怪談百物語（前）

cha_bo @cha_bo39

従兄弟の体で結晶した石はすぐに排出されて、お見舞いに行く前に退院した。

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庭の隅の、自分だけの神様の事は、その時以来忘れていた。 今年の春、帰省した時、ふと思い出して、ちょっと祈ってみようかな、と思ったけれど。

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子供の頃の話。夕方の犬の散歩が日課だった。 街灯が途切れた堤防の道はひと気も無く、一人では心細くて歩けそうもないが、犬と一緒なら何処にでも行けた。 土手を下った場所に竹林に埋もれかけた廃屋があり、もはや窓なども無くなっていて、土手から見下ろすと黒い闇が四角く開いている。 pic.twitter.com/bhqUupA0RH

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ふと、その廃屋に目を向けた時、スカートを履いた足がそこにあった。上半身は自分のいた場所からは見えない。 プリーツの入ったスカートは、どこかの制服のようだった。 こんな場所、こんな時間に何をしているんだろう。 怖くはなかった。犬がいたから。

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そこにいるのはどんな人か分からないけど、こんなところにいるのを他人に見られたくないだろう。 気がつかなったフリをして、横目で見ながら通り過ぎようとした。 そうしたら。 そこにいる足元に、もう一つスカートを履いた足が近づいて。 何故か急に怖くなって、真っ直ぐを向いて足早に立ち去った。

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そこで殺人事件があったとか心中があったとかなら怪談話になるんだけど、そんな話は聞かなかった。 日暮れ時の朽ちた廃屋で、女学生が何をしていたんだろうという疑問だけが残って、忘れられない思い出になっている。

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社会に出て二年目、勤めていた小さなデザインプロダクションが倒産し、次の職もなかなか決まらず、ビルのガラス清掃のアルバイトで糊口を凌いでいた時期があった。ビルの壁面をロープ一本を伝って降りる、大きなビルだとゴンドラを使う、アレだ。 危険だが日給は悪くなかった。 pic.twitter.com/AWHCu4ecHz

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都心の大きなビルでは大勢で作業をするのだが、郊外の小さな建物は少人数、時には一人で赴く。 交通に時間がかかるので、みな行きたがらなかったが、人付き合いが苦手な自分はむしろ有り難く、優先して一人の現場を回してもらっていた。 ある日の現場、厚木だったか相模原だったか、到着してみると、

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そのビルの窓にはブラインドがなく、どう見ても使われている気配が無い。 現場を間違えたかな？しかし、他にガラス清掃をするような建物はない。 当時は携帯が普及していなかったので、連絡方法もなく、とりあえず管理人室を探すと、どこからかナッパ服の老人が現れた。

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〇〇ビルワークですが、声をかけると、あぁとの返事。ここで間違いないようだ。 無言でビルの中に入り階段を上り始めるので、ついて行くと屋上に出る階段の踊り場にシンクがあり、バケツやロープ、ブランコなどの道具が置いてある。 くぃと顎をしゃくると、背中を向けて階段を降りていってしまった。

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無愛想というか、あぁしか言ってないぞ、あの人。強張ったように無表情だし。人嫌いなんだろうなぁ、だからこんなところに居るんだろう。 自分の将来を見たようで、暗い気持ちになった。 5階建の小さなビルだ。三回も降りたら外側は終わる。内側の清掃を合わせても、巧くすれば3時間で終わるだろう。

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本当は、外側のガラス清掃をするのなら、下にパイロンを立てて見張り員がいなければいけないのだが、あの管理人に頼むのはなんか嫌で、そもそも人が通りがかる事など無さそうな場所だったので、黙って作業を始める事にした。 丸めてあったロープを伸ばし、地上に下ろす。U字金具にブランコを取り付け、

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ロープを巻きつける。 ブランコはロープの摩擦と重さで固定される。ブランコに乗ってそれを緩めながら降りていくのだけど、低いビルだとロープの重量が足りず、ずり落ちる事もある。 ずいぶんとささくれたロープで、強度を確かめようと引っ張ってみると、ブチっと千切れてしまった。

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管理人を見つけて代わりのロープを出してもらわないと。 わざわざ探しに行くのも面倒だし、内側を先に終わらせて、場合によってはそれで帰らせてもらおう。 シンクに水を汲みに行くと、ジャッジャッという音がして、赤茶けた水か出てきた。 廃墟じゃないか！ とりあえず管理人を探すことにした。

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階段を降り、ついでにフロアを覗いてみると、ガランとして何もなく、照明もつかない。 この現場はおかしい！ 荷物を取りに戻り、引き上げる事にした。 駅から、事務所に電話を入れると。 午前中から待っているのに来ないとクレームが来た、という。 時間通りに着いたし、管理人にも会ったというと

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先方はカンカンだぞ、と怒鳴られた。寝坊したんだろい、昼過ぎに電話してきて、現場にいるならなんで今頃に電話してきたんだ！と詰問された。 やはり現場を間違えたかな、そう思ったら、あそこであった事を伝える気にもならず、すいませんと謝ってしまった。 バイトはその日限りでクビになった。

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後日、仲が良かった事務員しかいない時間を見計らって、貸与されていたツナギ等を返却に出向いた際、あのビルの事を聞いてみると。 契約はあれきりで切られたし、行った事が無いから分からないんだけど、という前置きがあった上で、あの辺のビルで清掃員の事故があったという話を聞いた事がある、と

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他の清掃会社から来た人が言っていたらしい。 ビルから落ちて、脚の骨とか粉々で、その時はまだ息はあったらしんだけど、一人で現場に入ったから通報も丸一日遅れて…。 野犬に襲われて、死体は食い荒らされていたって。 そんな現場を回すなよなよぁ…。

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通報するべきだったのかもしれないが、そんな噂話を持ち込むのは躊躇われたのと。 今月の給料は払わないと社長が言ってた、という一言で消沈して、そんな気力が無くなってしまったのだった。

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ガラス清掃をやっていると、何処そこで某が落ちて死んだという話も噂レベルではちょくちょく出る話で、それは清掃員ばかりではなく。 建設中のビルに入る事もあった。 その日は、間も無く完成するという西新宿のビルだった。 昼休み、休憩室で一服していると、他の会社の人たち、内装か設備か、の

cha_bo @cha_bo39

会話が耳に入ってくる。 こういう新しいビルは、必ず飛び降りする奴が現れるんだぜ。 初物好きってのかね。さぁ死のうって時に験を担ぐって馬鹿馬鹿しい話だな。 なんか今生に痕跡を残したいんだろうな。 それとも、新築は人柱を呼ぶのかな。 そういう奴って影が薄いっていうか、入り込んでも誰にも

cha_bo @cha_bo39

気がつかれないうちに屋上まで上がっちゃうんだ。スーッと。こんだけ人がいて誰にも気に留められないって、 悲しいよなあ。 新宿を、作業着で歩いていると、道端でしゃがみ込んでいても誰も気にしない。 目もくれないで通り過ぎていく。 それは自分も実感した。 僕ら、影みたいなもんだな、と。