイは素直に一歩下がった。「申せ。インフラについて」 10

2019-06-21 22:44:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「つ、つまりですね……ネザーキョウは素晴らしいモミジ・メイプル経済で潤沢な……その……資源がございまして、クラウドストレージを利用する事で、非常に、その、栽培の効率を上昇させる事ができるのでございます……」「クラウドストレージ?胡乱な……さてはインターネットだな」 11

2019-06-21 22:46:20
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「さ、左様でございます」サラリマンは勢い込んだ。広間に漂う殺気を訝しみながら。「UNIXサーバを各地に増設し、以て……」「惰弱」「アイエッ?」「愚民をインターネットに触れさせる気か、貴様」「エ……その……イノベーションがですね……」「インターネットは麻薬だ。堕落の源なり……」 12

2019-06-21 22:51:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「しかしですね……」「私に口答えするか、たわけ者」「アイエエエ!」サラリマンは失禁!彼は若く、意気軒高で、イノベーションを武器にこのネザーキョウへ入り込み、そして捕らえられた。彼は考えが浅かった。かつてこの地にはネットもUNIXもあった。それをタイクーンは敢えて破壊し尽くしたのだ。13

2019-06-21 22:55:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ですが、良い事しかなく、WIN-WINなのです!」「聞き飽きたわ!」一喝!「そういうくだらんものは禁止だ!民を弱くするばかりだ!出直すがいい!」「アイエエエエ!」サラリマンはドゲザした。「出直しま、」「ジゴクでな!」タイクーンはタタミに踵を叩きつけた。サラリマンのタタミが回転した。14

2019-06-21 22:59:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエッ……」サラリマンは下階に落下した。下もまた広間であったが、東西南北に大窓が開かれている。サラリマンが震えていると、北方向、ぬう、と巨大な影が覗き込んだ。「アイエッ……」おお……ナムサン……それは鱗の表面をブスブスと沸騰させる黒紫の大蛇……否……龍であった。 15

2019-06-21 23:01:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

龍は濁った目でサラリマンを見た。嘲笑のニュアンスをサラリマンは感じ取った。そして気づいた。広間は黒焦げだ。「やれい!オオカゲ!」上からタイクーンの声が聞こえた。龍は吼えた!「ハンニャアアアアアア!」鼓膜が破裂!そして、「シャギャーッ!」黒紫の炎が、噴きつけられた! 16

2019-06-21 23:03:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サラリマンは炎に呑まれ、悲鳴すら上げられぬままに融解し、広間の染みとなり果てた!ナムアミダブツ!ネザーキョウの地に常識は通用しない!彼は命と引き換えにそれを知ったのである……! 17

2019-06-21 23:05:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「愚か者めが!サケがまずくなるわ」タイクーンはサケを飲み干すと、髑髏杯をゴミめいて寵姫に叩きつけた。「ムフフ……ご機嫌麗しゅうございますな」ブッダデーモン像の陰から、今一人が進み出た。シテンノの一人、クセツである。 18

2019-06-21 23:10:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

黒い包帯で全身を覆った不気味なニンジャは、長い手で顎を擦りながら、主君に苦言を述べた。「技術革新にも耳を傾けられよ」「当然だ。私を何だと思っておるか」タイクーンが睨んだ。「惰弱者の目を見れば、それが革新かブルシットかなど一目瞭然!我は真贋を見極む!奴は詐欺師よ!」「ハーッ!」 19

2019-06-21 23:13:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

クセツはドゲザし、顔をあげた。「……して、こたびの遠征のご首尾は」「うむ。くだらん企業戦士のそっ首並べてまいったわ!」ナムサン!この勝利宣言は真実である。バンクーバーはネザーキョウの手に墜ちたのだ!ナムアミダブツ!今やアケチの国は世界に牙を剥こうとしていた! 20

2019-06-21 23:16:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私からも、ひとつ」クセツはほくそ笑み、指を立てた。ヘヴンリイはクセツを睨む。嫌っているのだ。「申せ。クセツよ」「例の件でございます」「あの何とかいう山師か。いつまで無駄な獄飯を食らわせておる。首を刎ねよ」「それが、幾つか聞き捨てならぬ物事を口にしまして……」「何だ」 21

2019-06-21 23:20:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

クセツの姿が歪み、次の瞬間にはタイクーンの傍らに立っていた。彼はタイクーンに耳打ちした。「ヌウーッ……」タイクーンは表情を変えた。「まあ、よい。好きにせい」「ハーッ!」 22

2019-06-21 23:23:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フェー……。見事な笙リードの音色が木々の向こうから聞こえてくると、村人たちの表情がいよいよ緊張に引き締まった。コトブキは頷いた。彼女はさきの妖精郷の姫じみた白いドレスにくわえ、白い花を髪にさし、唇に紅を引いて、可憐かつ魅惑的であった。 24

2019-06-21 23:26:17