10周年のSPコンテンツ!
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作者
なみあと@8/17宝石⑨出ます @nar_nar_nar

そこらによくいる兼業作家。【『宝石吐きのおんなのこ』1〜9巻ぽにきゃんBOOKSから発売中。他にも諸々】 お仕事のことなどはDMでお願いします twiprofile twpf.jp/nar_nar_nar

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本編
なみあと@8/17宝石⑨出ます @nar_nar_nar
「赤い糸切り師募集中――未経験者大歓迎!」新宿駅地下のコンコースに、そんな広告が貼られていた。 #書き出しだけ大賞
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服装と言えばシャツとジーンズ、色恋沙汰に縁もなければ色気もない「先輩」こと「私」と、男と見れば取り敢えず粉をかけるゆるふわ養殖天然「後輩」の、女子大生二人がお送りする都市伝説事件簿
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スマホ社会のご時世、この奇妙な広告は多くの人間によって撮られ、拡散され――すぐさまSNSで話題になった。 しかし奇妙なことに、広告には社名も連絡先も書かれていないのだった。そのことは間もなく誰かが気づき、「広告の意味がない広告」として揶揄された広告はさらに人の目に触れていくことになる。
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さて。張り出されて早々にそれを見た私はといえば―― ――我が人生、色恋にはまったくこれっぽっちも縁がないので、一切の興味を持つことなく素通りしていた。 憐れむなかれ。
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ネット上で話題になっているのも知ってはいたが、切りたい縁どころか繋がる縁の一本にも心当たりがない私としては、ただ「阿呆な企業もあるものだ」「就職活動を始めても、訪問先にはまず選ばないだろう」と思うばかりだった―― ――泣きわめく後輩が私の所属する研究室へ飛び込んでくるまでは。
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「先輩! せんぱぁぁい!」 研究という二文字にそぐわない甲高い声が、私しかいない研究室に響き渡った。 ふわふわ白いワンピースの上に薄手のニットカーディガンを羽織った彼女は、自らの外見の活かし方を熟知している。ブラウンに染められた長い髪も、彼女の武器の一つだ。
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しかし今、せっかくのワンピーススカートは研究室のカーペットに無残な広がりを見せ、カンバスよろしく塗り込まれ作られた顔は涙でどろどろに溶けつつあった。 「おい」 後輩を案じた私は、おそるおそる声をかけた。 「お前、顔、やばいぞ」 「傷心の後輩になんてこと言うんですかぁ!」 間違えた。
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「かわいい後輩が泣いているのに、なんてひどいこと」 どろどろだらだら涙を流す後輩は、当方を非難しているのか小馬鹿にしているのかわからないことを言う。余裕あるようにも思えるが、鼻水までつたっているところを見るために、彼女お得意の、男を籠絡するためのそれではないことはすぐにわかった。
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サークルクラッシャーだとか寝取り女だとかいう不名誉極まりないあだ名を持つ後輩には、同性の近しい人間がほぼいない。 強いて挙げれば私くらいなものだが、なぜ私には彼女の毒が効かないのかというと、異性にはまったく縁のない人生であるという谷よりも深い深い事情があるが今は割愛。
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ともかく、なぜだか私はこの厄介な後輩に懐かれてしまっている。 「今度は何をしたんだ」 ため息をついて、私は話を聞いてやることにした。 すると後輩は、ふげぇ、と喉を鳴らし、一言。 「ふられました」 珍しいこともあるものだ、と思った。彼女が殿方を袖にすることはあれど、男の方から彼女を
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あしらうことがあるなんて。 良い灸を据えてもらったのではないだろうか――しかしこの取り乱しようだ、先輩としては、彼女の普段の振る舞いはひとまず置いて、まず慰めてやるべきだろう。 「なぁ」 「……はい」 「赤飯買ってきてもいいか」 「傷心の後輩にぃぃぃ!!」 間違えた。
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「だいたいお前、そんなのどうってことはないだろ。普段から二股だか三股だかしてるじゃないか、そのうちの一人がいなくなったって」 先日、三号と別れたと話すのを、レポートを書きながら聞いた覚えがある。常日頃から取っ替え引っ替えの彼女にとって、その程度痛くもかゆくもないはずだ。 しかし。
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「……いんに」 「え?」 蚊の鳴くような声は、一度では聞き取ることができなかった。 眉を寄せ、聞き返す。 後輩は勢いよく顔を上げ、八つ当たりのようにこう叫んだ。 「七股かけてた全員に! 一斉にふられたんです!!」 ……。 「ちょっとホールケーキ買ってくる」 「先輩ぃぃぃぃぃぃ!!」
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「ほぐぅ、ほぐ、ほぐ…」 あれからなんとか落ちついた後輩は、泣きながら鼻水をすすりながらフォークをホールケーキに差し込むという、忙しない作業をしている。 「ほんとは真ん中にもイチゴがあるのが好きなのに…男の子たちなら絶対黄桃のやつなんて買ってこないのに…」 「文句があるなら食うな」
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わがままなお嬢である。わざわざ先輩が買ってきてやったというのに、ホールを丸のまま一人で頬張っている。 全部くれてしまうのも癪で、私は彼女のフォークが侵食していないところを一口、割り箸で食べた。 「それにお前、本当に好きなのは芋焼酎じゃないか」 「カシスミルクですぅ!!」 嘘をつけ。
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「天罰だろ」 私は足を組み替えながらつぶやいた。 「普段から男取っ替え引っ替えしてたから。そのツケが来たってことじゃないか」 「失礼な! 昔の人だって言ってるじゃないですか!」 「何て?」 「金持ち、チャラ男、それから年下――みんな違ってみんないい」 「金子みすゞに謝れ」
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いちいち付き合う義理もないのだと気づいたのは、そのときだった。 「もうお前、帰れ。もしくは真面目に授業に出てこい。私は忙しいんだ」 「課題ですか。副業の方ですか?」 「副業の方だ」 私は学生として大学に通う傍らで、学生作家として小遣い稼ぎをしている。彼女はそのことを言っているのだ。
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一回生の頃、あまりにも講義が退屈で、時間潰しに書いてしまった小説。それを気まぐれに公募に出してみたら、何の因果か因縁か、小さな賞を掻っ攫ったのだった。 世の中何が当たるかわからないもので、それ以来、学生作家として原稿を書いては、多少の金を貰っている。
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今書いているこの文も、いずれ私小説として小遣いになれば御の字と思いながら書き溜めてはいるが、世の中そううまくいくかどうか。――というのは私の話だからどうでもいい。
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原稿が彼女を追い払う口実になるのなら。わたしは、しっしっと手を振った。 「そうとも私は作家先生だから忙しいのだ。帰れ帰れ」 しかし後輩は口をとがらせる。 「私が来る前から、書く気なんてなくなってたくせに」 「そんなことない」 「ワード、タイトルすら入ってないですよ」 進捗ダメです。
なみあと@8/17宝石⑨出ます @nar_nar_nar
「いいから私の話を聞いてくださいよ、先輩。――犯人はわかっているんです!」 「私にもわかるぞ。犯人は、お前に男を寝取られた女の一人もしくは複数人だ」 「違います。そもそも、そんなの絞れてないも同然じゃないですか」 お前いつか女に刺されるぞ。と茶々を入れたくなるのをこらえる。
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