一。

電車に乗る時は、他人の会話を聞くのが嫌で、イヤホンで音楽を聴いているのだけど、今日、ちょうど曲のフェイドアウトで音量が下がった時、側に居たサラリーマン二人組の会話から自分の名前が出てきて、え⁉︎と思いイヤホンの音量を下げた。全く見知らぬ二人で、向こうもこちらを見知った風ではない。
2019-05-30 11:44:52
同名の人がいるんだな、と思ったが、しかし、話に出てくるその人物のエピソードが自分と被る。 いつも変なドリンクを不味いと言いながら飲んでること、お昼にカレーを温めて臭いを充満させて顰蹙をかったこと…。 「いい人だったよね」 だった?過去形で語られてる? 「明日の告別式は××××」
2019-05-30 11:57:29
電車が鉄橋に差し掛かり、その後が聞き取れない。 間も無く、駅に着くと一人が降りていってしまった。 同名の、自分によく似た行動の、その人は死んでしまった? 自殺、事故、病気、どんな原因で? それは本当に自分では無い赤の他人なのか? 残った一人に訊いてみたかったが、出来なかった。
2019-05-30 12:05:30二。

子供の頃、自分と他人との境界は実は曖昧なのではないか、と半ば信じていた。 というのは、そう思える出来事が幾度かあって、覚えているものは少ないのだけれど、例えば…。 公園で遊んでいる時、お小遣いの100円を落としてしまった事に気がついて、友達にも探してもらおうと声を上げようとしたら、
2019-05-30 17:35:16
自分ではない、別の子が「お金を落とした!」と大きな声で言った。 自分も100円落としたんだと言いにくくて、黙るしかなかった。 子供にとって100円は、その日一日の娯楽を得る為の、大きなお金だ。だからこの事は、記憶に残ってる。
2019-05-30 17:41:08
他にも、こんな事があった。 授業中の誰も分からなかった問題の答えが閃いた時、別の生徒が手を挙げて答えた。それは、自分の思ったとおりの解答で、しかも間違っていたりしたのだった。 自分が思うことは、周りの誰かに伝播し、先を越されてしまうのだ。
2019-05-30 17:49:19
決定的にそれを痛感させられたのは、好きになった女の子が、いつのまにか、知らないうちに、一番仲が良かった友達と付き合いだした事だった。 そんな気配など微塵も無かったはずなのに。
2019-05-30 17:51:55
消えたい、死にたい、と思っていた時、昔の友人の訃報が届いた。 岬の先端からの飛び降り自殺と聞いた。 葬儀は、遺体が無いまま行われた。
2019-05-30 18:09:58三。

以前にもちょこっと呟いたが、子供時代の自分には妙な癖があった。 それは、自分が手に触れたと意識したもの、道に落ちている石ころとか木の枝とか、を持ち帰るというもの。 親もこの子、変なことするのよ、と困っていたようだ。
2019-06-20 02:16:56
これには理由があって、自分の痕跡が残ったものがそこに留まり、自分の知らない運命を辿るのが堪らなく寂しい事に思え、また自分が拡散されて行くような恐ろしさを感じていたのだ。
2019-06-20 02:20:38
ポケットに小石を詰め込み、親を悩ませていたのは保育園の頃だったが、実は話しても分かって貰えない事として、密かに、小学校に上がっても続けていた。
2019-06-20 02:22:55
その頃は、目についた形の石を持ち帰り、庭の一角に埋めるという風に変わってはいたが。 なにやら儀式めいていて、親から見たら不気味な子供だった事だろう。 経文というか呪文もあって、算盤塾に掲示されていた最小から最大の単位の名称を暗記して読み上げていただけだったのだけど。
2019-06-20 02:30:17
思えば。この頃から収集癖みたいなものが身についてしまったのかもしれない。 本やCDを大量に買い込んで、もはや残りの人生をかけてもそれらをきちんと読み聴く事が出来るのかも怪しくなっている。
2019-06-20 02:35:42
そんな遊びも、やがて止めざるを得ない時がやってくる。 ある日、事あるごとに意地悪をしてくる一つ年上の従兄弟に、儀式を見られてしまった。 親戚が来ているのを知らず、庭の隅で詠唱していて、従兄弟は二階の窓からそれを見ていたのだ。
2019-06-20 02:47:56
庭の隅で何しとった?薄笑いを浮かべて聞いてくる。 しまった!と思った。ちょうど飼っていたハムスターがその頃亡くなり、庭の隅にお墓を作って埋めたので、それにお祈りしていた事にした。 なんとか上手く言い繕ったものの、夕飯時にからかいネタにされた。
2019-06-20 02:51:20
親や親戚から亡きペットを悼む微笑ましい事として受け止められ、他愛のない話で終わったのだけど。 何年も続けてきた秘密の儀式がそれで終わってしまった事が残念で悔しくで仕方がなかった。 しかも、大嫌いな従兄弟のあいつのせいで。
2019-06-20 02:56:19
親戚が帰った次の日、従兄弟が入院する事になったと連絡が入った。 尿路結石だったらしい。 どうしよう。本当になってしまった。 願い、というか呪い、をした事を後悔した。 とても怖くなって、でも誰にも言えなくて、庭の隅に向かって、心の中でごめんなさい!ごめんなさい!と唱え続けた。
2019-06-20 03:06:27